「イスラム国」はこれまで、敵国側と見なす人質の殺害予告に関しては、「イスラム国」の要求が受け入れられなかった場合、例外なく予告通り殺害してきた。今回の人質事件も、当初日本政府に対して72時間以内に2億ドルを身代金として要求したときは、72時間を経過したのち、民間の軍事会社を経営しているとされる湯川遥菜氏だけを容赦なく殺害した。そのとき、「イスラム国」を名乗るテロ集団がなぜ湯川氏だけを殺害し、フリー・ジャーナリストの後藤健二氏を殺害しなかったのか、その疑問がようやく解けだした。
「イスラム国」側の姿勢に大きな変化が見られたのは、1月25日(日本時間)に後藤氏が殺害されたと見られる湯川氏の写真を胸に抱いて、自分とヨルダンに拘束されている死刑囚の元テロリストのリシャウィの人質交換をネットで要求した時点からだ。後藤氏はこう言った。
「もうテロリストに金を払う必要はなくなった。ヨルダンに拘束されているリシャウィ死刑囚を釈放すれば、私の命は救われる。簡単なことだ」
死刑囚、それも日本の死刑囚ではなくヨルダンの死刑囚と自分の命を引きかえに出来るかどうかは、紛争地域を取材してきた後藤氏には「ありえないことだ」ということは分かりきった話のはずだ。おそらく後藤氏は、テロリスト側が用意した原稿を棒読みさせられたにすぎないとは思う。ただ、その時の英語での発言では「もうテロリストに金を払う必要はない」と言っていることに、私は多少の違和感を抱いた。テロリストは、自らの行動を正当な行動と見なしており、自らをテロリストと名乗ることはありえないからだ。ひょっとすると陽動作戦の一種のつもりかとも思ったが、死刑囚の釈放を「簡単なこと」とあっさり言ってのけたことにも不自然さを覚えた。
時系列で人質事件を振り返ってみよう。
20日14:50 「イスラム国」が日本政府に2億ドルの身代金を要求。
24日23:00すぎ 湯川氏が殺害されたとみられる画像がネットで公開。後藤氏が英語で「イスラム国」の要求が身代金請求から死刑囚釈放に変わったことを肉声発言。
27日23:00頃 後藤氏が「イスラム国」の最後通告を代読。「24時間以内にリシャウィ死刑囚を釈放しなければ、『イスラム国』はまずヨルダン軍パイロットのカサースベ中尉を、続いて私を殺害する」と発言(英語)。
28日20:00すぎ ヨルダン政府が初めてリシャウィ死刑囚釈放の条件を提示、カサースベ中尉との人質交換に応じる用意があることを明言。
同日23:00頃 「イスラム国」の最後通告は事実上破棄された。
29日8:00前 後藤氏が「イスラム国」の二度目の最後通告を代読。「イラク時間29日日没(日本時間23:30頃)にリシャウィ死刑囚と私を人質交換」の要求を英語で発言。
同日(時間不明) 後藤氏の妻が初めて声明を発表、すでに後藤氏が代読した後藤氏解放条件と同じ内容を公開。後藤氏の妻によれば、テロリスト集団から「このメッセージを国際的なメディアに公表しろ。さもなければ次は健二だ」とのメールを受け取ったということだ。
同日23:30頃 二度目の最後通告に期限切れ。「イスラム国」はなんの声明も出さず。
現在30日の9:00。依然として人質事件はこう着したままだ。事件発生以来、日本政府は中山外務副大臣がヨルダンに詰めきりで、本国政府と緊密な連絡を取りながらヨルダン政府側と事態収拾に向けて交渉を重ねているという。
が、日本政府としてはまさか「ヨルダンのパイロットの救出とは無関係に、後藤氏解放のためにリシャウィ死刑囚を釈放してくれ」とはいくら何でも頼めない。そんなバカな要求をしたら日本政府は国際社会から袋叩きに会う。
それにしても日本のメディアの無神経さは、「イスラム国」がヨルダン軍パイロット・カサースベ中尉についての情報を一切開示していないことへの疑問を抱いたことさえないことだ。もしカサースベ中尉が無事だったら、「イスラム国」にとってはリシャウィ死刑囚の釈放条件の武器としては、後藤氏との人質交換よりはるかにヨルダン政府と合意しやすい条件になる。「イスラム国」はなぜ最高の交渉条件であるカサーベス中尉を表に出さないのか。あるいは出したくても出せない状況、つまりすでに何らかの事情で(つまり見せしめのための処刑ではなく)カサーベス中尉が死亡している可能性が極めて強まったと考えるのが合理的だ。処刑だったら、「イスラム国」は間違いなく公表している。
ヨルダン政府側が、カサーベス中尉の生存と開放を前提にしない限り、リシャウィ死刑囚を釈放などできないことは赤ん坊でも分かる道理だ。中山副大臣も、いくらなんでも「カサーベス中尉の生死とは関係なく後藤氏とリシャウィ死刑囚との人質交換の話を進めてくれ」とは言えない。ヨルダン政府側は何度も「イスラム国」にボールを投げかけている。が、投げたボールはブラックホールに吸い込まれたように、まったく返ってこない。
「イスラム国」も、完全に当てが外れた。「イスラム国」にとっては、彼らのテロ活動の象徴的人物にさえなってしまったリシャウィ死刑囚の奪還は、「イスラム国」内部の権力構造に大きな変化を与えかねない状況になっているとみるのが自然だろう。
いかなる組織でも権力争いはある。サルをはじめ動物たちの集団でも、権力の座を巡る争いは熾烈である。日本のメディアは「イスラム国」は一枚岩だと思っているのかもしれないが、組織が人間たちの集団である以上、権力闘争はたとえ表面化していなくても必ずある。
改めてこのブログの冒頭で書いたことを繰り返すが、「イスラム国」が身代金や人質交換を目的にして、要求が拒否された場合、拘束していた人間を無事に解放したケースはかつてない。最後通告通り、人質を殺害してきた。だいいち最後通告を何度も譲歩して、先延ばししたりしたこともない。
いま「イスラム国」にとっては後藤氏の存在は、武器どころか重荷にさえなっていると思う。二度の最後通告を自ら破棄してきた「イスラム国」にとっては、三度目の最後通告はおそらく出せないと思う。「イスラム国」の最後通告におたおたしているのは日本だけで、今度最後通告を出して破棄せざるを得ないことになったら、国際社会から「イスラム国」は間違いなく「オオカミ少年」扱いされることになり、テロの「脅威」も意味を持たなくなってしまうからだ。
1970年3月31日、日本中を震撼させた事件が発生した。赤軍派によるよど号ハイジャック事件だ。このとき、運輸省の山村新次郎政務次官は乗客・乗員の身代わりとしてハイジャック犯の人質になり、人質の解放にこぎつけた。もし、後藤氏の解放に政府が責任があると考えるのなら、中山康秀外務副大臣を後藤氏の身代わりとして「イスラム国」に人質交換を申し入れたらどうか。
私は責任を持てないが、「イスラム国」も今さら身代金要求に戻すわけにもいかず、ヨルダン政府が要求しているカサーベス中尉を解放できる状態にないとしたら、はっきり言って「イスラム国」は後藤氏を持て余している。中山外務副大臣が身代わりを買って出れば、「イスラム国」はもっけの幸いと、日本側の提案に飛びつくのではないか。その場合、中山氏が新たな殺害対象になる可能性は極めて低いと思う。もし「イスラム国」が中山氏を殺害対象の人質として身代金要求やリシャウィ死刑囚の釈放を要求したりしたら、「イスラム国」自体が瓦解しかねない。
ま、最も私自身は26日に投稿したブログでも書いたように、後藤氏のシリア潜入は、仮に湯川氏救済目的であったとしても(後藤氏の妻はそう信じているようだが、それを裏付ける状況証拠もない)、明らかに自己責任行為であり、後藤氏自身「自分の身に何があろうと自己責任だ」とのメッセージを残してシリアに潜入している。安倍総理をはじめとして日本政府が大騒ぎをして後藤氏解放にしゃかりきになる必要はない、と私は思っている。
メディアは、もっと冷静に報道して欲しい。後藤氏の母親が息子の命乞いをしているが、こんな人騒がせな事件を起こした息子を育てた私が悪かったと、私なら言う。それでも息子を助けたいなら、「私が身代金の一人分1億ドルを何としてでも支払う」と言うべきだろう。1億ドルもの大金は持っていないかもしれないから、その場合は「自分の全財産を『イスラム国』に寄付するから、それで何とか息子の命の代わりにしてほしい」と「イスラム国」にお願いすべきだろう。自分は安全地帯にいて、政府に頼めるだけの権利があるのだろうか。
「イスラム国」側の姿勢に大きな変化が見られたのは、1月25日(日本時間)に後藤氏が殺害されたと見られる湯川氏の写真を胸に抱いて、自分とヨルダンに拘束されている死刑囚の元テロリストのリシャウィの人質交換をネットで要求した時点からだ。後藤氏はこう言った。
「もうテロリストに金を払う必要はなくなった。ヨルダンに拘束されているリシャウィ死刑囚を釈放すれば、私の命は救われる。簡単なことだ」
死刑囚、それも日本の死刑囚ではなくヨルダンの死刑囚と自分の命を引きかえに出来るかどうかは、紛争地域を取材してきた後藤氏には「ありえないことだ」ということは分かりきった話のはずだ。おそらく後藤氏は、テロリスト側が用意した原稿を棒読みさせられたにすぎないとは思う。ただ、その時の英語での発言では「もうテロリストに金を払う必要はない」と言っていることに、私は多少の違和感を抱いた。テロリストは、自らの行動を正当な行動と見なしており、自らをテロリストと名乗ることはありえないからだ。ひょっとすると陽動作戦の一種のつもりかとも思ったが、死刑囚の釈放を「簡単なこと」とあっさり言ってのけたことにも不自然さを覚えた。
時系列で人質事件を振り返ってみよう。
20日14:50 「イスラム国」が日本政府に2億ドルの身代金を要求。
24日23:00すぎ 湯川氏が殺害されたとみられる画像がネットで公開。後藤氏が英語で「イスラム国」の要求が身代金請求から死刑囚釈放に変わったことを肉声発言。
27日23:00頃 後藤氏が「イスラム国」の最後通告を代読。「24時間以内にリシャウィ死刑囚を釈放しなければ、『イスラム国』はまずヨルダン軍パイロットのカサースベ中尉を、続いて私を殺害する」と発言(英語)。
28日20:00すぎ ヨルダン政府が初めてリシャウィ死刑囚釈放の条件を提示、カサースベ中尉との人質交換に応じる用意があることを明言。
同日23:00頃 「イスラム国」の最後通告は事実上破棄された。
29日8:00前 後藤氏が「イスラム国」の二度目の最後通告を代読。「イラク時間29日日没(日本時間23:30頃)にリシャウィ死刑囚と私を人質交換」の要求を英語で発言。
同日(時間不明) 後藤氏の妻が初めて声明を発表、すでに後藤氏が代読した後藤氏解放条件と同じ内容を公開。後藤氏の妻によれば、テロリスト集団から「このメッセージを国際的なメディアに公表しろ。さもなければ次は健二だ」とのメールを受け取ったということだ。
同日23:30頃 二度目の最後通告に期限切れ。「イスラム国」はなんの声明も出さず。
現在30日の9:00。依然として人質事件はこう着したままだ。事件発生以来、日本政府は中山外務副大臣がヨルダンに詰めきりで、本国政府と緊密な連絡を取りながらヨルダン政府側と事態収拾に向けて交渉を重ねているという。
が、日本政府としてはまさか「ヨルダンのパイロットの救出とは無関係に、後藤氏解放のためにリシャウィ死刑囚を釈放してくれ」とはいくら何でも頼めない。そんなバカな要求をしたら日本政府は国際社会から袋叩きに会う。
それにしても日本のメディアの無神経さは、「イスラム国」がヨルダン軍パイロット・カサースベ中尉についての情報を一切開示していないことへの疑問を抱いたことさえないことだ。もしカサースベ中尉が無事だったら、「イスラム国」にとってはリシャウィ死刑囚の釈放条件の武器としては、後藤氏との人質交換よりはるかにヨルダン政府と合意しやすい条件になる。「イスラム国」はなぜ最高の交渉条件であるカサーベス中尉を表に出さないのか。あるいは出したくても出せない状況、つまりすでに何らかの事情で(つまり見せしめのための処刑ではなく)カサーベス中尉が死亡している可能性が極めて強まったと考えるのが合理的だ。処刑だったら、「イスラム国」は間違いなく公表している。
ヨルダン政府側が、カサーベス中尉の生存と開放を前提にしない限り、リシャウィ死刑囚を釈放などできないことは赤ん坊でも分かる道理だ。中山副大臣も、いくらなんでも「カサーベス中尉の生死とは関係なく後藤氏とリシャウィ死刑囚との人質交換の話を進めてくれ」とは言えない。ヨルダン政府側は何度も「イスラム国」にボールを投げかけている。が、投げたボールはブラックホールに吸い込まれたように、まったく返ってこない。
「イスラム国」も、完全に当てが外れた。「イスラム国」にとっては、彼らのテロ活動の象徴的人物にさえなってしまったリシャウィ死刑囚の奪還は、「イスラム国」内部の権力構造に大きな変化を与えかねない状況になっているとみるのが自然だろう。
いかなる組織でも権力争いはある。サルをはじめ動物たちの集団でも、権力の座を巡る争いは熾烈である。日本のメディアは「イスラム国」は一枚岩だと思っているのかもしれないが、組織が人間たちの集団である以上、権力闘争はたとえ表面化していなくても必ずある。
改めてこのブログの冒頭で書いたことを繰り返すが、「イスラム国」が身代金や人質交換を目的にして、要求が拒否された場合、拘束していた人間を無事に解放したケースはかつてない。最後通告通り、人質を殺害してきた。だいいち最後通告を何度も譲歩して、先延ばししたりしたこともない。
いま「イスラム国」にとっては後藤氏の存在は、武器どころか重荷にさえなっていると思う。二度の最後通告を自ら破棄してきた「イスラム国」にとっては、三度目の最後通告はおそらく出せないと思う。「イスラム国」の最後通告におたおたしているのは日本だけで、今度最後通告を出して破棄せざるを得ないことになったら、国際社会から「イスラム国」は間違いなく「オオカミ少年」扱いされることになり、テロの「脅威」も意味を持たなくなってしまうからだ。
1970年3月31日、日本中を震撼させた事件が発生した。赤軍派によるよど号ハイジャック事件だ。このとき、運輸省の山村新次郎政務次官は乗客・乗員の身代わりとしてハイジャック犯の人質になり、人質の解放にこぎつけた。もし、後藤氏の解放に政府が責任があると考えるのなら、中山康秀外務副大臣を後藤氏の身代わりとして「イスラム国」に人質交換を申し入れたらどうか。
私は責任を持てないが、「イスラム国」も今さら身代金要求に戻すわけにもいかず、ヨルダン政府が要求しているカサーベス中尉を解放できる状態にないとしたら、はっきり言って「イスラム国」は後藤氏を持て余している。中山外務副大臣が身代わりを買って出れば、「イスラム国」はもっけの幸いと、日本側の提案に飛びつくのではないか。その場合、中山氏が新たな殺害対象になる可能性は極めて低いと思う。もし「イスラム国」が中山氏を殺害対象の人質として身代金要求やリシャウィ死刑囚の釈放を要求したりしたら、「イスラム国」自体が瓦解しかねない。
ま、最も私自身は26日に投稿したブログでも書いたように、後藤氏のシリア潜入は、仮に湯川氏救済目的であったとしても(後藤氏の妻はそう信じているようだが、それを裏付ける状況証拠もない)、明らかに自己責任行為であり、後藤氏自身「自分の身に何があろうと自己責任だ」とのメッセージを残してシリアに潜入している。安倍総理をはじめとして日本政府が大騒ぎをして後藤氏解放にしゃかりきになる必要はない、と私は思っている。
メディアは、もっと冷静に報道して欲しい。後藤氏の母親が息子の命乞いをしているが、こんな人騒がせな事件を起こした息子を育てた私が悪かったと、私なら言う。それでも息子を助けたいなら、「私が身代金の一人分1億ドルを何としてでも支払う」と言うべきだろう。1億ドルもの大金は持っていないかもしれないから、その場合は「自分の全財産を『イスラム国』に寄付するから、それで何とか息子の命の代わりにしてほしい」と「イスラム国」にお願いすべきだろう。自分は安全地帯にいて、政府に頼めるだけの権利があるのだろうか。
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