谷中・根津・千駄木あたりを一括して「谷根千」と呼んでいるらしい。前に地下鉄根津駅裏の露地沿いにあった東京裏店風ラーメン屋「松島」のラーメンを食べたことがある。そのときに寄ったことがある「タナカホンヤ」という古書店の20代的新感覚のあっけらかんぶりを覚えていて、今回はGWのさなかにフリマ・骨董サークルの連中とその辺を歩いてみることにした。
5月3日がちょうど地域振興イベント「不忍ブックストリート」の実施日だ。其の日なら在庫もレアなものがあると読んでこの界隈の風物もついでに楽しむ歩きとなった。会場は協賛する古本店の店先、老人施設、教会、新劇劇団小屋、お休みの商店、カフェなど実に多彩な臨時会場が散らばっている。「一箱古本市」はそこへアマチュアが運んできたリサイクルブックを売るという企画だ。一箱等の少ない数じゃ売り手と買い手のコンセプトがずれていたらどうしょうないだろう?と危惧しながら古本セミプロ級の自分も餌箱を視覚と嗅覚をフル動員しながら巡り歩く。ここでわかったことは売り手が本を知りすぎていないコーナーが買い手には魅力があるということだ。安部公房の「石の眼」等の初版に2000円をつけるような時代じゃなくなっていることに売る側も気がつかないといけない。
途中に谷中「よみせ通り」にある「浅野」という和食食堂で「穴子天丼」を食べたり、一度入ってみようと思っていた写真館跡の写真カフェ「ケープルヴィル」にも寄ることができた。付近を歩きながらそこから遠くない東日暮里に住んでいたカメラマンのS君のことなどを思い出す。S君は今年初めに癌で亡くなったが、若い頃は駒込、田端、根岸を彷徨していてよく自分と接点があったジャズ話題に日暮里「シャルマン」や上野「イトウ」へ寄ってきた話が登場していた。一箱古本市は実りある収穫はなかった。
自分は仙台在住作家、佐伯一麦さんの8年間に亘る仙台暮らし日記を「タナカホンヤ」の「くものす洞」で見つけた。趣味友のMさんはその先の教会軒先で「すきまの雑草図鑑」という一箱古本市にふさわしい味わいの本を見つけて喜んでいた。他人事ながらこういうことが喜びの分かち合いというのだと思う。