いまだ成らず(鈴木忠平/文藝春秋)
久しぶりの将棋本。以前に紹介した『証言 羽生世代』とは別の視点で、羽生善治さんに焦点を当てて記述された、棋士たちの群像。
羽生さんにとって節目となる対局、特に、藤井聡太さんとの王将戦を取り上げつつ、羽生さんとかかわった人々の思いを描いている。
棋士として取り上げられているのは、藤井さんのほか、次の方々。(敬称略)
米長邦雄 豊島将之 斎藤慎太郎 谷川浩司 森内俊之 先崎学 室岡克彦 佐藤康光 深浦康市 渡辺明
そのほか、新聞社学芸部の記者、カメラマン、将棋道場の経営者、元奨励会員の観戦記者(後に競馬記者)、関西将棋会館職員、記録係の奨励会員も登場する。
文章は一貫して登場人物たちの視点で、その内面も含めて語られる。いわゆる「神の視点」だが、ノンフィクションでそれが成立するためには、関係者の了解と、深い取材が求められるはずだ。
多数の登場人物を通して描かれるのは、さっそうと将棋界に現れ、七冠を制覇して将棋界の幾多の記録を塗り替える活躍をした後、藤井さんとの王将戦に敗れた後までの、羽生さんの棋士としての生き方と、その間の将棋界の動向。
羽生さんについての理解を深めるだけでなく、さまざまな立場で将棋に関わる人々の、さまざまな想いを描き出す内容になっている。
いわゆる「読む将」として、読み応えのある作品。
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