Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

気が早い!天然出汁雑煮

2012-11-29 08:01:35 | 
素焼きしてから乾燥干ししていた鯊(ハゼ)の出し汁効果を試してみたくなった。ちょうど信州土産にもらった渋柿の焼酎25℃による甘柿変換が上手くいって気をよくしたばかりである。


下北沢や世田谷の上町にあるスーパー「おーぜき」が座間にもあるのを最近知った。バイクを飛ばせば数分の距離にある。ここのスーパーは規模がちいさいせいか、昔の市場風陳列のひしめき感がなかなか好きだ。イオンやヨークマートのグローバル食材を判で押したようにクールに美的に広々と陳列する風景は好きになれない。北海道日高産の大判出汁昆布をこの「おおぜき」で買ってくると、値段はヨークマートあたりと、そんなに変わらないのに食材を買ってきたというしがない喜びが増すので不思議だ。たまに遠路からやってくる女友達といつも施設食を食べていて普通食を渇望している母親に、鯊、昆布天然出汁のコラボ風江戸流雑煮を作ることにした。

正月はまだまだ先だが、気の早い雑煮だ。小松菜は伊勢原の農家産が80円、蒲鉾は小さな290円のものをつかう。ついでに大分産の「干し椎茸」も出汁の相乗効果を狙って加えてみた。具材はこれだけである。一晩水に浸しておいた鯊はちゃんとふやけたが、厚い肉の昆布を多めに入れたことで、ヌメリがですぎてしまった。少し薄めてから煮たてる。調味は日本酒・塩・味醂・醤油で、これに茹で上げた小松菜を添えて、オーブントースターで焼いた切餅を少し煮立てる。成功だ。塩が薄い味だが、出汁のベースが充分に輻輳効果を発揮している。昆布の香りの下層のほうに鯊の気品が隠れている。ふだん手軽に使っている「ヤマキ」あたりの天然出汁風顆粒調味料の単層な旨味とは格段の差で、現代の贅沢はこの辺にしかないことを自画自賛のそしりを免れないが報告しておく。乾燥した鯊干しはいくらか冷凍保存しているから、今度わが家にやってくる知人の人相と文化係数を判断してから、提供してみたいと思っている

村上春樹の本

2012-11-26 11:05:26 | JAZZ
足の親指の予後治療をかねて近所の中規模な内山整形外科へ通っている。待合室は自分も含めた年配者や怪我をした幼児でいつも混雑している。当然待たされる時間もあるが、この病院の経営者なのか、お医者さんなのかはわからないがなんだかとても趣味がよい。殺伐になりやすい病院のイメージを爽快に払拭する努力を壁クロスの色調や展示版画で積極的に補っているのだ。柔らかな色彩が外科病院に蔓延している疼痛を和らげてくれるようだ。メインはカシニョールの大判版画が壁を占めている。南仏あたりのリゾート地のカフェで寛ぐブルジョア女の気位が伝わってくる版画である。中には片岡珠子の花弁を描いたリトグラフ等も混じっていて見飽きることがない。リハビリ用の先端的な医療機器もたくさん揃っているから、さしずめ才色兼備の活性に充ちた整形外科医院といったところだ。

待合室の書棚も一風変わっていて妙な古本が紛れている。村上春樹の少しカジュアルにくだけた「そうだ村上さんに聞いてみよう「282の大疑問」」(2000年朝日新聞社刊)なんて本があったりする。待合室でこれを飛ばし読みしていたら、不倫やエッチめいた読者からのメール質問に丁寧に答える流行作家の誠実な律儀性に思わず失笑する箇所もあるのだが、村上氏が愛好するジャズやオーディオの話が登場する箇所は、やはり見逃すことができない。誰かの質問に応えている箇所には使用スピーカーのことが書いてあった。
それで思い出した。村上氏は職業作家になる前から、経営するジャズ喫茶で使っていたアメリカJBL社のユニットを収めた、タイプ4530という黒塗りのバックロードホーンをいまだに愛用しているのだということを知った。実に見事に一貫したエンスージアストぶりに今更ながら驚く。30数年も同じスピーカーでよく満足できるな?という疑問は凡人の感想だろう。50年代後期の名ベーシスト、ポール・チェンバースのベースラインを擬音でさらさらと表現するところなどは、やはりあのスピーカーとの長い対峙時間を物語るエピソードだ。
職業作家になってから、村上氏とはどこかで4~5回会っている。最初は千葉の習志野付近にある彼の新居だった。ここでも千駄ヶ谷のカフェで使っていた黒塗りスピーカーは健在だった。その後は、新宿・紀伊国屋裏のDUGだったり、渋谷・南平台で彼の高校時代からの友人が経営しているカフェだったり、偶然の邂逅もある。最後に出会ったのは、横浜市内のレコードショップ内だった。昨日会ったばかりみたいな口調で、紛失してしまったアルツール・ベネディッティ・ミケランジェリのラベルを捜しにきたと、ジョギングファッションのいでたちで語る姿は、やはり筋金いりのLPマニアのそれだった。超有名者になっても偉ぶったバリアを感じさせない昔ながらの匿名的で謙虚な気風を持った稀有の人物を維持している。外科病院の待合室で刺激されたせいか、しばらく遠ざかっていた村上春樹の文章を読んでみたくなった。ちょうどステレオサウンドに連載していた「意味がなければスイングはない」これの文庫本が引越し紛れの荷物からでてきて、夜勤時の隙間で舐めるように読み始めている。連載時はジャズ対象者だけに限って飛ばし読んでみたものだ。いまはブルース・スプリングティーンとかウディー・ガスリーなどフォークやブルースのジャンルの為自分にとってあまり理解できない音楽家に関する解釈に魅了されている最中だ

町田版画美術館の広重と北斎

2012-11-21 20:33:00 | その他
足の親指が快方に向かっているせいか、二日続きのオフ日はけっこう多彩に近場を動きまわった。
初日は町田街道沿いの谷戸にある版画美術館で開催している「北斎と広重」展を見る。大規模な企画展のせいか見物する客でごったがえしている。かの有名な「富嶽三十六景」や「東海道五十三次」など彼らの天才画力をいかんなく発揮した集大成作品のオリジナル版画を直近で眺める機会など滅多にあるものではないので、友人の誘いにのって出かけてみた。こちらはシニア料金で入場料が半額の500円という特典に恵まれたが、友人の料金は規定のままの1000円、それだけ年が若いのだから敬老サービスは要らないのだと慰めて笑いあう。


江戸市中はもちろん、諸国を遊行しながら当地の風物に感嘆し、人々の習俗を活写する二人の横綱格浮世絵師の精密且つ大胆な眼の健啖に、改めて感動する。
今はスカイツリーで賑わう大川(隅田川)付近にかかっている橋を行き交う江戸期庶民の楽しそうな表情や足取りもいい。今でいう台東区・三ノ輪から吉原に抜けてくる途中の日本堤付近、このあたりは遊里がある異界めいた場所なのに、遊女の群れる居宅もあれば、田圃の畦に腰掛ける農夫、遊ぶ家禽類、桃源郷めいた鳥瞰図の木版画には、春の陽光めいた和みが存分に伝わってくる。自分にとってなじみのある土地名が登場するのも楽しい。
広重が描く東海道の五十三次風景には、神奈川宿沖の海景色が登場する。波が高い日なのだろう。海は荒れて盛り上がった波頭を大胆にデフォルメしている。青と白のコントラストはダイナミックだ。これは今の横浜駅から歩いて遠くない、現在地で推測すれば京急線・仲木戸駅付近から眺望した景色で、現代の高層ビルとコンビナートが折り重なる風景からはとても想像できないものである。今回のテーマポスターに掲示されている雨の降りしきる街道を急ぐ旅人を描いた「庄野の白雨」も素晴らしい。よこなぐりの雨を掻き分ける旅の人、宿は近いのだろうか?焦燥と緊迫が伝わってくる構図である。
町田の版画美術館で浮世絵の至宝を鑑賞した翌日は、三年ぶりの丹沢「やびつ峠」の紅葉見物に出かけることになった。この話は次回に続ける。

雨のハゼ釣り

2012-11-12 13:55:59 | 
週末の夜勤は仮眠が上手くできた。疲れが残ってないことと足の痛みとを天秤にかけながら懸案のハゼ釣りに行くことにする。幸い移り住んだ地域は馴染みのある相鉄線の駅にもアクセスがよい。さがみ野駅までバイクで数分で着いてしまう。

ここから横浜へ出て京急線に乗り換えて富岡駅で同行の旧友青柳君と落ち合うまではよかった。しかしその後は天候が予報どおりに悪くなり、現地の深浦湾に着いたときには勢いのよい雨が予想時間よりも早く落ちてきてしまった。ひき返すわけにもいかないから降りしきる雨の下でシンプルなハゼ用の仕掛けを難儀しながら作る。衣服も道具もずぶ濡れだ。やはりハゼ釣りはからりと晴れ渡った晩秋の青空の下でこそ情趣も深まるものだと痛感する。それでも深く掘ってある船溜り沿いに仕掛けをチョイ投げすると、すぐにハゼ特有のあたりがあって、やはり今年もハゼの湧きはよかったと、そのプルプルっと小気味のよいあたりに幸福感を覚える。雨足が一層強くなる三時半までに二人の釣り上げたハゼは16匹と去年の半分だ。しかしサイズの大きい物も混じっている。


帰ってきてワタとうろこを取ってから、昔一度だけ作ったことがある白焼きを思いつく。素焼きにしてハゼの水分を除いてから、冷涼感が増してくる外気にしばらく晒しておく。乾いて固くなったら、これを冷凍庫でしばらく保存する。この白焼きは大型の煮干みたいに水に漬けた昆布と馴染ませて出汁にする。この出汁をベースにして味付けた雑煮は、餅、蒲鉾、三つ葉程度のシンプルな具で十分にその威力を発揮してしまう。今年はそれだ!と思いながら夕べの素焼きしたハゼを干しカゴにいれて天日に晒そうとしていたら、急に焚きあがった白米でこのハゼをトースターで更に焦がして食べたくなった。6匹を焼いて玉子かけご飯と梅干しという、香ばしい朝飯ができたものの、ハゼは少なくなってしまいどうやらもう一度だけ白焼きの補給用を兼ねて深浦まで釣行することになりそうな気配である。

黒土鍋の休日

2012-11-09 17:00:45 | 
3日連続の夜勤が明けて木曜日はちょうど休日になった。懸案の横須賀・深浦湾ヨットハーバーにハゼ釣りをと思ったが、足の指の回復が手間取っている。迷っているときに、信州の斑尾から帰ってきた友人から電話が入って、「むかご」「渋柿」「椎茸」など田舎らしいお土産を帰り道に買ってきたとの知らせだ。黒土鍋でなにか作ってみたいという提案も兼ねていたから、その威力を試してみようと気分転換の埼玉エリアへの訪問をきめる。

ついでに東松山の都幾川沿いにある「原爆の図」で有名な丸木夫妻の美術館にも寄ってみることになった。伊賀・土楽窯の通称「すっぽん鍋」は先日、友人宅へ差し上げて初めての顔見世となった。こった料理は時間がないから省いて、この鍋を使った肉と信州野菜尽くしの炒めものと、むかごの炊き込みご飯が臨時メニューになった。食材は和牛の良質ステーキ用肉が少し。霜降りの栃木・下野牛を銘うっている。椎茸は信州産でシメジ、アスパラガス、ピーマン、モヤシと適量の副菜も揃っている。強火による空炊きを注意しながら牛脂を使って具材を炒める。やはり黒土鍋の熱伝動は絶妙だ。普通のフライパンだと炒めた野菜からでた水分の収拾がつかない場合があるが、余熱が上手く吸収してくれる。くしゃくしゃにならない野菜の歯切れがいつまでも保持されて、これが、牛肉のジューシイな旨味を引きたてるのだ。先日の「協奏的調和」味の「倍音」効果は威力どおりである。

お酒と昆布の出汁でた炊いた「むかご飯」、ほっこりとしたむかごの実をくだきながら、シンプルに仕上がったうす味を噛み締める。どうやら満足の夕餉を迎えることができたようだ。
昨日は夜勤続きの単調な食生活のモードを変えてみようと、近所のスーパー「オーゼキ」で見かけた北陸産の回遊魚「ヒラマサ」を漬けにして「もずく」「大根の柚子漬け」などを副菜に手ごたえのある自炊晩飯が楽しめた。本日も存在感の異形を誇る土鍋で鮮度に満ちた秋らしい色彩りの食事ができて、足指の憂欝を一時的にも忘れることができて得をした気分になっている。