Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

からだの覚醒

2011-11-30 19:12:10 | その他
遺跡発掘の労役作業に参加して一週間があっというまに過ぎ去った。班を組んで男女が遺跡調査会社の社員からその日行う役務の指示をうけて広大な地面を指定の寸法に削る。掃き寄せられた廃土をベルトコンベアーまで一輪車の「ねこ」で運ぶ。古層の土中に眠る古代の住居跡へ辿りつくには綿密な計画に沿って土の包含層を機械プラス人力で切り開くのだ。

我々作業員は原始的な手仕事の人海戦術の為に雇われている次弟である。旧石器時代の住居跡へは2メートル近い掘削が必要らしい。朝9時の訓示を受けるまえにプアーなラジカセから流れるラジオ体操第1。これも30年ぶりという珍風景に同化するも、微妙なるテンポのズレが滑稽風について廻る。それにしても腕や膝や腰の部位がどんどん柔軟性を失くしていることはラジオ体操みたいな軽度の負荷にも歴然と現れている。亡くなった親父は60歳代の後期にリウマチを患った。朝の寝起きに右手の薬指がこわばって鈍い痛みがする。するとこれがスコップや植栽用コテの不適切な使用に影響された疲労痛なのに、リウマチではないか?などと妄想が湧くのも困った心理だ。幸いにも一年半まえにピークが来た心臓の血管閉塞はその後のケアが上手く働いている。労役で相当な呼吸負担があっても胸苦しいというか息苦しい自覚が起きていない。ジョレンという鍬や角スコップを数時間も使う体験は初めてのこと。


二日ほど腿の裏側の筋肉、肩の張りが起こったが、入浴時間におまじないみたいに使ってみた「別府八湯温泉の素」ドイツクナイプ社の入浴剤これなどは、肉体労働による疲れを相当に緩和しているようだ。息を荒げ、手足を使う、汗を搾る、一週間におよぶこの繰りかえしはいまのところよき作用を齎してくれている。怠惰に馴れた体は少しづつ覚醒して、睡眠や食欲が増進している。それらの効用に加えて来年の春は怠け気味だった農園作業が楽になることが必至である。

昼休みの景色

2011-11-23 18:47:17 | その他
近場に大きなバイパスが通る。まだ10年も先のことだろうが、囲いこんだ計画用地の中で古代人の住居など遺構らしき場所の発掘調査が進められている。伊勢原近在では大山の麓には比々多神社など古格をもった杜があって勾玉など古代の宝飾品が出土されている。ちょうど数ヶ月に亘って遺跡発掘のパート労働者を募集という折込案内を見て試しに応募してみた。ネットでプロ用機材をテクニカルタームを駆使して売る仕事も兼ねているから、週に4日くらいが適当と判断した。幸い面接の結果採用通知がきた。この二つの仕事を微妙なバランスで保ちつつ、これにささやかな年金を足して来年以降の生計を目論んでいる。がことはそう容易ではない。新規作業員、すでに雇われている作業員を一瞥する。30代から定年後の60代まで50人の年齢層はまちまちである。仕事がうまく続くかどうかということは、仲間や上司との融和にかかっているからだ。初日の仕事をしてみた結果、体はきついが雇用期限まで持ちそうだという予感がしている。ジョレンという鍬みたいなもので、目星がついている地面の古代層まで重機で掘り下げた表土をせっせ、せっせと整地する仕事が殆どである。手と足腰のバネを生かすから汗は十分すぎるくらいにかく。班単位で作業する仲間の質がよい。相応の企業で人も管理してきたのだろう。労りあって仕事をする呼吸があっていて、息をいれる間というものがそれぞれで持てるのがよい。この用地を囲む近在は殆どがとても広い農地で昔ながらの細かな農道が未舗装状態で走っている。普通の通行者をみかけることもない。昼の一時間休みというものがこんなに有難いと思ったことは勤め人だった20代半ば以来である。
初日のお昼はまるで「インディアン・サマー」だ。コンビニでにわかに買ってきたミルクコーヒー瓶と山崎だかパスコの駄パンをほおばるという昼食だ。飼料栽培用の玉蜀黍が丈高く繁っている畑の縁に寝そべって青空を仰いでいたら、ふと好きなアメリカの写真家ウオーカー・エバンスが1930年代のアラバマ、サウスカロライナといった田舎を撮っている写真と同質な既視感が湧き上がってくるではないか。この気分が、ラーゲリに収容され森林伐採労働等を強いられたシベリア抑留者みたいにならないことを今は祈るだけである。


雨のLP

2011-11-20 10:54:49 | JAZZ
終日の雨降り、それも時雨というより嵐みたいに山で跳ね返った風が吹き荒れる。

トーレンスのベルトプレーヤーTD-150をまもなく持ち主のHさんへ返す関係で、自分が持っていた西独ELAC社のMIRA CHORDというオートマティックプレーヤーを物置から取り出す。これはアームも角パイプで二十才台に一時在籍したことのある輸入代理店T社が扱っていた西独DUAL製と同じようなパーツ構成だ。軽いのに堅牢で集約性が高い。デザインを眺めていると同じドイツのVW製のカラベルという商用ワゴンや初期のゴルフみたいな見切りのよい質実剛健なモダニズムと同じ香りが漂ってくるから不思議である。テスターでチェックするとLRのチャンネルともに信号は生きているのに、どこか接触がおかしいみたいだ。こうした器物から醸すヌメリとか乾きの喩えを具象的に了解しあえる関係で思い浮かぶ友人と言えばHさんしかいない。Hさんに安いアメリカ製のバリレラ針をつけて調整してもらおうとクルマで持ち込む。その場では即の調整は無理だが、12月18日に行うささやかなイベントまでに間に合うようにお願いして夜半に「サイゼリア」の空疎空間でポツリポツリ貧窮オーディ界の世情分析を交換する。
帰宅後はクリスマスに関連したジャズ曲を物色する。その途中で現れた10インチ(25センチLP)盤に寄り道を強いられる曲が潜んでいたのだ。ディック・ヘイムズの英国デッカ盤である。いつもは30cmLPの「Little White Lies」にぞっこんでその中の「この春はちょっぴり遅いよ」が最高曲なのだが、これに匹敵する曲である。昔、ソニー・ロリンズやマーサ・ティルトンのキャピトル録音で好きになった「How there Things Grolla Mocca」というこの懐古的なメロディーがアイルランドの歌だとは勉強不足で知らなかった。どこかアメリカのフォークソング風叙情を感じていたものだから、てっきりアメリカ産と思い込んでいた。12インチのディック・ヘイムズを鳴らすことでは、水を得た魚のようなデッカの顔ナシコーナー型スピーカーのことだ。
デッカの由緒正しい50年代中期のサウンドを甘く豊かに再生してくれる。同じクリスマス曲探しに寄り道したアメリカコロンビア盤のミッシェル・ルグラン10インチも悪くはないが、音の寄り添い具合がやっぱり違うことに気がつく。しばらくデッカの古LPを捜したいが、足元をみると趣味にさけない形而下の現実が待っている。

晩秋

2011-11-16 08:52:24 | 自然
2009年 大雪山 旭岳ロープウエイの車窓より
北の方は雪になったらしい。それでも例年より二週間くらい遅い初雪との報せである。
厚木、海老名くらいの10キロ圏はフットワークの軽い100ccバイクで移動している。バイクは直接、風を体感するものだから昨日あたりは冬近しということで、去年、冬の去り際に買っておいたパタゴニア製のネックウオーマーが素晴らしく役に立っている。鼻付近まで覆い尽くせば厳冬期も凌げそうである。まもなく2~3ヶ月にわたる遺跡発掘の戸外労働を始める。大京町の屋敷跡、唐津の帆柱窯跡、多治見奥の大萱等で趣味で掘った陶磁器の断片を愛でるなどの風情はないが、プリミティブな須恵器の甕の残骸でも出てくればきっと苦役も吹き飛ぶにちがいないと期待している。そんなわけで初秋の箱根、沼津プチ旅行で今年は終わってしまいそうである。過去数年に撮り溜めた画像を最近ようやく便利な整理ファイルに収めることができた。晩秋の黄金・黄落景色の愉悦をせめて残像で反芻してみたい。

2009年 静岡・山梨県境 安倍峠 黄落風景 おおいたやめいげつ

秋刀魚のち鯛日和

2011-11-09 16:02:55 | 
ちょうど15日は心臓関連の採血検査が控えている。なるべく血液をサラサラさせて良い数値がでればと願って夕べのおかずを秋刀魚にする。目も血走っていない張りのある太った魚体のものを氷漬けから選ぶ。一匹95円!これに大根が徐々に肥えてくる立冬の時分を意識して大根おろしを添えることにする。大根は百姓家の無人販売所にて150円だ。友人が不憫に思って時々差し入れしてくれている日用品の中に少し高級なインスタント味噌汁セットがあった。これの白味噌仕立てを熱湯で溶かして晩ご飯に添えた。塩焼きした秋刀魚の身を大根おろしにほぐしながら丁度一合炊いた白米との相性を愛でる簡素な食事に満足する。

近所に住むオーディオの先輩Kさんは、75歳ながら身動きも敏捷で頭脳も冴え渡って行動半径が広い。ちょうど真鶴沖へプレジャーボート仲間とカワハギ釣りに行く日と聞いていて夜半ハンプトン・ホースのピアノトリオアルバム「ザ・サーモン」のゴスペル曲を大音量で小気味よく再生している時に、いったい釣りの成果はどうなったのだろうとふと思いだす。

朝になって寝床に入っているときにKさんからの電話があった。波が高くてウネリも強くカワハギのいる場所まで行けなく、したがってカワハギは駄目だったので、肝合えはお預けとの知らせで落胆する。しかし30センチの天然真鯛が上がったから、お昼に鯛尽くしに招待したいとの嬉しい知らせとなった。

潮汁、アラ煮、カルパッチョ、全てKさんが調理する真鯛のバリーエーションだ。これにメインは湯引きした白身のお造りという豪華版、おまけに長野あたりの筆柿を美的レイアウトで添えている凝った割烹料理だ。真鯛は釣り上げた直後よりも翌日が美味い。こりっとして且つまったりと重みのある真鯛の味を久しぶりに賞味する。なにかメインストリームなジャズの王道と共通するものがあると思っていたら、卓上の横にあるウエスタンの728スピーカーでやはりレスター・ヤングの真鯛風のコクを湛えた図太く繊細なサックスで饗してくれる豊かな午餐となった。