やっと政府が「職域ワクチン接種」に踏み切る。6月21日からだそうだ。報道によれば、5月31日、首相官邸で菅総理、西村内閣府経済再生担当相兼コロナ感染対策相、梶山経産相、萩生田文科相らが協議し、ワクチンの職域接種を始めることにしたという。なぜか田村厚労相、河野コロナワクチン接種推進担当相の名前は、この閣僚会議の参加者にはない。どういうことか?
●職域接種=企業・大学単位? なぜ?
政府は「職域」と称しているが、その実態は大企業や大学などを単位としているようだ。その目的については、加藤官房長官も記者会見では述べていないし、記者からの質問もなかったようだ。従来の「集団接種」や「個別接種」より効率的だからか。企業での接種には従業員らの同居家族、関連会社の従業員も対象とするらしい。これって、明らかにルール違反じゃない?
この稿の冒頭で「やっと」と書いたが、私は4月26日のブログ『緊急事態宣言より集団免疫状況をつくるワクチン接種を!!』でこう書いた。
「専門家が主張するように、集団免疫が最も有効であるならば、感染者多発地域で重点的にワクチン接種を行い、集団免疫状況を作り出すような対策を講じるべきであろう」
私は医学についての専門知識があるわけではないから、そういう分野に立ち入って問題提起する場合、論理を唯一の判断基準にしている。だから、本当に感染症の場合、集団免疫が生じるのか、またある地域で、どの程度の割合で免疫を持つ人がいれば集団免疫によって免疫を持っていない人への感染が防げるのかはわからない。少なくとも集団免疫を重要視する専門家はその割合を示すべきだろう。もちろん人口密度(昼と夜では違うが)によって割合は変わるかもしれないが、ある程度の目安となる数値は示すべきだろう。
が、政府の「職域接種」の目的は集団免疫をつくることによってコロナを封じ込めることが目的ではないようだ。「1日100万人接種」などと言う大ぼらを吹いた菅総理に恥をかかせないため、とにかく効率的に接種数を増やすことが目的の政策としか考えられない。
企業単位と言っても、1棟のビルを丸ごと所有しているような大企業はいいとしても、いくつもの企業が入居している集合ビルのような場合はどうするのか。そういうことも含めてきめ細かな方策を考えているのか。もし、単に1日当たりの接種数を見かけ上増やすためだったら、国民からの猛反発は免れ得ない。少なくともこれまでの接種順位は「医療従事者等」(いまだにコロナ患者治療に当たっている医師や看護師だけが対象と勘違いしているメディアや評論家が多いが)、「高齢者(65歳以上)」、「基礎疾患がある人」が優先順位とされてきて、それなりに国民の同意を得てきた。
が、ここにきてオリンピック選手や関係者への優先接種問題が浮上し、「なぜ彼らだけ特別扱いするのか」といった反発が国民の間で噴出した。これは明らかに国民の勘違いであり、国民の勘違いを誘発したメディアの責任は小さくない。選手たちの間では、自分たちが「優先接種」を受けることに後ろめたさみたいなものを感じている人もいるようだが、これは政府の施策ではない。米ファイザー社が無償でワクチンをIOCに提供し、IOCが参加各国の選手団に配布し(海外の場合、どういう基準で配布しているかは不明)、日本は主催国ということで他国よりリスクが大きいためかなりの量のワクチンが無償配布されている。これは東京オリンピックがパンデミック源になることを防ぐためのIOCの対策によるもので、選手たちが心苦しく思う必要はまったくない。
ただし私は東京オリンピック開催に賛成しているわけではない。どちらかと言えば「反対」というほど強い根拠があるわけでもなく「中止したほうがいいだろう」という程度だ。本当に「安心安全」に開催できるなら、ことさらに反対する理由もないが、半年くらい前から書き続けているように、プロ競技が行われている種目には一流プロはまず参加しないし、アメリカがどの程度協力してくれるかにすべてかかっていると書いてきた(バイデン大統領が日本を「ステージ4」のリスト国に指定するはるか前から)。そういう状況下でオリンピックを開催したら、おそらく日本人選手が空前絶後のメダルを獲得することになる。私たち日本人にとって喜ぶべきことなのだろうか。
一方、6月1日に「外国のお客様との会談などが予定されており、可能ならその前に接種したい」「責任ある立場の人は堂々と接種した方がいい」とワクチンの特別優先接種を要求した萩生田大臣の思い上がり発言が国民の反発を招いている。萩生田氏が、オリンピックのためにコロナ感染リスクにさらされる機会が増大すると考えるのであれば、IOCに対して「オリンピック関係者」として特別接種を要求すればいい。国の接種にお手盛りで特別枠を要求するくらいなら、さっさと国会議員をお辞めいただきたい。そんなリスクを萩生田氏のような特別な「上級国民」に負わせたくないから。
●問診を研修医(インターン)が?
1日のNHK『ニュース7』によれば、ワクチン接種の際の問診を研修医(インターン)に、という案が浮上しているらしい。とんでもない話だ。
私は行政による1回目のワクチン接種をすでに受けたが、まったく混乱がなかった。予約を取るのは大変だったが、やっと予約が取れたとき担当者(コールセンターの職員)から「3密を避けるため、予定時間よりあまり早くは来ないでほしい」と言われ、ぎりぎりの時間に行った。そのため私はその時間枠の予約者ではラストになったが、会場(区の公会堂)入口で体温測定の後、受付で接種券と本人確認の健康保険証のチェックがあり、サポート役の看護師に案内されて問診医のブースでいくつかの質問を受けて接種後の待機時間を指定され(私の場合は接種後最短の30分が指定された)、次に接種ブースで別の医師からワクチンを接種され、「気分はどうか」などの質問を受けた後、公会堂の座席で30分間待機した。シャツの胸には待機終了時間を書いたラベルを張り、数人の看護師がそれぞれ待機中の人たちの様子を見守り「気分はどうか」とか、聞いて回ってくれていた。
こうした流れで1回目の接種は終わったが、研修医は病院で点滴などのための血管注射もしており、医師や看護師のチェックを受けながらワクチン接種することは問題ないと私も思う。すでに奈良県などでは研修医にワクチン接種を担当させており、ワクチン接種は血管注射ではなく筋肉注射だから、研修医としてある程度の経験があれば十分可能だと思うが、問診を担当させるなど、もってのほかというしかない。
問診は基礎疾患の有無やアレルギー疾患などについてのかなりの専門知識や、とりわけ接種後の待機時間を決める重要な役割がある。果たして研修医にそれだけの経験と知識があるだろうか。
まだ薬剤師は直接患者の治療には携わっていなくても、専門医よりある意味では広く浅く薬やアレルギーの副作用などには熟知しており、問診医が不足するのであればベテランの薬剤師を問診担当に採用したほうがはるかにいい。
少し前、注射の訓練を受けたこともない薬剤師にワクチン接種をという案が政府から出たこともあるが、これは奈良県の荒井知事が全国知事会にアメリカやカナダのように薬剤師が摂取できるように制度改正を国に求めることを諮り、不勉強の全国知事会が承認したという経緯がある。
そもそもアメリカやカナダは人口密度が日本とはけた違いであり、日本のようにコンビニ並みにクリニックや調剤薬局が多い国ではない。だからすぐ近くにかかりつけのクリニックがあるわけではなく、インフルエンザ・ワクチンなどはドラッグストアに勤務する薬剤師に打ってもらうし、また薬剤師の資格を取る過程で注射の訓練も受けている。ひとを何だと思っているのかと、怒りを禁じえない。ワクチン接種を増やすのは感染拡大を防ぐための手段であって、接種数を増やすこと自体が目的ではない。もっとも「1日100万接種」に近づけることによって菅内閣の支持率を回復することが目的でルールもへったくれも、ということであれば何をか言わんやだが。
●なぜ演劇はOKで、映画はダメなのか?
緊急事態宣言下の東京都の業界ごとの営業自粛要請の基準も不可解だ。私は日本を代表する女優・吉永小百合氏の訴えをテレビで見るまで、演劇は一定の入場者数制限をしたうえで上演OKなのに、映画は一切ダメということを初めて知った。吉永氏でなくても、映画を何年も見ていない私でも疑問を持った。
一方、デパートに対する休業要請の目的は何だったのか?(6月1日から平日のみの開業はOKになったが) デパートは催事でもしなければ、休日でも3密状態になどなったりしない。夕方のスーパーの方がよほど3密状態になる。デパートをいじめれば、国民が拍手喝采するとでも思っているのか。
それとも感染拡大防止のために努力している姿勢を見せることが目的だったのか。政府や地方行政は感染抑止のための方策は、これまでもいろいろ国民に政府は要請してきた。たとえば「3密回避」「外出時のマスク着用」「うがい、手洗い」「部屋の換気」etc。
論理的におかしいのは「部屋の換気」と「外出時のマスク着用」だ。日本人はまじめだから、郊外でも外に出ればマスクを付けなければいけないと思い込んでいる人がほとんどだ。私が住んでいる地域は郊外の住宅街で、このあたりの空気中にコロナウイルスが闊歩しているわけがない。もし、そういう危険地帯だったら、窓を開けて換気することはコロナに感染しろというに等しいことになる。繁華街で人混みが多い居酒屋がドアを開けて外気を入れて「感染対策」? だったら「3密状態」でのマスク着用は何のため?
厚労省に、だいぶ前だが、そういう矛盾を指摘したら、「マスク着用は3密状態の場所でお願いします」。「では道路自体が歩行者で3密状態の繁華街で、居酒屋などがドアを開放するのは?」と聞いたら、黙ってしまった。
要は劇場にしろ、映画館にしろ、野球場やサッカー場にしろ、観客の3密状態が問題なのではない。すでに観客の3密は防いでいる。問題は演劇や映画、試合が終わった後、観客が一斉に家路につく。そのときに出口が一気に3密状態になる。劇場や映画館は観客数が知れているから、出口が一時的に3密状態になるだけだが、野球やサッカーの場合は入場者制限をしていても試合終了後に生じる3密状態は、球場の出入り口だけでなく最寄り駅までの道路、さらに電車内も一気に3密状態になる。
一時、展示会やスーパーなどは会場内や店内の3密を避けるために入場制限を警備員がしていた。出た人の数だけ人を入れるという方法だ。テレビのニュースで見た方も多いだろう。
それと逆のことをやればいいだけの話なのだ。演劇や映画、スポーツの試合が終わった後、客の退場ルールの基準を行政が決め、その基準に従って劇場や映画館、野球場やサッカー場が退場制限をすればいい。
劇場や映画館は観客数も知れているから全観客の退場に10分もみれば十分だと思うが、野球やサッカーの場合は最後の退場者は試合終了30分後になるかもしれない。その間、音楽でも流しておけばいい。あるいは場内にスクリーンが設置されていたら、ゲームのリプレイを流してもいい。頭は生きているうちに使えよ。
4月26日には全国の市町村にワクチンを一律に同数配布した。人口比に応じてではなく、日本最大の政令都市である横浜市にも、日本一人口が少ない高知県大川村(人口数404人)にも同数のワクチンを政府は配った。そういう行為が公正で平等と考えるのが、わが日本政府だ。
いったい日本人は、あの敗戦で何を学んだのか。
【追記】「あきれ果ててものも言えない」とは、このことだ。1日、河野ワクチン担当相抜きで行われた閣僚会議(前述)を受けて河野大臣が2日、ルール違反のワクチン「職域接種」の対象について「とりあえず(従業員)1000人以上の企業でスタートしたい」と政府方針を述べた。本稿で述べたように、ワクチン接種の順番は「医療従事者等」「高齢者」「基礎疾患のある人」が優先され、「一般」は最後のはずだ。
私は、「もし集団免疫が有効ならば、オフィス中心街や繁華街で集中的にワクチン接種すべきだ」と繰り返し書いてきた。が、政府方針は集団免疫重視でもなければ、ルール重視でもない。ただ、ひたすらガースーの「1日100万接種」という大ぼらを実現するためのルール無視の接種方針でしかないことが明らかになった。
日本はとうとう、「習近平のためなら」「金正恩のためなら」の中国や北朝鮮以下の国に成り下がってしまった。もう一度書く。
いったい日本人は、あの敗戦で何を学んだのか。(3日)
●職域接種=企業・大学単位? なぜ?
政府は「職域」と称しているが、その実態は大企業や大学などを単位としているようだ。その目的については、加藤官房長官も記者会見では述べていないし、記者からの質問もなかったようだ。従来の「集団接種」や「個別接種」より効率的だからか。企業での接種には従業員らの同居家族、関連会社の従業員も対象とするらしい。これって、明らかにルール違反じゃない?
この稿の冒頭で「やっと」と書いたが、私は4月26日のブログ『緊急事態宣言より集団免疫状況をつくるワクチン接種を!!』でこう書いた。
「専門家が主張するように、集団免疫が最も有効であるならば、感染者多発地域で重点的にワクチン接種を行い、集団免疫状況を作り出すような対策を講じるべきであろう」
私は医学についての専門知識があるわけではないから、そういう分野に立ち入って問題提起する場合、論理を唯一の判断基準にしている。だから、本当に感染症の場合、集団免疫が生じるのか、またある地域で、どの程度の割合で免疫を持つ人がいれば集団免疫によって免疫を持っていない人への感染が防げるのかはわからない。少なくとも集団免疫を重要視する専門家はその割合を示すべきだろう。もちろん人口密度(昼と夜では違うが)によって割合は変わるかもしれないが、ある程度の目安となる数値は示すべきだろう。
が、政府の「職域接種」の目的は集団免疫をつくることによってコロナを封じ込めることが目的ではないようだ。「1日100万人接種」などと言う大ぼらを吹いた菅総理に恥をかかせないため、とにかく効率的に接種数を増やすことが目的の政策としか考えられない。
企業単位と言っても、1棟のビルを丸ごと所有しているような大企業はいいとしても、いくつもの企業が入居している集合ビルのような場合はどうするのか。そういうことも含めてきめ細かな方策を考えているのか。もし、単に1日当たりの接種数を見かけ上増やすためだったら、国民からの猛反発は免れ得ない。少なくともこれまでの接種順位は「医療従事者等」(いまだにコロナ患者治療に当たっている医師や看護師だけが対象と勘違いしているメディアや評論家が多いが)、「高齢者(65歳以上)」、「基礎疾患がある人」が優先順位とされてきて、それなりに国民の同意を得てきた。
が、ここにきてオリンピック選手や関係者への優先接種問題が浮上し、「なぜ彼らだけ特別扱いするのか」といった反発が国民の間で噴出した。これは明らかに国民の勘違いであり、国民の勘違いを誘発したメディアの責任は小さくない。選手たちの間では、自分たちが「優先接種」を受けることに後ろめたさみたいなものを感じている人もいるようだが、これは政府の施策ではない。米ファイザー社が無償でワクチンをIOCに提供し、IOCが参加各国の選手団に配布し(海外の場合、どういう基準で配布しているかは不明)、日本は主催国ということで他国よりリスクが大きいためかなりの量のワクチンが無償配布されている。これは東京オリンピックがパンデミック源になることを防ぐためのIOCの対策によるもので、選手たちが心苦しく思う必要はまったくない。
ただし私は東京オリンピック開催に賛成しているわけではない。どちらかと言えば「反対」というほど強い根拠があるわけでもなく「中止したほうがいいだろう」という程度だ。本当に「安心安全」に開催できるなら、ことさらに反対する理由もないが、半年くらい前から書き続けているように、プロ競技が行われている種目には一流プロはまず参加しないし、アメリカがどの程度協力してくれるかにすべてかかっていると書いてきた(バイデン大統領が日本を「ステージ4」のリスト国に指定するはるか前から)。そういう状況下でオリンピックを開催したら、おそらく日本人選手が空前絶後のメダルを獲得することになる。私たち日本人にとって喜ぶべきことなのだろうか。
一方、6月1日に「外国のお客様との会談などが予定されており、可能ならその前に接種したい」「責任ある立場の人は堂々と接種した方がいい」とワクチンの特別優先接種を要求した萩生田大臣の思い上がり発言が国民の反発を招いている。萩生田氏が、オリンピックのためにコロナ感染リスクにさらされる機会が増大すると考えるのであれば、IOCに対して「オリンピック関係者」として特別接種を要求すればいい。国の接種にお手盛りで特別枠を要求するくらいなら、さっさと国会議員をお辞めいただきたい。そんなリスクを萩生田氏のような特別な「上級国民」に負わせたくないから。
●問診を研修医(インターン)が?
1日のNHK『ニュース7』によれば、ワクチン接種の際の問診を研修医(インターン)に、という案が浮上しているらしい。とんでもない話だ。
私は行政による1回目のワクチン接種をすでに受けたが、まったく混乱がなかった。予約を取るのは大変だったが、やっと予約が取れたとき担当者(コールセンターの職員)から「3密を避けるため、予定時間よりあまり早くは来ないでほしい」と言われ、ぎりぎりの時間に行った。そのため私はその時間枠の予約者ではラストになったが、会場(区の公会堂)入口で体温測定の後、受付で接種券と本人確認の健康保険証のチェックがあり、サポート役の看護師に案内されて問診医のブースでいくつかの質問を受けて接種後の待機時間を指定され(私の場合は接種後最短の30分が指定された)、次に接種ブースで別の医師からワクチンを接種され、「気分はどうか」などの質問を受けた後、公会堂の座席で30分間待機した。シャツの胸には待機終了時間を書いたラベルを張り、数人の看護師がそれぞれ待機中の人たちの様子を見守り「気分はどうか」とか、聞いて回ってくれていた。
こうした流れで1回目の接種は終わったが、研修医は病院で点滴などのための血管注射もしており、医師や看護師のチェックを受けながらワクチン接種することは問題ないと私も思う。すでに奈良県などでは研修医にワクチン接種を担当させており、ワクチン接種は血管注射ではなく筋肉注射だから、研修医としてある程度の経験があれば十分可能だと思うが、問診を担当させるなど、もってのほかというしかない。
問診は基礎疾患の有無やアレルギー疾患などについてのかなりの専門知識や、とりわけ接種後の待機時間を決める重要な役割がある。果たして研修医にそれだけの経験と知識があるだろうか。
まだ薬剤師は直接患者の治療には携わっていなくても、専門医よりある意味では広く浅く薬やアレルギーの副作用などには熟知しており、問診医が不足するのであればベテランの薬剤師を問診担当に採用したほうがはるかにいい。
少し前、注射の訓練を受けたこともない薬剤師にワクチン接種をという案が政府から出たこともあるが、これは奈良県の荒井知事が全国知事会にアメリカやカナダのように薬剤師が摂取できるように制度改正を国に求めることを諮り、不勉強の全国知事会が承認したという経緯がある。
そもそもアメリカやカナダは人口密度が日本とはけた違いであり、日本のようにコンビニ並みにクリニックや調剤薬局が多い国ではない。だからすぐ近くにかかりつけのクリニックがあるわけではなく、インフルエンザ・ワクチンなどはドラッグストアに勤務する薬剤師に打ってもらうし、また薬剤師の資格を取る過程で注射の訓練も受けている。ひとを何だと思っているのかと、怒りを禁じえない。ワクチン接種を増やすのは感染拡大を防ぐための手段であって、接種数を増やすこと自体が目的ではない。もっとも「1日100万接種」に近づけることによって菅内閣の支持率を回復することが目的でルールもへったくれも、ということであれば何をか言わんやだが。
●なぜ演劇はOKで、映画はダメなのか?
緊急事態宣言下の東京都の業界ごとの営業自粛要請の基準も不可解だ。私は日本を代表する女優・吉永小百合氏の訴えをテレビで見るまで、演劇は一定の入場者数制限をしたうえで上演OKなのに、映画は一切ダメということを初めて知った。吉永氏でなくても、映画を何年も見ていない私でも疑問を持った。
一方、デパートに対する休業要請の目的は何だったのか?(6月1日から平日のみの開業はOKになったが) デパートは催事でもしなければ、休日でも3密状態になどなったりしない。夕方のスーパーの方がよほど3密状態になる。デパートをいじめれば、国民が拍手喝采するとでも思っているのか。
それとも感染拡大防止のために努力している姿勢を見せることが目的だったのか。政府や地方行政は感染抑止のための方策は、これまでもいろいろ国民に政府は要請してきた。たとえば「3密回避」「外出時のマスク着用」「うがい、手洗い」「部屋の換気」etc。
論理的におかしいのは「部屋の換気」と「外出時のマスク着用」だ。日本人はまじめだから、郊外でも外に出ればマスクを付けなければいけないと思い込んでいる人がほとんどだ。私が住んでいる地域は郊外の住宅街で、このあたりの空気中にコロナウイルスが闊歩しているわけがない。もし、そういう危険地帯だったら、窓を開けて換気することはコロナに感染しろというに等しいことになる。繁華街で人混みが多い居酒屋がドアを開けて外気を入れて「感染対策」? だったら「3密状態」でのマスク着用は何のため?
厚労省に、だいぶ前だが、そういう矛盾を指摘したら、「マスク着用は3密状態の場所でお願いします」。「では道路自体が歩行者で3密状態の繁華街で、居酒屋などがドアを開放するのは?」と聞いたら、黙ってしまった。
要は劇場にしろ、映画館にしろ、野球場やサッカー場にしろ、観客の3密状態が問題なのではない。すでに観客の3密は防いでいる。問題は演劇や映画、試合が終わった後、観客が一斉に家路につく。そのときに出口が一気に3密状態になる。劇場や映画館は観客数が知れているから、出口が一時的に3密状態になるだけだが、野球やサッカーの場合は入場者制限をしていても試合終了後に生じる3密状態は、球場の出入り口だけでなく最寄り駅までの道路、さらに電車内も一気に3密状態になる。
一時、展示会やスーパーなどは会場内や店内の3密を避けるために入場制限を警備員がしていた。出た人の数だけ人を入れるという方法だ。テレビのニュースで見た方も多いだろう。
それと逆のことをやればいいだけの話なのだ。演劇や映画、スポーツの試合が終わった後、客の退場ルールの基準を行政が決め、その基準に従って劇場や映画館、野球場やサッカー場が退場制限をすればいい。
劇場や映画館は観客数も知れているから全観客の退場に10分もみれば十分だと思うが、野球やサッカーの場合は最後の退場者は試合終了30分後になるかもしれない。その間、音楽でも流しておけばいい。あるいは場内にスクリーンが設置されていたら、ゲームのリプレイを流してもいい。頭は生きているうちに使えよ。
4月26日には全国の市町村にワクチンを一律に同数配布した。人口比に応じてではなく、日本最大の政令都市である横浜市にも、日本一人口が少ない高知県大川村(人口数404人)にも同数のワクチンを政府は配った。そういう行為が公正で平等と考えるのが、わが日本政府だ。
いったい日本人は、あの敗戦で何を学んだのか。
【追記】「あきれ果ててものも言えない」とは、このことだ。1日、河野ワクチン担当相抜きで行われた閣僚会議(前述)を受けて河野大臣が2日、ルール違反のワクチン「職域接種」の対象について「とりあえず(従業員)1000人以上の企業でスタートしたい」と政府方針を述べた。本稿で述べたように、ワクチン接種の順番は「医療従事者等」「高齢者」「基礎疾患のある人」が優先され、「一般」は最後のはずだ。
私は、「もし集団免疫が有効ならば、オフィス中心街や繁華街で集中的にワクチン接種すべきだ」と繰り返し書いてきた。が、政府方針は集団免疫重視でもなければ、ルール重視でもない。ただ、ひたすらガースーの「1日100万接種」という大ぼらを実現するためのルール無視の接種方針でしかないことが明らかになった。
日本はとうとう、「習近平のためなら」「金正恩のためなら」の中国や北朝鮮以下の国に成り下がってしまった。もう一度書く。
いったい日本人は、あの敗戦で何を学んだのか。(3日)