横浜市中区の懐古茶房「横濱ラジオ亭」のオープンが1カ月後に控えている。カウンター10席強という狭いスペースでまろやかに鳴ってくれるメインのラジオを探していたら真空管アンプの大家として有名なA先生の古くからの知己宅にちょうどよい現役モノがあると趣味仲間のDさんが取り次いでくれた。我々のお願いを快諾してくれたY先生の住まいは都下といっても西の遥か郊外に位置する五日市と聞いてやっぱり物好きの血が沸騰しはじめた。
「善は急げ!」の格言を思い出しDさんと同行することになった。格安の中古車をネットオークションで落札してから700キロ程度走った三菱・コルトの動力性能を試すにもちょうどよい中距離ドライブの機会ということで、ついでにそのラジオも運んでくるという算段だ。五日市への途中には懐かしい町八王子が控えている。浅川の流れと遠方に広がる多摩の山々の容姿を愛でるコースならばなんといっても「あきかわ街道」の景色がいい。
中古車にはNAVIは付属してないから久しぶりの人間NAVIをしまってある記憶装置から惹起させて走ることになった。元本郷から楢原、川口という八王子の平坦な緑園地帯はすでに秋風のさ中である。五日市へさしかかるタイトなアップダウンで曲折する峠道も小型の中古コルトは切れ味のいいハンドリングと剛性感に満ちた粘っこい足回りを示してくれて、これなら今しばらく出世するまで乗れるね!とDさんと笑う。Y先生のお宅はJR五日市駅からとても近く、細い山坂道を辿るという予想は覆された。到着後、ラジオをチェックする。
1957年ドイツ・シュッツガルトで作られたリビングステレオへ移行する時期のモノラル中型ラジオで文句なしの状態だ。技術畑のA先生は埃が堆積していたこのラジオを入念に清掃してくれた。電源を入れて中波帯へダイヤルを回したら図太い音声が流れてきたので、真空管もスピーカーも生きていることがわかった。内側にマウントされたスピーカーはフェライト型の惰円スピーカーでニッケル製のフレームは58年前という年月を感じさせないくらいクスミがない。
中波帯ラジオを聞くことは滅多にないので、目的はこのラジオのモノラルスピーカーへフォノ又はCD等からの入力を別付けすることだ。パイロットランプのミニ珠、ヒューズなどの部品を追加して、改造を行えば大好きなペギー・リーやジュリー・ロンドン、ドリス・デイのまったりとした歌声がこの「WEGA」ラジオから流れてくるのはそう遠くないだろう。