江ノ島つづき
さて、それで弟よ。わたしはね。弟とは19年ぶりなの。おばあちゃんが死んだ時のお葬式とその前の従姉妹の結婚式で、ちらりと顔は見たんだけど。わたしずっと家族と最悪だったから、まったく喋らなくてさ。わたし、弟の声を19年間聞いてなかった。だから、すごくどきどきして、泊まるつもりで取った恵比寿やさんという旅館のご飯を前にしてすごくどきどきしてた。すると、すーっとと襖が開いたのね。私「あ、どうぞ。どんどんご飯並べてください。あとビールとウーロン茶を一つずつ」って言った。したらさ、その背の高い男の子がぺこりと頭下げて言うわけ。「俺だけど」って、「うわーーーー!!私の弟くんじゃん!!」そのくらい、分からなかった。
「遠いとこ来てくれてありがとう」私がペコリすると、「いや、呼んでくれてありがとう」と弟もペコリ。で、ビールとか頼んじゃってね、ぽつりぽつりと話を始めたのでした。私の弟くんは、しばらく引篭もりみたくなっていて、仕事もうまくいかなくて、それをパパちゃまにすごく怒られて、家出を繰り返していたのでした。パパちゃまはわたしだけでなく、弟にも厳しかったのよ。でも、今の仕事は友達もできて、長く続いているみたい。
「どうなの?」と言ったら「平気だよ」と笑ってくれた。うれしかった。「俺たちの世代は就職がうまくいかなかった世代だからさ、俺が特にさぼりだったとも思わないんだけど。親父は正社員にこだわるじゃん。でもちゃんと働いているんだよ。仕方なかったって思ってくれないとさ。でも景気も少しいいみたいだし、またそろそろ正社員の試験も受けてみるよ」。ちゃんと話してくれるので嬉しかった。私はパパちゃまから聞いた話で、もっとおしゃべりもできないくらいかと心配していたから。
「ずっと放っておいて、ごめんね。でもお姉ちゃんも必死だったんだよ。右も左も分からない世界に行っちゃって、お父さんたちともすごく仲が悪くって、実家に帰ろうとすると吐いちゃうくらい怖かったから。でも今ね、親と仲いいよ。だからあんたのことだけ心配なの」弟はうんうんと聞いてくれる。ちゃんと大人になっている。感じのいい子だと、姉心に自慢におもう。
「いつ、家出たんだっけ?」
「20年前、まだあんた中学生になったばっか」
「だよね。気がついたらあなたいなかったから。でも。あるときからこのテレビに出たり漫画書いている人が俺の姉さんなんだ、と思って。うれしかったよ。すごいなって」
うれしくて涙が出そうになった。
「あのね。あんたが困らないようにね、お姉ちゃんおうち買ったの。いつか兄弟で家の取り合いとか嫌じゃん。あんたが就職決まらないって言うから。私が家を持っていたら。家だけは全部あげられると思ったの。だからさ、おうちあるんだからまじめに働きなね。就職あったら正社員になってね、贅沢しなくたって、ちゃんと働くだけでえらいんだからね」
そういつたら弟はうんと言ってくれた。なんか肩の荷が下りた。もうこれで、私が突然病気になっても大丈夫だ。
なんか私今まで、一人で誰ともコミュニケーションしないで、一人で踏ん張りすぎていた気がする。だからあんなに無茶に働いて。結局不安だったんだなって。だから女一人でマンション買っちゃったり、着物とか買って、「バカにしないでくださいね」みたいな自分守る鎧みたいにしたり。バーキンとかもそれで無理して買った。
もうこれからはさ、無理しないで行こうって、すごく思ったの、周りのこと大切にして、自分の作るべき作品に集中しようって。
弟は21時くらいに帰りました。これからはもっと弟に会おう。あと、今度美容院に連れて行って眉毛をカットさせてヘアスタイルももっとおしゃれにさせちゃおう。そんなことを思って私は、何かとても安心し眠りにつきました。遠くで波の音がしたの。ずっと昔、家族と旅行に出かけた時と同じ波の音でした。
翌朝は、前に私の写真も撮ってくれた亀石さんと、バイオリニストの花嶋さんが迎えにきてくれて一緒に江ノ島探索!!「江ノ島に未明さん行ってるなら、今度撮影したりするいい場所ないか探そうよーー」なんて言ってきてくれたの。嬉しい!!
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江ノ島神社はすごく緑できれいで、岩屋も面白かった!!そういえばここ小学生の時遠足で来たよ。でも、おしゃれなプラットフォームブーツで゛来てしまったわたしはココ以上はおしゃれ靴では上がりきらずと中参道ででご覧の通りの800円の下駄サンダルにお靴ちぇんじ!!笑います。まあまあかわいいかな?よしとしましょう。で、そのとき「スッキリに出ている漫画家さんですよね?}」と、しばし奥様方何人かに取り囲まれ、しばしの未明フィーバーに。ちょっとうれしい。着物でなくてもわかるんだあ。だつてああいう仕事してて、人ごみでまったく気づかれなかつたら悲しいじやないですか??で、江ノ島神社におりてく途中で、賞が咲こう野遠足の時に見た「世界の貝の博物館」があって30年前のまま!!すごいですー。お店のおじさんが「えー。あんたそんな昔に来たの?でももうダメだよ。おじさんとこ時代遅れだからダメだよ」とか言っている。いやいや、変らないのがいいんですよ。30年後もそうしていてね。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/03/2001ecf1cf051bd99eda57e4bc2aed20.jpg)
なんか、こういう時間大切にして生きていきたい、そう思いました。時代はくるくる変わるけど、絶対変えたらいけないもの。ずっと大切なものはきっとある。いつも変わらず受け入れてくれる波のように、私もこれからはただガツガツするんじゃなくて、皆を大切に受け入れて、何かちょっとでもホッとしてもらえるような。そんな子になりたいと、40にしてやっと思えたのでした。
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江ノ島の夕日がすごくキレイで富士山みえて感動した