横浜の旧市街地へ二日続けて出かける。梅雨が明けたみたいな炎熱状態の日曜日は中華街の「マシュマロ」福富町西通りへ引っ越しして久しくなる弾き語りのピアニスト村尾陸男さんがオーナーの「ファーアウト」等をハシゴする。「ファーアウト」のネットスケジュールを眺めていたら好きなトランペッターの金井豊さんのバンドライブがちょうどあることに気がつく。聞いてみたい衝動が湧いてさっそく出かけることにした。おりしも「マシュマロ」では武田さんという地元篤志家の解説による「ハンク・モブレイ」のLPコンサートが行われるらしい。
総勢15人のギャラリーに囲まれたほのぼの感が漂っているLPコンサートだ。ハンク・モブレイのぼかし味が効いた少しルーズなテナーサウンドは古い時代のアルテック604Eのような暴れん坊スピーカーが最適だった頃にジャズ喫茶及び自宅システムでさんざん聞いたものだ。武田さんは東芝盤、キング盤というブルーノートレコードのありきたり日本再発盤をえんりょなく勿体もつけずにバンバン名曲チョイス路線で貫いているところに好感がもてた。振り返ってみればブルーノート時代のハードバップ演奏様式に乗ったモブレイ的ルーティン奏法になんだか飽きてしまいしばらく遠ざかっていたのが事実である。
自宅居間に残ったモブレイのLPはブルーノートよりも所属が古いプレステッジやサボイに納められている「リトル・ガール・ブルー」「ホエン・アイ・フォーリング・ラブ」といった憂欝なバラッドばかりが入っているものばかりである。会場で流されたソニー・クラークの素晴らしいソロとの最高なコンビネーションを発揮する「HANK」所収「ディープ・イン・ア・ドリーム」等を聞きながら、これらの曲に負けないくらいの愛蔵曲の情報流出がなくて内心ホッとしたのも事実である。余談ながら「マシュマロ」オーナーの上不さんから「12月くらいまで店が持っていたら、なにか特集コンサートをしていだきたい」といつものジョークを交えて依頼された。これにはジャズ楽器の異形セレクション、バスーン、チューバ、ユーホニウムでソロをとっている変態LPでもしましょう!と答えておいた。
夜半の「ファーアウト」は6重奏プラスボーカルという編成、ベテランの金井さんと若手のセッションだ。ハードバップ時代の名曲、80年代のポップス、映画音楽から金井さん達が選んだ親しみ4ビートがこれまたリラクゼーションをもたらしてくれた。ボーカルは浴衣姿で歌っていた「手紙でも書こうか!」「マイ・フーリッシュ・ハート」がベストだった。金井さんの良く抜けるラッパサウンドの出番が少ないのは心残りであったが、「ファーアウト」の楽屋型雑然ムードは慢性金欠型ジャズテイストが漂ってきてこれにも好感を感じた。