長野市で進んでいる古民家再生工事。
只今、絶賛断熱工事中でございます
勾配屋根断熱 セルロースファイバー ブローイング中
この夏の猛暑の中、
屋根工事と同じくらい暑く過酷な断熱工事です。
断熱材はセルロースファイバー。
栖風采プランニングの定番な断熱素材
新聞紙から出来ている断熱材で
気密を確保しにくい古民家には相性が良い断熱材だと私は考えて採用し続けております。
形のない屑状の断熱材なので、断熱専門業者さんに断熱施工をして頂きます。
なので、なかなか敷居の高い?断熱仕様にはなるかもしれません。
セルローズファイバーは一般販売されてませんし、ブローイングの道具も専用機械ですから
大工さんは出来ませんし、もちろんDIYも出来ません。
断熱専門業者さんにお願いしてまでやるような断熱仕様を採用するのには
幾つか理由があります。
一番の理由は、古民家だから
新築だったら何も断熱材をセルロースファイバーに拘る必要は無いと思います。
要は、防湿気密施工が完璧に出来るような建物であれば
別にセルロースファイバーでなくてもいいと思っています。
古民家はどうなのか?
古民家では完璧な防湿気密は出来ない、と私は考えてます。
出来ないから、セルローズファイバー、という選択です。
防湿気密って何?!と思われる人もおられるかと思います。
専門性の高いブログを目指しておりませんので詳しくは説明しませんけども、
寒冷地では、繊維系断熱材(グラスウール等)を使う場合、
防湿気密シートを室内側に張らないといけません。
しかも防湿気密シートは切れ目なく連続して隙間なく張る事が求められます。
古民家のような まっすぐではない、角材ではない材、様々な自然素材で作られている空間に
切れ目なく、連続して、隙間なく、防湿気密シートを完璧に張れるのでしょうか?
完璧な防湿気密とは、
例えていうならば、食品のプラスチック個別包装を思い浮かべてみてください。
賞味期限が刻印されプラスチックで個別密閉包装されたパンとか。例えばですけども。
もし、何らかのミスで密閉包装が出来て無かった場合
(以前実際に密閉の不良の和菓子にあたってしまったことがありました)
包装内部に空気や水蒸気が出入りし賞味期限前にカビたり腐敗してしまいます。
もしこれが、プラスチック包装ではなく、昔ながらの紙袋包装だったとしたら、
そのまま放置していると、パンならば知らぬ間に乾燥してカチカチに干からびることでしょう。
(これも経験済み 笑)
食品保存の観点から考えてみると、包装に瑕疵が無かったとしても
プラスチック包装にしろ紙包装でも消費期間を過ぎれば
どちらも食品としては安全に食べられない状態になりますが
長期間放置した場合、プラスチック包装の食品腐敗と、紙包装の食品乾燥とでは状態が違います。
建築の場合、
断熱材の室内側に防湿気密シートとしてビニール素材を使う考えは
(これを防湿層といいます)
室内で発生する水蒸気を断熱材内部に入れない事を目的としているため完璧さが求められています。
もし防湿層に隙間や穴が開いてしまっていては、断熱材内部に水蒸気が出入りしてしまい、結露のリスクが高まるのです。
ビニール素材と結露の組み合わせは木造にとっては最悪です。
ここで思い浮かべるのが、先程の食品の包装の話。
食品と木造建築を同じに捉えてはいけないとは思いますけども、
プラスチック包装による腐敗と、紙包装の乾燥。
乾燥の方が断然、いいですよね。
古民家に完璧な防湿気密、まるで食品のプラスチック包装みたいなことなんて
そもそも無理
と思ってますので、
古民家を長持ちさせたいがために敢えてビニールを使った防湿気密はやらない、という姿勢で臨んでいます
ただし、気密用のペーパーバリアはやります。でも防湿はやらない。
しかし、防湿をやらないのなら水蒸気が断熱材を出入りしますので、
断熱材の裏側での結露のリスクは常にあり、策を考えないといけません。
あともう一点、防湿層について疑問に思っているのは、
断熱材の室内側だけ防湿しても、外壁側に通気層を設けている限り、
水蒸気の出入りを完全に止める事は出来ないと思っています。
更に日本的な建築であれば、真壁という柱の見える構造を活かそうとすればするほど、
建物自体の気密だけでなく、壁自体の気密も難しく、
断熱材の室内側だけ防湿しても他に隙間があるので意味がありません。
ビニールによる防湿層は結露した場合、建物に害しかないとさえ思っているので、
慎重に断熱材を選定し施工していく必要があると考えています。
ちなみに
大壁で古民家の外壁内外全て多い隠すような改修デザインなら
完璧な防湿気密施工が出来なくもないかもしれませんけども
それって古民家の風情もへったくれもない、現代的なものに変容してしまいますので
それもやりません。
では防湿気密施工が出来ないとどうなるのか。
床下、壁の中、天井裏に水蒸気が出入りする状態になる、という事です。
室内から床下・壁の中、天井裏に水蒸気が入ってしまうと
高断熱仕様であれば床下や壁内、天井裏で結露しやすくなりますので
対策としては
床下、壁の外側、天井裏を通気良くすると共に
吸放湿性のある建築材料を使っておく、いう考えです。
あとは少し専門的になりますが
材料の透湿抵抗値のバランスを考えて材料を考えます。
合板などはよく使われる材料ですが、あれが結構、湿気を通しにくい材料なため、
ビニール程ではありませんけども、
木造建築には本当はあまり相応しくない材料の一つとして私は考えています。
湿気を通しにくい合板って、通しにくいがゆえに
常に相対湿度の高い部分(温度が低い部分、床下回りなど)
に使われると湿気っぽい状態が続きます。
と、どうなるかといいますと、脆くなりますし、カビや木材腐朽菌が発生しやすくもなります。
解体現場を経験すれば、建材が劣化してどうなるかって分かるのですが、
新築や計算ばかりしている分野の人には計算至上主義みたいになっていて
性能だけで材料を判断しがちなため、耐力壁に合板とか平気です。
耐震補強とかに合板を使っている事例もあるのですが、湿気が無いような所ならいいですけども、
そもそも湿気をコントロールすること自体が難しいのに
湿気に弱い合板のような材料を、強度があるからと耐震に使うなんて考え、私には理解できません。
ので、合板は下地には使っても、構造上、重要な部分には使わないという考えで現在は設計をしています。
ということで、話は長くなりましたが
今のところ、断熱材としては古民家にはセルロースファイバーかな、
というところで落ち着いている感じです。
ただ確実に経年でセルロースファイバーは吸湿します!
実はワタクシ、セルロースファイバーを始めて使う時に
素材の実験として布袋にセルロースファイバーを入れてお風呂場にずっと吊るして置いておきました。
2年くらいかな?
どうなったかといいますと、
吸放湿はずっとしていたとは思いますが、一旦吸湿してしまえばフワフワな膨らみは減りました。
恐らく、防湿気密が取れてない建物に施工したならば、
セルロースファイバーがフワフワなまま持続する事は無理じゃないかな、と思っています。
と、どうなるか。断熱性能が落ちます。
なので、吸湿して断熱性能が落ちてもいいくらいの厚みを入れておかないといけません。
それってどんな理屈なんだ?って言われそうですけどね。
性能を重視する人ならば、吸湿することを前提にして断熱材を考えないと思います。
ただ、私としましては、性能よりも健全に建物が存続することが大事なんです。
これが古民家に携わる者として譲れないところ。
セルローズファイバーが吸湿してフワフワで無くなっても、そこは元新聞紙(笑)
手前味噌な吸湿実験ではカビたりするようなこともなかったので
私としては木造建物には害のない素材として勝手に認定しております。
ただなにがなんでもセルロースファイバーがいい、とは言いません。
私は硬質ウレタンフォーム断熱材も使いますし、炭化コルク、羊毛なども使っています。
適材適所が大事だと考えています。
あと、断熱とは別の話になりますが
私共では古民家の防腐防蟻として、ホウ酸を使った防腐防蟻処理用薬剤を使っています。
(夫が認定施工店)
セルロースファイバーもホウ酸系薬品にて処理されていますから、類友かなと(笑)
私共が使っているセルロースファイバーは、日本製紙のスーパージェットファイバー。
栖風采プランニングも夢創も取扱事業所として掲載されてます。
土台周りの木部にはホウ酸系防腐防蟻処理用薬剤、
加えて床の断熱材にもホウ酸系薬品処理された断熱材、
全部がホウ酸系で守られているようなものです。
もちろん、これで絶対、白アリ予防になるとは言えないとは思いますけども。
土台・大引・床下断熱押えの板、ホウ酸系防腐防蟻薬剤散布
ということで、断熱材の選定一つとっても深い理由があったりします。
それもこれも設計事務所ですから、しつこいくらい色々考えます(笑)
更に施工上の納まり等考えていかないとなりませんので
断熱材一つとっても、結構、難しい話ではあります。
なので、DIYを除いて、
設計事務所や工務店に家づくりを依頼するのではれば、
中途半端な安かろう悪かろうなやっつけリフォームではなく
やっぱり、あの時、頑張ってやった甲斐があったね
と言われるような仕事を提供したいものです。
実際、3年前に引き渡した古民家再生のお施主さんから最近ですけども、
やった甲斐があったわ、と言われてほっと胸をなでおろしました。
この件についてはいずれ改めてブログに書き記したいと思っています。←書く書く詐欺なことも多いですが^^;;
大工さんにとっては、このようなブローイング方式の断熱材は
断熱施工の納まり上、気流止めも含めて適切な下地作りを要求されるのでとても面倒だと思います。
特に古民家なんて。
現場監督が納めを大工さんに指示するのですけども
それでも毎度毎度、古民家の状態が違ったり、設計内容が違ったりするので
私の現場ではあーだこーだと 大工さんVS現場監督=漫才のような喧嘩状態(笑)
実に大変そうです。
って、どこか他人事になってますが、
設計者が適切に納まりを指示しないと本当はいけないところ
夫が現場監督やってくれてますので、そこは現場監督に任せておりまして
私はいつも二人の漫才を聞きながら現場監理をしています^^;;
8月には3回、断熱施工が行われまして、いつもように張り切って現場へ行って参りました!(笑)
こちらは2階 屋根裏部屋な子供部屋
茅葺屋根の屋根裏を利用して子供部屋にしていますが、
茅があったとしても、天井には断熱材を施工します。
2階の床にも断熱材をいれます。
2階の床は1階の天井でもあり、1階と2階の間に断熱材を入れることで
1階と2階の室内温熱環境をお互いに影響しにくくしています。
なんで?!って思われるかと思いますが、
1階は暖房をして、2階は暖房をしない場合があると思います。
そのような場合の対策として、2階床には必ず断熱材を入れるのが栖風采仕様です。
冷暖房計画と合わせて断熱ゾーンを計画するのですが
そもそも断熱ゾーンすら考えられてないリフォームやリノベーションが多いですよね。
以前、ご相談を受けた中には新築なのに断熱ゾーン設計が出来ておらず
結露に悩まされてた方もいらっしゃいました。
これも説明すると長くなりますのでやめておきます。
ただ、これだけエネルギーが高騰していけば、古民家のような隙間だらけの家は
快適さを求めれば冷暖房費が大変なことになるのは目に見えてます。
今こそ、歯を食いしばって断熱改修の費用を捻出しましょう。
張りぼて、見栄えだけの古民家低予算リノベ、後で後悔します。。。
なんて強気発言ではありますが、
こちらの古民家再生工事では予算上、外壁の断熱材はやめました。
(土壁の無い部分には断熱材を入れてあります)
これも、苦渋の選択ではありましたけれども、後で外張り断熱をやろうと思えば出来ますので
そういう可能性を残して止めた経緯があります。
外壁の断熱材を中止しても断熱改修費用は1本に近いです。
光熱費、これからのことを考えると心配ではありますが、
1階2階床と天井には全部、断熱材を入れますので、どうにか頑張ってもらいたいところです。
前振りが長かった!
今回のブログの本当のメインは、本当はこれだったのですが最後になってしまいました(笑)
セルローズファイバーのブローイング施工様子のショート動画。
最近、Instagramにリール動画を投稿するようになりまして
インスタをされている方はどうぞ私のインスタ(リール)を覗いてみて下さいね。
断熱工事は8月では終わらず、引き続き9月も施工中です。
この暑さ、いつまで続くのかと憂鬱になってましたけど
9月に入ってからは朝晩は涼しくなり、熱帯夜♬も終わりになってきましたね。
それでも今日(9/19)は日中、車の温度計は外気温38℃を表示してましたよ
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