続・切腹ごっこ

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「少年悲歌」中康弘通著 3/4

2008-02-17 | ★レビュー(本)
あー‥ 時間かけて書いた記事が消えた‥ なんでログイン画面が今頃出てくるんだ‥
気を取り直してもう一回‥、
前回の続きで「少年悲歌」の各小説の紹介と感想。

◆実熟れず
 三樹夫が憧れる従姉の美輪子は、今日結婚する。
 女の子みたいで頼りない三樹夫を、美輪子は自分も通う剣詩舞の道場に通わせた。発表会が迫ったある夜、美輪子は三樹夫を特訓する。三樹夫は「白虎隊」の切腹の動作が、言い知れぬ抵抗感と気恥ずかしさでうまく出来なかった。煮え切らない三樹夫に美輪子は手本を見せる。
 三樹夫は切腹の特訓をしたあの夜を思い出していた。美輪子が吟じたテープをかけ、美輪子のポートレートがほほ笑む前で、三樹夫は本物の刀で本当に腹を切った。「美輪子さんッ、見て、見てッ、教わったとおり、ぼくは、切腹、しますッ」

◆悲願
 ゆきは、大きな旧家の主の、しかし今は天涯孤独となった同じ年ごろの少年の世話をしていた。少年は病弱で、楽しみといえば、ゆきに古典や歴史小説を朗読してもらうことぐらいだった。ゆきが朗読する武士の悲壮な最期を描いた物語を聞きながら、少年は短刀に見立てたおもちゃの刀で切腹した。
 「ぼくの好きなあのあかね色の空の下、思うさま腹掻き切って死にたい」というのが、少年のたった一つの願いだった。ゆきは少年に生きていてほしいと願いながらも、たった一つの願いをかなえてやりたいとも思っていた。
 本土決戦が現実味を帯び始めた頃、空が美しいあかね色に染まる日が来た。少年はゆきに縫わせた死装束に着替え、ゆきが朗読する中、鎧どおしで腹を切った。しかし、いつもするように一気に切ることはできず、ゆきの介添えでようやく思いを成し遂げることができた。
 ゆきも後を追って脇差を腹に突き立てたが死にきれなかった。

◆海風の来る丘
 靖男はいつも清拭をしてくれる真崎看護婦に憧れていた。ある時真崎を怒らせてしまった靖男はお詫びに腹を切るまねをするが、「そんなことでは腹は切れない」と言われてしまう。真崎の兄が書き残した「切腹覚書」というノートを読んだ靖男は再び真崎に切腹を見せ、今度は一人前だと認められる。
 空襲が激化する中、病院の閉鎖が決まった。期日の夜、真崎を呼んでおいて靖男は切り出し小刀を腹に突き立てた。部屋に入ってきた真崎は傷が深いと見ると、靖男に手を添えた。真崎の手で腹を断ち切られながら靖男は満ち足りていた。

◆夏の記憶
 信太は従姉の初美の部屋で六寸ほどの擬刀を見つけた。帰ってきた初美に部屋に入って何をしていたのかを問いただされ、言われるままに擬刀を腹にあて切腹のまねをした様子を再現する。そんなことじゃおなかは切れない、と初美は信太に切腹の作法を教える。そのあとで初美は水着に着替え、普段やっているように切腹の真似をして見せた。信太は切腹の真似を見せあうなど異常だと思えたが、“ねえさん”がすることならいいんだ、という気になった。初美は「二人きりの秘密よ」と言い、二人はゆびきりをした。

◆少年の哀しみ
 “わたし”は自分がいるせいで母が父と別れることができないと思い、「いい子」になって母に愛されるためには切腹して死ぬしかないと思っていた。わたしは常に二本の切り出し小刀を持ち歩いていた。新聞で見た「女腹切り」という小説に心惹かれたが、読むと本当に切腹してしまうような気がして怖くなり読まなかった。わたしは白虎隊の少年たちや椿説弓張月の島の冠者為頼という少年の切腹にも憧れた。
 母が入院している病院の看護婦のIさんとYさんとの会話から、Yさんに見守られながら切腹する自分を想像してみたりもした。わたしは、Yさんとのただ一度の愛のあと、切腹することを望んでいた。

◆少年慕情
 「りりしいわね、あなたぐらいの年頃でいさぎよく立派に切腹して果てたのよ」従姉の秀美のあのうっとりしたような言葉を聞いてから、幸雄は憑かれたように切腹のまねをするようになった。
 ある日、秀美が家のプールに呼んだ女友達二人の着替えを幸雄は見てしまう。怒る秀美に、幸雄は「切腹する」と言う。幸雄は悲しみともよろこびともつかない心の高ぶりを感じていた。秀美が持ってきた懐剣を幸雄は腹に突き立てるが刺さらない。懐剣は模造だった。
 幸雄の覚悟を知った秀美は、秀美への思いを書きつづった幸雄の日記を盗み見たことを告白する。そのお詫びに、と秀美はさっきの懐剣で切腹の真似をして見せた。それを見て自分も切腹したい衝動を抑えられない幸雄は、その懐剣をとってまた腹に突き立てて言う。「ぼく、おねえさんの目の前で本当に切腹してしまいたい」


 この6篇は現代のもの、戦時中のもの、本当に切腹するもの、切腹のまねをするもの、いろいろだ。ただ共通しているのは、主人公の少年よりも“強い”女性が登場するということだ。このうち3篇は女性が従姉だというのも興味深い。たしかに従姉のおねえさんというのは少年が憧れを抱く存在かもしれない。
 少年はその女性に命令されて、または見守られながら、あるいは介添えを受けて、切腹する。少年自身はというと女性に比べて年下だったり、病弱だったりする。前回の6篇の連作も夫より妻の方が強い。この人間関係は著者の趣味だろうか?

 今回も読んでいて思うのは、同じ切腹趣味を持つ人と出会える(さらにそれが自分が憧れを抱く人)幸せだ。切腹の話題になると微かに表情が上気しているように見える、いやに腹を切る動作をして見せることが多い、その時はいやに嬉しそうだ、切腹シーンが流れると画面を食い入るように見つめる、部屋に短刀を隠している‥そんな人身近にいないかな~

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20代・11
位△ イラスト・89位△

少年悲歌 (1979年)
中康 弘通
三人会
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