雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

物語が、始まる/川上 弘美

2010-02-27 | 小説
 とにかく、書き出しでやられた。

≪雛型を手に入れた。何の雛型かというと、いろいろ言い方はあるが、簡単に言ってしまえば、男の雛型である。≫ (物語が、始まる)

「雛型」である。しかも「男の雛型」。もう、初っ端からすごい。惹き込まれる。いったいどんな話だよ? ってなる。

 基本的にはあり得ない話(本人曰く「うそばなし」)ばかりの短篇集なのだが、物語の登場人物たちは特に驚くでもなく、淡々と、粛々と、その世界で生活する。それがなんだかとても緩やかで、読んでいるこちらもさほどの違和感を覚えることなく、気付けばその世界に包み込まれている。
 まったく、狐につままれたような具合だ。

 もちろん書き出しだけではなく、作中の言葉ひとつひとつに、何くれとなくやられる。
『婆』という作品中の主人公の言葉。

「鯵夫、ずいぶん好きよ」

 もう、身もだえするくらい、好い。
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