政府と沖縄県の対立が深刻になっている。今日から統一地方選挙の後半戦も始まった。前半戦は投票率こそ最低を記録した地方選挙が多かったが、現職の強みがやはり証明された選挙でもあった。自民が議席を維持し、先の総選挙に続いて共産が議席を大幅に伸ばした。事なかれ主義(現状維持派)の有権者と、変化を求める層に大きく分かれたという意味では、先の総選挙ときわめて似通った結果になった。
共産が議席を大幅に伸ばしたことについて、共産も誤解はしていないだろうが、日本の左傾化を意味しているわけではない。変化を求めながらも、民主も維新も積極的には支持できないという、選挙民の「消去法による選択」によって多くの票が共産党候補者に流れただけだ。
実は私は、今回の統一地方選挙は「中央集権か地方分権の拡大か」が最大の争点になると思っていた。私は4月6日に投稿したブログ『民主主義とは何かがいま問われている⑪――安倍政権は中央集権政治へ突き進むつもりか?』と題した記事を投稿している。とりわけ地方分権を主張する維新は、沖縄県民の民意を踏みにじって、あくまで普天間基地の辺野古移設を強行しようとする安倍政権に対して、「民主主義の破壊だ。沖縄県民の意志を無視するなら統一地方選挙などやる必要がない。すべて地方行政機関は中央の出先機関にして、地方の民意は中央政府に従った場合のみ受け入れるというのが安倍政治の本質だ」と、なぜ主張しなかったのか。民意を問う意味をまったく理解していない政治家たちに、有権者たちがソッポを向いたのは当然と言えば当然のことだった。大阪都構想だけは大阪府民の民意を問うと主張しながら、沖縄県民が名護市長選・沖縄県知事選・総選挙で示した県民の民意は無視してもいい、と言わんばかりの選挙戦を戦って勝てるほど、日本の有権者はバカではない。
統一地方選の後半戦で野党が、有権者に対して「中央集権政治」か「地方分権の拡大」かが問われる選挙だ、と主張すれば必ず勝てる。もっとも私は予想屋ではないので、統一地方選から離れる。
17日、安倍総理がようやく重い腰を上げて、翁長・沖縄県知事との初の会談に応じた。予定の30分を少し超えたようだが、政府と沖縄の溝は一歩も埋まらなかった。トップ会談でも両者の溝が埋まらなかったということは、事態をかえって悪化させる結果になったとさえ言えよう。
総理は「辺野古への移設が唯一の解決策だ」と従来の姿勢を変えず、翁長知事は「沖縄の米軍基地は県民が差し出したものではない。強制的に県民の土地を奪っておきながら、嫌なら(辺野古以外の)代替案を出せというほど理不尽な話はない」と、これまた強硬な姿勢を貫いた。
翌18日、全国紙5紙はこの会談についていっせいに社説を書いた。要点を辺野古移設支持派の順から転記する。今回は各紙の主張に論評は一切加えない。そのあとで普天間基地の移設問題について私の見解を述べる。
産経新聞…「世界一危険とされる普天間の危険性を除去し、沖縄の基地負担軽減を進める。さらに日米同盟の抑止力を保ちながら安全保障を確かなものにする。この3点が課題であることは変わりようもない」「3点を実現できる案として、政府が苦慮した末に見出したのが、辺野古移設なのである」「沖縄の基地負担は、日本やアジア太平洋地域をはじめとする世界の平和に役立っている。政府や国民が、そのことを十分認識し、負担軽減に努めるのは当然だ」「中国が奪取を狙う尖閣諸島のある県の首長として、翁長氏には基地負担を通じ、平和に貢献している意識も持ってほしい」
読売新聞…「相手を批判するだけでは、沖縄の米軍基地負担の軽減という共通の目標は進展しない」「沖縄周辺では、中国が軍事活動を活発化させている」「在沖縄米軍の重要性は一段と増した。抑止力の維持と住民の負担軽減を両立する辺野古移設は、現実的かつ最良の選択肢だ」「沖縄では28年度までに、計1048ヘクタールにも上る県南部の米軍施設が順次返還される予定だ。仮に辺野古移設が停滞すれば、この計画も大幅に遅れかねない」「政府は、辺野古移設の意義と重要性を地元関係者に粘り強く説明し、理解を広げねばならない」
日本経済新聞…「会談で首相は名護市への移設を『唯一の解決策』と説明した。現実を踏まえれば、人口が比較的少ない辺野古への移設によって危険性を低減させる日米合意は妥当といえるだろう」「1996年に普天間返還で米政府と合意した橋本龍太郎首相は、当時の沖縄県知事だった大田昌秀氏と短時間に20回近くも会った。大田氏は結局、普天間代替施設を県内につくることに同意しなかったが、橋本氏の真摯な姿勢は県民にも評価する声があった」「安倍政権もこうした共感を沖縄県民の間に生み出すことができるか。知事を説得するにはこうした地道な努力が欠かせない」
朝日新聞…「安倍首相は26日から訪米を予定している。戦後70年の節目に日米同盟の深化を世界に示す狙いがある。沖縄県知事と会談することで、政権が普天間基地問題に積極的に取り組んでいる姿勢を米側に伝えられる、という目算も働いたのだろう」「だが、今回の会談を、政権の『対話姿勢』を米国に印象づけるための演出に終わらせてはいけない」「首相は打開の糸口を見いだせない現状を直視し、翁長知事が求めた通り、オバマ大統領に『沖縄県知事と県民は、
辺野古移設計画に明確に反対している』と伝えるべきだ」「翁長知事は…米軍による土地の強制収用や戦争の歴史に言及した。この言葉が含む史実の重さを、首相はどう感じただろうか」「政権が本気で『粛々』路線から『対話』路線へとかじを切るというなら、ボーリング調査をまず中断すべきだ。そうでなければ対話にならない」
毎日新聞…「首相は『これからも丁寧に説明しながら理解を得る努力を続けていきたい』とも語った。政府が辺野古移設をどうしても進めるというなら、口で言うだけでなく、最低限、沖縄への丁寧な説明を実行すべきだ」「沖縄からは安全保障上の必要性に対する疑問も出ている」「政府は、沖縄県の尖閣諸島をめぐる対立など中国の海洋進出をにらみ、抑止力を維持するために辺野古移設が必要というが、沖縄の人たちは必ずしも納得していない」「政府と沖縄の間には、全閣僚と知事が米軍基地問題や振興策について話し合う沖縄政策協議会があるが、翁長知事になって開かれていない。協議会の再開を含め、政権と沖縄が定期的に話し合う仕組みを早急に動かすべきだ」
実は普天間移設問題は、地方の民意を国政にどう反映させるべきかが問われている問題でもある。最高裁は1票の格差の根源は小選挙区制を導入した際、(※どさくさに紛れて自民党が党利党略のため)設けた一人別枠方式にあると断定した。私は『民主主義とは何かがいま問われている』と題したブログ・シリーズで、民主主義の最大の欠陥は多数決原理にあると何度も書いてきた。その欠陥は別に私が発見したわけではなく、アリストテレスやプラトンなどの大哲学者が「民主主義政治は愚民政治だ」と、とっくに指摘している。が、民主主義に代わる別のよりベターな政治システムを人類が発明できるまでは、「一歩後退二歩前進」あるいは「一歩前進二歩後退」を繰り返しながら、遅々とした歩みであっても、民主主義をより成熟化していく努力を続けていくしか方法がない、と私は書いてきた。そうした民主主義についての考え方は、たぶん私のオリジナリティではないかと自負している。
そういう意味では、私に言わせれば一人別枠方式は地方の少数意見を国政に反映させるための、考えようによっては民主主義の欠陥を補う一つの実験ではなかったかとさえ考えている。地方に多くの票田を持つ自民党の党利党略的要素は別として、でだ。だから一人別枠方式をなくしたら、1票の格差は少なくなるだろうが、大多数の人口を抱える大都市中心の政治に傾くことは疑いを容れない。そういう意味では一人別枠方式は、多数決原理の欠陥を補う可能性を秘めた選挙制度であることも私は否定しない。たとえ最高裁がどういう判決を下そうとも、論理的には私の考え方のほうが正しいと私は信じている。
が、一人別枠方式の廃止に悲鳴を上げた地方選出の自民党議員が、「地方の声が国政に届かなくなる」と主張するなら、いま政府に反旗を翻している沖縄県民の声に、どう向き合うべきかを考えてほしい。もし沖縄県民の声より政府が決めたことのほうを重視すべきだと考えるなら、地方の声を国政に反映させるための一人別枠方式も否定するのが筋だろう。その一点を抜きにして、普天間基地問題をメディアも政治家も語る資格がない。
次に沖縄の米軍基地が本当に日本にとって抑止力になっているのかも、論理的に考えてみるべきだ。ソ連が崩壊して以降、日本にとっての安全保障は飛躍的に高まった。そもそもソ連が、極東進出を狙っていた時代に、アメリカは日本防衛のために北海道に米軍基地を集中配備していたか。ソ連の脅威がなくなってから、米軍基地を北海道から撤去した史実があったか。アメリカはキューバがミサイル基地を建設しようとしたときは、ミサイルをキューバに持ち込もうとしたソ連に対し、核戦争をも辞さずという強硬姿勢を貫きソ連を屈服させたが、アメリカの国益にならないことで日本のために血を流してくれるなどと考えていたら、アマちゃんもいいところだ。沖縄の米軍基地は、日本のためではなく、アメリカの国益のためにあることを日本人は理解しておく必要がある。
さらに、いま日本が直面している最大の脅威は尖閣諸島問題ではない。中国が本気で尖閣諸島を奪おうと考えているなら、現在行っているような見せかけの挑発行為にとどまっていない。現に中国は南シナ海南部に存在する南沙諸島(無数の島・岩礁・砂州の総称)に着々と進出している。南沙諸島は広大な排他的経済水域(EEZ)の海洋・海底資源だけでなく、アジア東南海地域における大きな軍事的要衝でもあり、中国・台湾・ベトナム・フィリピン・マレーシア・ブルネイなどが相互に領有権を主張し合って譲らない。
その南沙諸島で、海洋資源開発のために中国は埋め立て事業を強行しており、滑走路まで建設中であることが判明している。なぜ南沙諸島に滑走路が必要なのか。単に海底資源を発掘して運搬するだけだったら滑走路など必要ないはずだ。滑走路建設の目的が軍事的拠点のためだということくらい、軍事的知識がゼロの私にも容易に理解できる。が、アメリカはウクライナ問題と同様、口では非難するが軍事力でロシアや中国に正面から阻止しようとはしない。軍事的衝突がアメリカにとって、かえって自国の国益を損ないかねないからだ。アメリカが自国の国益を損なっても、日本のために血を流してくれることを期待しているほど安倍総理もアマちゃんではあるまい。
安倍総理が現行憲法の枠組みにとらわれず、アメリカのために血を流せる「軍
隊」に自衛隊を変えようとしたり、アメリカのためにアジア東南海地域におけるアメリカの支配力強化を手助けするために普天間基地の辺野古移設を強化しようとしているのは、アメリカに媚(こび)を売っておけば、いざというとき米軍が日本のために血を流してくれると思っているからだろうが、たとえその時の米大統領がその気になったとしても議会が日本防衛の義務(日米安保条約では日本防衛は在日米軍の義務ということになっている)を果たすことを認めるかどうかは保証の限りではない(※安保条約にもそのことは明記されている)。
オバマ大統領は尖閣諸島について「日米安保条約5条の対象地域だ」と明言してくれているが、大統領が後退すれば、そんなリップ・サービスは無効になる可能性は高いと考えておいた方がいい。現に竹島についても、日本独立の際にはアメリカ政府は日本の要請に応じて「竹島は日本の領土だ」とリップ・サービスを贈ってくれたし、日本政府が米政府に「竹島に在日米軍基地を作ってほしい」とまで要請してアメリカもいったん承諾したが、米議会で承認されなかった。岩だらけの島を平坦地にして基地を建設するには膨大な費用がかかり、「費用対効果」の観点から「止めた」と日本との約束を破棄してしまった。
言っておくが、予定されている辺野古基地の建設費用は日本側がすべて負担しているが、それ以外の基地建設費用はすべてアメリカが負担して作ってきた。幻と消えた竹島基地建設計画も、敗戦直後の日本には建設費用を負担できる経済力がなく、「アメリカの金で基地を作ってくれ」という虫のいいお願いだった。日本が独立を果たして以来、韓国が李承晩ラインを設定して竹島を実効支配してしまったが、日本は手も足も出せず、アメリカも見て見ぬふりを続けている。尖閣諸島も、中国がアメリカの国益にかなう何らかの提案を米政府にした場合、アメリカ議会(上下両院)は日本を棚上げにして中国による実効支配を見て見ぬふりをする可能性は低くない。
日本が本気で竹島や尖閣諸島を自国の領土にするためには、大きな犠牲を覚悟して実力の行使による実効支配に踏み切る以外に手はない。外務省は竹島を返してもらうために平和的努力を続けていると言うが、そんな平和的努力は何百年続けても効果はない。では自衛隊による実力の行使に踏み切れるかというと、間違いなくアメリカが韓国のための防波堤になって、自衛隊の実力行使に「待った」をかける。アメリカのパワー・ポリティクスの戦略とはそういうものだということを、日本政府もそろそろ理解してもいいころだと思うのだが…。
共産が議席を大幅に伸ばしたことについて、共産も誤解はしていないだろうが、日本の左傾化を意味しているわけではない。変化を求めながらも、民主も維新も積極的には支持できないという、選挙民の「消去法による選択」によって多くの票が共産党候補者に流れただけだ。
実は私は、今回の統一地方選挙は「中央集権か地方分権の拡大か」が最大の争点になると思っていた。私は4月6日に投稿したブログ『民主主義とは何かがいま問われている⑪――安倍政権は中央集権政治へ突き進むつもりか?』と題した記事を投稿している。とりわけ地方分権を主張する維新は、沖縄県民の民意を踏みにじって、あくまで普天間基地の辺野古移設を強行しようとする安倍政権に対して、「民主主義の破壊だ。沖縄県民の意志を無視するなら統一地方選挙などやる必要がない。すべて地方行政機関は中央の出先機関にして、地方の民意は中央政府に従った場合のみ受け入れるというのが安倍政治の本質だ」と、なぜ主張しなかったのか。民意を問う意味をまったく理解していない政治家たちに、有権者たちがソッポを向いたのは当然と言えば当然のことだった。大阪都構想だけは大阪府民の民意を問うと主張しながら、沖縄県民が名護市長選・沖縄県知事選・総選挙で示した県民の民意は無視してもいい、と言わんばかりの選挙戦を戦って勝てるほど、日本の有権者はバカではない。
統一地方選の後半戦で野党が、有権者に対して「中央集権政治」か「地方分権の拡大」かが問われる選挙だ、と主張すれば必ず勝てる。もっとも私は予想屋ではないので、統一地方選から離れる。
17日、安倍総理がようやく重い腰を上げて、翁長・沖縄県知事との初の会談に応じた。予定の30分を少し超えたようだが、政府と沖縄の溝は一歩も埋まらなかった。トップ会談でも両者の溝が埋まらなかったということは、事態をかえって悪化させる結果になったとさえ言えよう。
総理は「辺野古への移設が唯一の解決策だ」と従来の姿勢を変えず、翁長知事は「沖縄の米軍基地は県民が差し出したものではない。強制的に県民の土地を奪っておきながら、嫌なら(辺野古以外の)代替案を出せというほど理不尽な話はない」と、これまた強硬な姿勢を貫いた。
翌18日、全国紙5紙はこの会談についていっせいに社説を書いた。要点を辺野古移設支持派の順から転記する。今回は各紙の主張に論評は一切加えない。そのあとで普天間基地の移設問題について私の見解を述べる。
産経新聞…「世界一危険とされる普天間の危険性を除去し、沖縄の基地負担軽減を進める。さらに日米同盟の抑止力を保ちながら安全保障を確かなものにする。この3点が課題であることは変わりようもない」「3点を実現できる案として、政府が苦慮した末に見出したのが、辺野古移設なのである」「沖縄の基地負担は、日本やアジア太平洋地域をはじめとする世界の平和に役立っている。政府や国民が、そのことを十分認識し、負担軽減に努めるのは当然だ」「中国が奪取を狙う尖閣諸島のある県の首長として、翁長氏には基地負担を通じ、平和に貢献している意識も持ってほしい」
読売新聞…「相手を批判するだけでは、沖縄の米軍基地負担の軽減という共通の目標は進展しない」「沖縄周辺では、中国が軍事活動を活発化させている」「在沖縄米軍の重要性は一段と増した。抑止力の維持と住民の負担軽減を両立する辺野古移設は、現実的かつ最良の選択肢だ」「沖縄では28年度までに、計1048ヘクタールにも上る県南部の米軍施設が順次返還される予定だ。仮に辺野古移設が停滞すれば、この計画も大幅に遅れかねない」「政府は、辺野古移設の意義と重要性を地元関係者に粘り強く説明し、理解を広げねばならない」
日本経済新聞…「会談で首相は名護市への移設を『唯一の解決策』と説明した。現実を踏まえれば、人口が比較的少ない辺野古への移設によって危険性を低減させる日米合意は妥当といえるだろう」「1996年に普天間返還で米政府と合意した橋本龍太郎首相は、当時の沖縄県知事だった大田昌秀氏と短時間に20回近くも会った。大田氏は結局、普天間代替施設を県内につくることに同意しなかったが、橋本氏の真摯な姿勢は県民にも評価する声があった」「安倍政権もこうした共感を沖縄県民の間に生み出すことができるか。知事を説得するにはこうした地道な努力が欠かせない」
朝日新聞…「安倍首相は26日から訪米を予定している。戦後70年の節目に日米同盟の深化を世界に示す狙いがある。沖縄県知事と会談することで、政権が普天間基地問題に積極的に取り組んでいる姿勢を米側に伝えられる、という目算も働いたのだろう」「だが、今回の会談を、政権の『対話姿勢』を米国に印象づけるための演出に終わらせてはいけない」「首相は打開の糸口を見いだせない現状を直視し、翁長知事が求めた通り、オバマ大統領に『沖縄県知事と県民は、
辺野古移設計画に明確に反対している』と伝えるべきだ」「翁長知事は…米軍による土地の強制収用や戦争の歴史に言及した。この言葉が含む史実の重さを、首相はどう感じただろうか」「政権が本気で『粛々』路線から『対話』路線へとかじを切るというなら、ボーリング調査をまず中断すべきだ。そうでなければ対話にならない」
毎日新聞…「首相は『これからも丁寧に説明しながら理解を得る努力を続けていきたい』とも語った。政府が辺野古移設をどうしても進めるというなら、口で言うだけでなく、最低限、沖縄への丁寧な説明を実行すべきだ」「沖縄からは安全保障上の必要性に対する疑問も出ている」「政府は、沖縄県の尖閣諸島をめぐる対立など中国の海洋進出をにらみ、抑止力を維持するために辺野古移設が必要というが、沖縄の人たちは必ずしも納得していない」「政府と沖縄の間には、全閣僚と知事が米軍基地問題や振興策について話し合う沖縄政策協議会があるが、翁長知事になって開かれていない。協議会の再開を含め、政権と沖縄が定期的に話し合う仕組みを早急に動かすべきだ」
実は普天間移設問題は、地方の民意を国政にどう反映させるべきかが問われている問題でもある。最高裁は1票の格差の根源は小選挙区制を導入した際、(※どさくさに紛れて自民党が党利党略のため)設けた一人別枠方式にあると断定した。私は『民主主義とは何かがいま問われている』と題したブログ・シリーズで、民主主義の最大の欠陥は多数決原理にあると何度も書いてきた。その欠陥は別に私が発見したわけではなく、アリストテレスやプラトンなどの大哲学者が「民主主義政治は愚民政治だ」と、とっくに指摘している。が、民主主義に代わる別のよりベターな政治システムを人類が発明できるまでは、「一歩後退二歩前進」あるいは「一歩前進二歩後退」を繰り返しながら、遅々とした歩みであっても、民主主義をより成熟化していく努力を続けていくしか方法がない、と私は書いてきた。そうした民主主義についての考え方は、たぶん私のオリジナリティではないかと自負している。
そういう意味では、私に言わせれば一人別枠方式は地方の少数意見を国政に反映させるための、考えようによっては民主主義の欠陥を補う一つの実験ではなかったかとさえ考えている。地方に多くの票田を持つ自民党の党利党略的要素は別として、でだ。だから一人別枠方式をなくしたら、1票の格差は少なくなるだろうが、大多数の人口を抱える大都市中心の政治に傾くことは疑いを容れない。そういう意味では一人別枠方式は、多数決原理の欠陥を補う可能性を秘めた選挙制度であることも私は否定しない。たとえ最高裁がどういう判決を下そうとも、論理的には私の考え方のほうが正しいと私は信じている。
が、一人別枠方式の廃止に悲鳴を上げた地方選出の自民党議員が、「地方の声が国政に届かなくなる」と主張するなら、いま政府に反旗を翻している沖縄県民の声に、どう向き合うべきかを考えてほしい。もし沖縄県民の声より政府が決めたことのほうを重視すべきだと考えるなら、地方の声を国政に反映させるための一人別枠方式も否定するのが筋だろう。その一点を抜きにして、普天間基地問題をメディアも政治家も語る資格がない。
次に沖縄の米軍基地が本当に日本にとって抑止力になっているのかも、論理的に考えてみるべきだ。ソ連が崩壊して以降、日本にとっての安全保障は飛躍的に高まった。そもそもソ連が、極東進出を狙っていた時代に、アメリカは日本防衛のために北海道に米軍基地を集中配備していたか。ソ連の脅威がなくなってから、米軍基地を北海道から撤去した史実があったか。アメリカはキューバがミサイル基地を建設しようとしたときは、ミサイルをキューバに持ち込もうとしたソ連に対し、核戦争をも辞さずという強硬姿勢を貫きソ連を屈服させたが、アメリカの国益にならないことで日本のために血を流してくれるなどと考えていたら、アマちゃんもいいところだ。沖縄の米軍基地は、日本のためではなく、アメリカの国益のためにあることを日本人は理解しておく必要がある。
さらに、いま日本が直面している最大の脅威は尖閣諸島問題ではない。中国が本気で尖閣諸島を奪おうと考えているなら、現在行っているような見せかけの挑発行為にとどまっていない。現に中国は南シナ海南部に存在する南沙諸島(無数の島・岩礁・砂州の総称)に着々と進出している。南沙諸島は広大な排他的経済水域(EEZ)の海洋・海底資源だけでなく、アジア東南海地域における大きな軍事的要衝でもあり、中国・台湾・ベトナム・フィリピン・マレーシア・ブルネイなどが相互に領有権を主張し合って譲らない。
その南沙諸島で、海洋資源開発のために中国は埋め立て事業を強行しており、滑走路まで建設中であることが判明している。なぜ南沙諸島に滑走路が必要なのか。単に海底資源を発掘して運搬するだけだったら滑走路など必要ないはずだ。滑走路建設の目的が軍事的拠点のためだということくらい、軍事的知識がゼロの私にも容易に理解できる。が、アメリカはウクライナ問題と同様、口では非難するが軍事力でロシアや中国に正面から阻止しようとはしない。軍事的衝突がアメリカにとって、かえって自国の国益を損ないかねないからだ。アメリカが自国の国益を損なっても、日本のために血を流してくれることを期待しているほど安倍総理もアマちゃんではあるまい。
安倍総理が現行憲法の枠組みにとらわれず、アメリカのために血を流せる「軍
隊」に自衛隊を変えようとしたり、アメリカのためにアジア東南海地域におけるアメリカの支配力強化を手助けするために普天間基地の辺野古移設を強化しようとしているのは、アメリカに媚(こび)を売っておけば、いざというとき米軍が日本のために血を流してくれると思っているからだろうが、たとえその時の米大統領がその気になったとしても議会が日本防衛の義務(日米安保条約では日本防衛は在日米軍の義務ということになっている)を果たすことを認めるかどうかは保証の限りではない(※安保条約にもそのことは明記されている)。
オバマ大統領は尖閣諸島について「日米安保条約5条の対象地域だ」と明言してくれているが、大統領が後退すれば、そんなリップ・サービスは無効になる可能性は高いと考えておいた方がいい。現に竹島についても、日本独立の際にはアメリカ政府は日本の要請に応じて「竹島は日本の領土だ」とリップ・サービスを贈ってくれたし、日本政府が米政府に「竹島に在日米軍基地を作ってほしい」とまで要請してアメリカもいったん承諾したが、米議会で承認されなかった。岩だらけの島を平坦地にして基地を建設するには膨大な費用がかかり、「費用対効果」の観点から「止めた」と日本との約束を破棄してしまった。
言っておくが、予定されている辺野古基地の建設費用は日本側がすべて負担しているが、それ以外の基地建設費用はすべてアメリカが負担して作ってきた。幻と消えた竹島基地建設計画も、敗戦直後の日本には建設費用を負担できる経済力がなく、「アメリカの金で基地を作ってくれ」という虫のいいお願いだった。日本が独立を果たして以来、韓国が李承晩ラインを設定して竹島を実効支配してしまったが、日本は手も足も出せず、アメリカも見て見ぬふりを続けている。尖閣諸島も、中国がアメリカの国益にかなう何らかの提案を米政府にした場合、アメリカ議会(上下両院)は日本を棚上げにして中国による実効支配を見て見ぬふりをする可能性は低くない。
日本が本気で竹島や尖閣諸島を自国の領土にするためには、大きな犠牲を覚悟して実力の行使による実効支配に踏み切る以外に手はない。外務省は竹島を返してもらうために平和的努力を続けていると言うが、そんな平和的努力は何百年続けても効果はない。では自衛隊による実力の行使に踏み切れるかというと、間違いなくアメリカが韓国のための防波堤になって、自衛隊の実力行使に「待った」をかける。アメリカのパワー・ポリティクスの戦略とはそういうものだということを、日本政府もそろそろ理解してもいいころだと思うのだが…。
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