少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

黒牢城

2022-05-14 07:00:00 | 読書ブログ

黒牢城(米澤 穂信/角川書店)

最近、ファンになった作家の直木賞受賞作。意外に早く図書館で借りられた。

本能寺の変に先立つこと4年、織田信長に背いた荒木村重は毛利の参戦をまって有岡城に立てこもる。命を賭して説得に来た黒田官兵衛を、村重は殺すことも解き放つこともせず、土牢に押し込める。

という歴史的事実を前提に、籠城の重い空気の中で、村重と官兵衛とのやりとりを通じて、物語は動いていく。

作者が構築した「謎の解明」は、幾重にも及ぶ。まず、城内で起こる4つの事件の謎。それを放置することは、傘下の武将たちの士気の低下を招き、敗北に直結する。思い悩んだ村重は官兵衛の頭脳を借り、官兵衛は、一種の「安楽椅子探偵」の役割を果たす、という趣向だが、単なる趣向ものにとどまらないのがこの作品のすごいところ。

4つの事件の背景にある、より大きな謎。また、官兵衛がなぜ、敵である村重に知恵を貸したのか、という謎。これらに加えて、作者はさらに、「なぜ、村重は信長に背いたのか」「なぜ村重は〇〇したのか」という、歴史上の謎にも、一定の解釈を示してみせる。(○○の部分は、史実を詳細に知らない読者(私のこと)にはネタバレになると思うので、伏せておきたい。)

これらの謎が、精密な寄木細工のように組み合わされ、最後まで、息をのむような緊迫感の中で物語が進んでいく。謎の解明は非常に鮮やかで、史実と矛盾しない、むしろ、真相を言い当てているのではないかと思わせるところが、本書が高く評価されている理由だと思う。

まあ、それでも私の好みは『巴里マカロンの謎』のような作品のほうに偏っているのだけれど。