シルバービュー荘にて(ジョン・ル・カレ/早川書房)
21年1月に紹介した『スパイは今も謀略の地に』がジョン・ル・カレの遺作だと思っていたが、その後この本が出版されていることに、最近、気が付いた。
息子による「あとがき」によれば、父との約束に基づき、ほぼ完成形で残された原稿を出版した、とのこと。
2人の人物が交互に描かれる。不審な情報に接した保安機関「サービス」の責任者。競争の厳しい金融業の世界を引退し、書店を始めた男。その関係がよく理解できないうちに話が進み、次第に、ある人物に焦点が当てられていることに気が付く。
いわゆるスパイ小説らしい派手さはない。作品としては、『スパイは今も・・・』や『繊細な真実』に近いものを感じる。
この作品が生前に発表されなかったのは、おそらく息子の推測が的を得ているのだろう。
スパイ小説について語っていると、あの国やこの国の悪口を言いたくなるが、それを我慢して少しだけ感想を。
結局、その男のことを一番理解していたのは娘だった。
書店主は、よいスパイになりそうだが、その物語を書く人はもういない。
なお、息子はニック・ハーカウェイ。(22年7月に紹介した『エンジェルメイカー』の作者)
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