専用庭のピンク雪ヤナギが満開になった。街路で見かける白い木蓮も一斉に満開になって里も街も春を讃えている。いつものメンバー6人がJR品川駅構内で待ち合わせして京急立会川駅近くの大井競馬場駐車場をめざす。4か月ぶりのフリマ見物に集まったお彼岸の祝日である。朝方に雨の気配があったせいか出展者の数はいつもより少ない。
同行の佐々木さんと巡回するコースを逆さにしてみようということになった。これもゲン担ぎの一種である。木山捷平が敗戦時の満州生活を描いた小説「長春五馬路」に登場するような「ボロ屋」「バッタ市」を発散する一角が、このフリマ会場にもあって、在庫品はただアナーキーに雑然と路上へ放りだされている。そこを疲れが溜まってこないうちに先に見物するという戦術である。ほとんどが無料回収のゴミの山といった駄物類に目が眩むコーナーだ。この中から質のよい物を掘り出すのも人生における研鑽という風によい方向に解釈してしばらくキョロキョロしていたらやっぱり手招きしている陶器が現れた。
松の自然釉薬が厚くたっぷり流れ落ちて山に沈む赤い夕焼けみたいな緋色とのコントラストが素晴らしい徳利酒器である。横には同じ作者のグイ呑みも並んでいる。ふっくらとした明るい詫び寂び感が上品に演出されていている信楽焼の規則に従った中々の逸品だ。売っている親父は軽トラックに乗っていて陶磁器のことなどまるで感心がないボロ屋風。たしかに親父の在庫品には電化品や鋼類が多くあって小型の陶器はどうみても外道の風情がする。尋ねると二品で800円との答えだ。びっくり仰天の値段が返ってきた。大和辺りの骨董市にもしあればペアで安くとも5000円は下らないだろう。ふとこの会場のニーズに沿っていない暗い色調のこの類は穴場なんだと佐々木氏と笑いあいながら800円を支払う。
こうした幸運は佐々木氏にも回ってきた。中型の調和がとれた瓶子だ。底には手書きで「小砂焼」とシールが貼ってある。栃木県、那須近在で近世になって開かれた民窯の明治期頃の作品らしい。辰砂釉薬めいた赤錆色が威勢よく掛け流しているところが佐々木氏好みか?素地は淡い卵手風というところが気品に満ちている。出品者は違うが値段を尋ねると、やはり500円という驚きの値段が返ってきた。佐々木氏も即これを買う。
更に驚いた買い物は両人の好みが一致した鉄絵の模様と釉薬の盛り上がりがその土台の力感に呼応している湯呑茶碗だ。これは益子の濱田庄司テイストを継承した佐賀県・嬉野在にある丸田正美窯のものと匂いが似ている。佐々木氏は濱田庄司窯のものではないかとそれぞれ推測している。4個が重ねてあるが数が揃ってない未使用品の類だ。これは小母さんの店番コーナーだ。二つづつを分けようと小母さんに値段を尋ねる。100円!とこれまたびっくりの答えだ。計400円なのか?と尋ねると「合計で100円」つまり1個25円の湯呑になる。これにも唖然としてお互いに失笑しあう。これらの戦利品を携えてJR電車にて戻った横浜駅近くのカフェの談論がいつにもまして活発になったことはいうまでもない。