散歩好きなドクター桜井さんは遠方の板橋区役所付近にある炒飯の美味な店があると聞けばすぐ飛んで行くし、レコード漁りのついでに繁華街の古着屋、雑貨屋などを物色するような未だに少年風フレキシブルを失っていない方である。自分なども本来、そういう気質を十分にもっているが最近は儲からない店をはじめたりいつも脱線ばかりしているから常に生活の下流的貧窮現象がつきまとっていて儘ならない生活を送っている。その粋人、ドクター桜井さんが見聞した最新海外白人ボーカリストの新譜CDコンサートというのを「横濱ラジオ亭」でつい最近行った。
マイ皿の大家佐々木さんは織部皿の力感に満ちた作家モノを持参して「横濱ラジオ亭昭和風ナポリタン」をオーダーしている。ドクター桜井さんはマイ皿にヒントを得たわけではないだろうが、CDを流すためのマイシステムを荻窪からリックに担いでやってきた。1960年代を彷彿させるジュークボックスを模したレプリカ品だ。桜井さんはこれを若者が集まっているDSショップの「ビレッジバンガード」と「ドンキホーテ」で見つけている。結果的に値段が安い方の「ドンキホーテ」で購入したとの弁である。荻窪の桜井邸地下室にはゴージャスな海外オーディオが鎮座している。それらに混じってバディー・リー人形などの玩具系アメリカングッズもたくさんあるのだがこのキッチュな小型ジュークボックスはいかにも其の部屋に調和しそうな雰囲気である。ハイエンド再生装置とセレブ系家具調度類でバリアのような冷涼空間を作って乙に構えている偏差値型オーディオ趣味人と桜井さんを分ける喫水線はこのへんにありそうだ?と「生活空気大鑑定家」の自分流分析である。
このレプリカ品、小さな8センチ程度のフルレンジスピーカーの駄ものが内蔵してあるらしい。しかし再生音はそれなりと思っていたらこれが間違いであることに途中から気がつく。PC装置の付属スピーカーに見られるような広域のチャリチャリ感がない。ボーカル音像を支える背後の空気層が厚い。安物はそれなり!という先入観は正しいが正しくもないということを感じた一瞬である。スペインのアンドレア・モティス、エバ・フェルナンデス、カナダ・北米圏のダイアナ・パントン等桜井さんがぞっこんになっているボーカリストのオンパレードをしばらく楽しませていただくCDコンサートになった。イタリアのチアラ・パンカルディも初めて聴く。一時期、来日したロバータ・ガンバリーニのように正しく清く強い歌い方とは異なるジャズの持つルーズテイストを感じさせる好きなウオームトーンである。
参加者10名、趣味の雑談への脱線、私的ジャズ感の話題飛躍などの点で、よくあるジャズカフェにおける啓蒙イベントとの違いが歴然とする大人の遊び時間を過ごすことができた。次回は2月27日(土)「古めなシャンソンを聞く会」14時~17時 飲食付き1500円会費。