能登半島の先端・珠洲(すず)に暮らす漁師の友だちから
活きのよいさざえが届いた。
さざえはわたしの大好物。
能登の海で、さざえの刺身を初めて食べたときの感動は忘れられない。
こんな美味しいものがこの世にあるのかと思った。
目のまえの海でとったさざえを刺身で食すのが最高の幸せだけど、
湘南にいると、なかなかそうもいかない。ただ、
ありがたいことに能登からさざえを送っていただくことがあり、
ほぼ1日たっているとはいえ、それも十分に美味しい。
もっとも、生きたさざえと格闘して刺身にするのは
慣れるまではけっこう至難の業だった。でも、
じぶんで刺身にできるようにならないと刺身は食べられない。
だから能登では名人が刺身にする手もとをじっと見つめたし、
コツも伝授してもらった。好きこそものの上手なれ、
回を重ねるうち、いつの間にかできるようになっていた。
コツの第一は、殺気を悟られない気軽さでさざえを手にとり、
小さなフォークかスプーンを貝柱に一気に刺して、とにかく切断すること。
これに失敗すると、さざえはフタをきつく閉じてしまう。
そうなると、そのさざえにはしばらく手がだせない。
貝柱がどこにあるかといえば、フタの渦巻きの根元あたり。
写真を見てもらえば、渦巻きの根元あたりからは
さざえが顔を出していないことが分かるだろうか。
貝殻から中身をとりだしたら、まずは肝をきりおとし、
身は塩でよく揉んでぬめりと汚れをおとし、流水ですすぐ。
身にはイカの口に似た口があるのでそれを切りはずし、
包丁で薄くきっていく。
肝は、なかほどにある渦巻き模様のところで切り、
そこから先の部分を包丁でたたく。
なめらかになってきたら酢と味噌を加え、
さらにたたいて、なめらかにする。
醤油のかわりに、このたたいた肝の酢味噌和えで
さざえの刺身を食べるのが通だとか。
とはいえ、わたしはワサビ醤油で食べるのが好き。
通の道を極めることより、好きな食べ方を選びたい。
あらためてさざえを眺めてみる。
色といい形といい、なんて複雑で、なんて綺麗なんだろう。
送ってくれた友と、さざえをはぐくんだ海に感謝を。
そういえば、テトラポットはさざえ貝の形を模していると聞いた。
むろん造形美のためではなく、機能性のためだけど。
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