雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

乱反射/貫井 徳郎

2009-03-30 | 小説
≪ひとりの幼児を死に追いやった、裁けぬ殺人。街路樹伐採の反対運動を起こす主婦、職務怠慢なアルバイト医、救急外来の常習者、事なかれ主義の市役所職員、尊大な定年退職者……複雑に絡み合ったエゴイズムの果てに、悲劇は起こった。残された父が辿り着いた真相は、罪さえ問えない人災の連鎖だった。遺族は、ただ慟哭するしかないのか? モラルなき現代日本を暴き出す、新時代の社会派エンターテインメント! ≫

 貫井徳郎の、所謂「社会派」的作品を読み終えると、毎回なんらかの問題意識を抱かされる。あるときは宗教だったり、あるときは未成年犯罪だったり、またあるときは、復讐だったり。とかく現代社会に蔓延る問題を濃密な筆致で描き、読む者の心根を鋭く抉る。
 そしてその、最たる作品がこの『乱反射』であろう。

 少なからず、誰もが犯しているであろう日常の些細なモラルの逸脱が、取り返しのつかない大罪を招く。読んでいて、心底「ゾッ」とした。まさに社会全体、人間全体を問いただす、衝撃作。
「運命の悪戯」と、一言で片付けてしまえばそれだけかも知れないが、誰かが一人でも、まっとうなモラル意識を保っていたなら、防げた事故。しかし、それも、事が起きた後だからこそ気付くジレンマ。やり切れなさの中で苦しむしかない。

 もう、どうしようもないくらい苦い作品(だいたい貫井作品はそんな感じか)なのだが、小説的、エンターテーメント的見地から読めば、とにかく惹き込まれる。前半は事件の要因を担う人間たちの日常を、その中で起こすモラル違反が丹念に描写され、中程、事件が起きてからの勢いがもの凄い。被害者の父がその真相を追っていく姿、事件を引き起こした人々の身勝手極まりなさを、これでもか、と曝け出していく。もう、とにかく、終盤に向けて読む手が止まらない。



 これは、正義とか悪とかの話ではない。政治や組織などの大きな話などではない。まっとうな社会生活を送るための最低限のルール、モラル、それらを我々ひとりひとりが、どう受け止めて、どう受け流しているか、という話だ。
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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ノロモン)
2009-03-31 01:23:32
メッチャ!楽しみやな~♪明日よろしくお願いします。ちなみに君の願望を叶えてしまうと女性客がいなくなってしまいます★って言うか、俺お縄になってしまいます。 って、Mのお縄じゃないぞ。
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Unknown (ノロモン)
2009-04-04 12:46:44
読んだぞ。重いな~ 偏った視点だけからじゃないとが、より悲壮感を感じてしまうな。最後の主人公のコンビニのおにぎりのとこはしんどくなったわ。
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Unknown ()
2009-04-05 13:01:33
おおっう!ノロモンがマトモなコメント書いてるよ(驚愕!

オレ的にはラストは「そこ」(コンビニおにぎり云々)で終わったほうがいいんじゃないか?と思ったよ。だけどそれじゃあ救いがないからかな?昔の貫井ならきっと「そこ」で終わってたよな。まるくなったんかな?

こういう群像小説はやっぱ筆力がものをいうね。その辺は、申し分なしだよな。
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