月に一回の日曜日にシニア婚活パーティーの司会アルバイトを頼まれている。渋谷のホテルが会場だが、各社TV系大メディアの取材があった直後はその会がやっている各種イベントの参加者がグンと増えている。70代も半ばに手が届くという老人も伴侶を求めてこの倶楽部に参加して10年近くなるという。月にこの種の会に参加している費用が5万円かかっていると苦笑している。参加期間が長いほど伴侶と出あうという確率はどんどん低くなるようだ。その人も毎回ふられているらしい。しかしその老人も今では独り身の無聊生活がすこしでも華やいでいればと参加している。異性よりも同性の単身者とカラオケやハイキングへ同窓会気分で交流する場に変貌している様子である。しかしTVを見て参加してきたという妙齢で新顔のバツイチ系や未亡人系婦人をみると目の色が変わるところなどは、自分も含めて男というものは幾つになっても馬鹿だと思う瞬間だ。その会でGWのイベントがあった。
北鎌倉駅に集合して、初夏の天園を歩く恒例の企画らしい。アルバイト代金に色をつけてもらっている引け目もあってその会のリーダーの誘いに乗って混雑の鎌倉へ出かけることになった。参加は男性30人、女性20人という割合の臨時世帯になる。天園コースはまだ20代の洋光台在住の頃、峰薬師付近から瑞泉寺というルートを二度ほど歩いたことがあった。あれから数十年の歳月が経っている。今回は建長寺の庭園内から登って覚園寺付近、鎌倉カントリー裏の野原で弁当、しばらく尾根伝いを上下しながら瑞泉寺、鎌倉宮へと向かうコースである。石段の登りには息が切れるが、自分と同世代か、または年長者が多いから気は楽な方である。
60代後半とおぼしき長身痩躯の紳士はロシア語も堪能らしい。建長寺の御堂脇で休憩していたときに6年間付き合っていた超我儘オンナと別れてさっぱりしたことと無念やるかたないという両面性の独白を会のリーダーに向かってしゃべっている。その紳士も懲りないところがあるらしく建長寺の庭では参加者の女性にどうやらお気に入りを見つけたらしい。猛然とアタックを始めている。女性は受け流しながら平然と山道を登って笑顔で応えている。しかし皮靴の紳士は急登で息を切らしている。女性についていくことが精いっぱいの雰囲気である。蒼白な顔が歪んでいる。ファッションもスニーカーなどではない革靴だし、おいてけぼりかなと行く末を傍観する。集団がばらけて山頂付近で紳士カップルはどうなったのかと、誰かが案じていたら、皆の集団より先に尾根にある茶屋で女性と談笑しているという電話がリーダーのところへ来たらしい。
あれだけ苦悶顔していた人が女の吸引力に引き寄せられたのだとリーダーと笑いあう。久しぶりの天園付近の雑木林、山藤が隠れるように咲いていてその花ビラが山道にハラリと舞落ちている。鎌倉宮で会は散会、ちょうど帰り道の小路沿い清泉小学校の向かいにあるカフェ「サン・スー・シ」へ寄って蓄音器を聴く。ついでにテラス付近でまどろんでいる猫としばし戯れて、シニア婚活会の女性とは戯れるチャンスは巡ってこなかった。