2011年4月16日(土) 午前中でやるべきことのけりが付き、午後からは久し振りに自分の時間が取れそうだ。
『どうや。 今日の夕方は温泉に行って、晩ご飯を”さしみ屋”さんで食べて帰らんか?』 『うん、ええよ』
『よっしゃ。 じゃあ、ちょっとウオーキングしてくるけん、帰ったら出掛けようや』
これまた久し振りとなる、1時間弱のウオーキングの後、アテンザワゴンで家を出た。 今日は、久し振りに倉橋島の温泉とグルメを堪能する日帰りドライブである。
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何ヶ月振りだろうか、桂浜の温泉へ。 露天風呂やサウナに入り、日頃の疲れをゆっくりと癒す。 露天風呂に入っていると、おじさんに話し掛けられ、イノシシの話題で盛り上がる。
『ここのタケノコは大きゅう伸びよるが、山にある分はイノシシが食べるけえ、そがあに採れんよ』 『そうなんですか。 そがあにイノシシが増えよりますか』
『多いいうもんじゃないよ。 そりゃあまあ、みんな困っとる』 『でもイノシシの肉、たまにもろうて食べよりますが、美味しいですよねえ』 『うん。 ありゃあ、獲った人がちゃんと血抜きをすりゃあ旨いし、血が肉に回ってしもうたら癖があって食べられん。 ほんま、獲った人、調理する人の腕次第よね』
半年近く続いている引き蘢り生活。 久し振りに心にも余裕ができ、温泉に来たのだが、そこで見ず知らずのおじさんに話し掛けていただき、四方山話を楽しんだ。
温泉で体が癒され、なんとはない世間話で心が癒される。 『うん、まだまだ私自身にも、初対面の方に話し掛けていただけるような、”あるくみるきく”の空気感は残っているんだなあ』 嬉しい限り。
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温泉の後は、まず醤油の買い出し。 倉橋島に、おいしいさしみ醤油があり、うちの家族はこの醤油が大のお気に入り。 京都に行った次男も、ここの醤油を送って欲しいとのことで、買い出しにきたのである。
その後は、これまた久し振りに『里らむね』さんへ。 去年の夏から家の残っていた、貴重なラムネの瓶をケースごと返却に。
島ならではの狭い路地を抜け、里ラムネさんへ。 クルマを止め、玄関の引き戸を開けようとしたが、鍵がかかっていた。 残念!
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仕方なく、ラムネの瓶を返してそのまま『北吉鮮魚店』へ。
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懐かしい『さしみ屋さん』 ここへは何度も通っているが、なんと言っても想い出深いのは、Goさん達と来た時の『バースデイ豆腐』
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まずは、ここの定番である『ゆぶき』と『刺し盛り』
いやあ、ほんとうにここの『ゆぶき』は絶品である。 スーパーマーケットで売っているものとは全くの別物!
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もちろん『さしみ』はコリコリと最高である。 『えご』の甘口刺身醤油との相性が抜群だ。
魚のフライもサクサク。 突き合わせのトマトも味が濃厚で、これまたビールのつまみに合うのだなあ。
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そして、究極のお勧めが、北吉鮮魚店名物、『魚の内蔵煮込み』。 通称、『もつ煮込み』である。
様々な種類の内蔵が甘辛く炊かれており、ある部位はあっさりシコシコ。 またある部位はネットリ濃厚。 魚のモツ煮込みをパクリ、熱燗をグビリ。
『うーん、ほんまにこの煮込みは最高や!』
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刺身を食べ、もつ煮込みをつつきながら酒を飲んでいると、同じテーブルの常連さん達と自然に話しが盛り上がってきた。
地元で大工さんや植木屋さんをしておられる方々。 漁師さんだという気さくなおじさん。 バカ話や地元の話題が酒のつまみになり、おいしく楽しい一時。
呉の飲み屋さんの話題。 島にある飲み屋さんの話。 今年で廃業するという地元の銭湯の事。 ラムネ屋さんの事。
『さっきは、桂浜温泉に入ってからここに来たんですよ』 『ほうや。 わしもさっき行っとったんで』
『そうでしょう。 サウナで横に座っとられましたよ。 怖そうな人が居るのう、思いよったんですよ』 『ほうかいの。 そう言われりゃああ、あんたの顔を見た様な気もするのう。 でもさっきから、こっちこそ、坊主頭の怖いやつが居る、思いよったんよ』
いやあ、やっぱりそうだったか。 さっき見た顔だよなあ! そしてこのような会話を横で聞きながら、妻は苦笑い。
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おいしい島の味噌。 かつては畑仕事で使われていたという、バタンコの話題。
若い頃は、呉で飲み、そのまま広島に出て飲み、朝方島に帰ってきてそのまま仕事に言っていたという話、などなど。
『それにしても、ここで初めて”穴子の刺身”を食べた時はびっくりしました』 『ほうじゃろう。 穴子の刺身なんか、他じゃああまり食べられん』 『いやあ、ほんまにあんなコリコリの食感で、しかもきれいな色の刺身いうて、こりゃあなんじゃろうかと思うとりましたよ。 それが”アナゴ”じゃいうて聞いて、びっくりして』
『わしが行きよる広島の飲み屋のママも、ここにアナゴの刺身を食べに来るいうけえのお』 『いやあ、ほうでしょう。 ほんま他じゃあ食べれませんけん』
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年寄りの植木屋さんは、『植木ものう、こがあな小さな芽を見て、これが今年はどう伸びるかを考えて切るか切らんか決めるんじゃ』
『それだけじゃない。 1年目はこう伸びても、3年先、4年先には、木全体がどうなるかを想像して、その芽を摘むか、延ばすか考える。 木を見りゃあ、どうして欲しいかだいたい見えるんよ』
『ほうですか! そりゃあすごい。 じゃあ、人を見ても、こいつが将来どがあになるか、だいたい分かるんじゃないですか』 『うん、まあそうじゃのう』
大工さんに言わせると、この植木屋さんは腕がいいから専属として雇われ、重宝されているとか。 雄弁なタイプでも、酒を飲んで絡むタイプでもなく、静かに酒を飲みながら朴訥と話す植木屋さんのその話の内容は、とても興味深いものであった。
漁師さんには、しらす漁の事をいろいろと教えていただき、今日は久し振りに『あるくみるきく』を堪能することができた。 大工さんも、『おお、今日は話が盛り上がって楽しいけえ、もう一杯のもうかのお』
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持ち帰りに、息子への土産用の刺身と、俺のつまみ用の『アナゴの刺身』を頼んだら、ご主人が網に入れた生きたアナゴを持ってきて、『今からこれを捌きます』
『ここは、生きた魚しか刺身にせんけんね』と漁師さん。 いやあ、嬉しい限り!
『呉のあそこの飲み屋や、この地元の飲み屋へ行って、わしの名前をだしゃあ、半額にしてくれるけん』 『ほうですか。 じゃあぜひ今度行ってみますよ』
『また、ここで一緒に飲めりゃあええのお』 『ほんまですね。 わしも楽しみにしとります。 また来ますけん』
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『ごちそうさまでした』 地元の方々に愛され続ける北吉鮮魚店で、久し振りの『あるくみるきく』
『うん。 まさにこれだ、これ。 当分忘れていたこの間隔、このバカ話、地元ならではの貴重な話題と会話』 俺はやっぱりこの空気感がぴったりだ。 約半年間の引き蘢り生活で忘れかけていた、大切な何かを思い出したような気がする。 これは良い週末になったなあ。