雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

マリアビートル/伊坂 幸太郎

2010-12-08 | 小説


 よくもまあ、東京から盛岡までの間の新幹線での出来事をこれほどまでに面白おかしく、且つ感慨や驚嘆を盛り込んで描けるものだと、ただただその力量に脱帽はおろか頭の皮までずり落ちる勢いですわ。
 これほどまでのトレインエンターテイメント(そんなジャンルがあるのか知らないけれど)は読んだことがない。というか、あまり列車関係の小説は読まない。誰だったっけ? あの時刻表トリックだのなんだので何十冊もだしてるオッサン……。
 まあ、それはそれでいいとして、この物語はそんなありきたりの列車ミステリとかではなく、とにかく、なんだろ? もう「伊坂幸太郎」ってジャンルだな。完全に確立してしまってるわ、この人は。もうここであーだこーだ言うよりも「とにかく読んだほうがいいって」と、人に薦めたくなる。
 この『マリアビートル』に限らず、伊坂幸太郎の作品はとにかく間違いがない。そんな作家、他にはいない。
 
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妻の超然/絲山 秋子

2010-12-08 | 小説


 絲山秋子、久しぶりの新刊。
『超然』三部作、「妻の超然」「下戸の超然」「作家の超然」がおさめられた一冊。
 ……なんかもう、タイトルからして「グッ」ときてしまうことこのうえない。特に「下戸の超然」とか。だいたい、日常生活において「超然」なんて言葉、遣う場面なんてそうそうないでしょう。実際、このタイトルを見るまで「超然」なんて言葉忘れてたもん。そこにきてこのタイトル、それだけで凄まじい作家さんだなぁ、というかやっぱりあなどれない人間だなぁ、絲山……と思った。
 もちろん、タイトルだけではなく、その内容もかなり「超然」としていた。(そりゃそーだろ)
「超然」の意味を知るうえでもまったくもって辛辣かつ感慨深く味わえる。
 絲山秋子の本を読んだあと、いつも思うことなのだけれど、「ああ、本当にいいものを読んだなぁ」というのが、今作は絶大にまとわりついてきた。
「作家の超然」などは、自分は彼女のサイトでの日記などを読んでいて、その病状や経過などを知っていたのでぐいぐいと入ってきたし、「妻の超然」や「下戸の超然」での辛辣さ(というか「超然さ」)はひしひしと心を押してくる手ごたえを覚えた。

 とにもかくにも「超然」な一冊。ここらで「ぴしっ」と身を引き締めたい人は、読んでおくにこしたことはない。
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空の冒険/吉田 修一

2010-12-08 | 小説
 いくつかの短編とエッセイによって構成された一冊。
 本当に、この人は巧い小説を書くものだ、と改めて思い知らされた。まったくもって短編というにも短い、掌編の中に胸中を焦がす、というか、心の隙間をいじらしくさせられる話がいくつも連ねてあった。
 そして旅を中心にしたエッセイ。旅行記とはまた違う、作者の内面を何気なくこぼしたような旅エッセイはなんだか凄い作家さんが近しくなったような感じがして微笑ましかった。なにより、最後の自著『悪人』についての章などは非常に興味深くあった。
 だが、前半部にあまりにも良質な章編集があったがために、後半部のエッセイではいささか本音が出すぎているのか(いやまあ、そりゃエッセイなんだから本音を書くのだろうけど)一冊の本としてはまとまりが悪いような気もしたことは否めない。
 しばしばこの作家は「お洒落作家」の代名詞として取り沙汰されたりもするが、特に鼻持ちならない言葉や表現を遣ったりするわけではない。それでいて「なんだか洒落ている」と匂わせるのは、やっぱり作者本人が洒落ているからだろうか? とも思っていたが、エッセイを読むかぎりではそうでもなさそうだ。ただ、生きること、書くことに対して自分なりの余裕を持っている人なのだろうな、そういところから滲み出るものがあるのだろうな、そんなことを感じられたエッセイはよかった。
 それなので、好い意味で「ヘタクソなエッセイ」は身近に感じられるのである。
 もちろん、小説は一級品であることに間違いはない。
 さしでがましくもあるが、次作はエッセイはエッセイ、小説は小説、の一冊で出したほうが良いと思われる。
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