雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

ボーダー&レス/藤代 泉

2010-04-01 | 小説
 率直に、いい小説だなあ、と思った。
 
 もう、読み終えた後これくらいの、というかこの感想がいちばんしっくりくるので、他に書きようがない、そんな「いい小説」である。しかしそれでは宿題の読書感想文などでは×がつくだろうし、なにが「いい」のか書きなさいとか言われちゃうだろうし……なのである。
 では、なにが「いい」ってゆうのを書こうとすると、自分の拙い文力では、なんだかお為ごかしになってしまいそうで書きづらい。いやなんかそう言ってる時点で欺瞞だ。
 とにかく思うところがある。でもその思うところを公に言い募れるほど自分は強くもないし、偉くもない。でもそんなこと言ってちゃ、もう何にも言えなくなるだろう。でもそんな言えないことにも意味はあるのに。意味は表に出なければ意味にはならないのか? そうでもないだろう。他人と共有、もしくは衝突することばかりが意味ではなく、己の裡に宿った思惑、衝動、観念etc……それらが無意味になるものか! 従ってこの本を読んだがために我が身に湧き起こるそれらを殊更曝け出す必要があろうか? ない。
 いや、「ない」などと言ってしまっては元も子もなかろう。ただ、その他の言が見つからないのだ。
「いい小説であった。」
 それだけでもいいではないか。それだけでいいではないか。それだけでいい。が、まがりなりにも書評めいたことを主とするものならば、せめてあらすじくらいは書いておいたほうがよいと思われるが、それもまた、ここまできたらなんだか無粋に思われるので、よしておく。

 さて、もしもここまでくどくどとしたコレを読まれた方にはお解かりいただけると思うが、まったくもって、今回読んだ本書については書かれていない。それはとりもなおさず、拙者の力不足に他ならないのであって、本書にはなんら罪はない。罪どころか、本当に、いい小説なので、自分の拙い言葉で貶めたくないという言い訳を、今思いついた。

 とにかく、自分の想いや考えを率直に表に出すのは、とても勇気のいることだし、軽率に言い募ることではないな、と。ただそれでは意思の疎通もままならないので、ある程度の思慮でもって、自分の考えを表さなければいけない。そんなことを思い巡らされた一冊である。
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