Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

寝そべって山崎方代の歌を詠む

2014-04-29 08:56:39 | その他

向かいの棟の専用庭では藤の花が咲き乱れている。我が庭の「もっこうバラ」もたった一年で大きく枝を伸ばしている。枝を伸ばしたこの「もっこうバラ」が鉄の柵を越えて大きな花の群れを作ることを夢想するのも楽しみである。同時期に植えた「雲南オウバイ」が強い筈なのに今年の大雪で枯れてしまった。そのお隣の「ピンク雪ヤナギ」は健気にも越冬できたから、去年専用庭を彩る為に植えこんだ庭木はいまのところ二勝一敗という結果になっている。

連休が近くなってコーヒーを補充しておこうということで久しぶりに藤沢散歩をきめこむ。大和駅までは70ccバイクの出番だ。厚木基地の周回路を横目で眺めながら県道の直線坂道を60キロくらいのスピードを維持できるように70ccを叱咤して走らせる。小型軽量バイクにおける60キロというスピードは小型乗用車における100キロ巡航みたいな体感と同じでこれが素晴らしく快適だから、バイクはやめられない。ホンダの150ccPCXあたりへと排気量も所得も倍増する日はやってくるのだろうか?と暴走老年者はふと考える。北鎌倉在のDさんともついでに名店ビルで待ち合わせることになる。ミスタードーナツの脇にある「ポンポン船」という古書店には新しめな新書が安くて狙い目だよと自称古本のセミプロは教える。Dさんには山口二郎の「戦後政治の崩壊」を薦める。保守良識派と思われるDさんが戦前あたりとそれほど変わらない反動的ナショナリストへと庶民的類同化しない為のデモクラシーの冷却液がこの本にはけっこう詰まっているからだ。

藤沢におけるBC級グルメでは老舗の「古久屋」で「ジャンボラーメン」640円を昼飯とする。横浜の古いテーストをしるDさんのことだから、お薦めしたこのラーメンのスープの味について、店をたたんでしまった横浜中華街、港中学校寄りの華僑がやっていた中華料理屋を思いだしたようだ。その店の味や元町・麦田トンネルの先にある「奇珍」のスープ等に似たものを見出して喜んで食べている。静岡出身のDさんもいつのまにか古い横浜の味に同化したようである。

食後は「古久屋」お隣にあるお馴染みの雑多屋さんにも寄る。ここの500グラム390円というアートコーヒーのアウトレットが本日の目的で無事に入手する。ついでに寄った有隣堂併設古書部では伝説化している歌人山崎方代の「こんなもんじゃ」という文藝春秋社版を買う。山頭火、山崎方代のような俳人や歌人がよく練った断言的人生哀歌は、時として心の点滴をもたらす良薬として書架にしまっておくとよいといつも感じている。

知名度の高くなった晩年の方代の面白いエピソードを聞いたことがある。風体のプータロー(昔の言葉)イメージを壊さないように、鎌倉の自宅を出かけるときは普通服、どこかの駅ロッカーでボロボロ服へと衣装替え等ということもあったらしい。その話を聞いてから方代という活字が目に留まれば買うことにしている。400円也。東逗子の沼間には大昔、住んでいたことがあった。その沼間にあるという「海風舎」という古書店、店名のネーミングもよいが本選びのセンスが伝わってくる在庫だ。

これらを携えて線路の反対側の北にある「灯」へと向かう。「灯」でDさんとしばし雑談、コーヒーもレイアウトも昔風藤沢の時間が流れていて心地がよい。帰宅後は方代さんのカジュアル装丁本にうつつを抜かす。東海林さだおさんが描いた夏格好の方代さんがいい。昔は野毛や日の出町あたりの大衆食堂へ行くと方代さんのような格好をした初老の酒好きがくだをまいている風景にでくわしたものだ。自分が尊敬している「アメリカンスクール」を書いた小島信夫も方代の歌に一目おいていたようである。

「戦争が終わったときに馬よりも劣っておると思い知りたり」という歌を引用している。これを評して「散文的でこれが歌というのなら、とぼくらも気楽にその気になっても、そうは問屋をおろさずペンを投げ出すだろう。」と言っている。もっとも小島信夫は「アメリカンスクール」の中で弁当箱の描写をとおして、方代的感懐にはおとしまえをつけているのだが。

「わたくしの心の内には一本の立ちっぱなしの木の立っておる」こんな歌を寝そべって復唱しているのも方代的なんだろうと想いながら初夏の夕暮れに身をまかせる。


松陰神社SUDOの鳴門金時パン

2014-04-24 21:14:52 | その他

週末ごとに世田谷線の上町駅付近へ足しげく通うようになったついでに寄り道も増えている。松陰神社駅の商店街なども代々木上原駅周辺と同じような匂いのするハイブロウなお店がいつのまにか増えていて驚いている。デンマークのべオグラム社のオーディオ機器はモダンファニチャーにマッチするクールなデザインに特徴があるが、これを古本屋のBGM装置として決めている演出力の高さを誇る新潮流古書店なども登場している。渋谷東急プラザ裏の古書カフェや代々木上原八幡通りの古書店を思い出す。ここでは渋澤龍彦が編集していた「血と薔薇」創刊号から3号までが希少品ということで3冊合計12500円で売られていたり、1960年代の「暮らしの手帳」などのレトロ雑誌、写真雑誌等の在庫も豊富で目に毒なものばかりである。

先日、線路際にある「ブランジェリ スドー」は定休日だったが、きょうは営業していた。ちょっとしたカフェテーブルがあって、ここで焼き上がったサツマイモをあしらった「鳴門金時」パンをコーヒーの友にして食してみる。すごい黒胡麻の風味だ。パン生地は素晴らしく密度が濃く、硬く焼き締まっている。胡麻を炒った香味と芋の甘みのコンビネーションが絶品の130円である。これは週末個人事務所兼用読書カフェのお茶の友としては最高の贅沢になりそうな味わいだ。いつも町田で食べている「HOKUOU」パンが児戯みたいに思えてしまう大人の味である。

ちょうど真言宗・円光院の庭には「芍薬」の花壇が全盛時を迎えている。松陰神社駅から上町駅前までは徒歩で10分位の所要時間だ。GWの隙間にはまたまた花や味の寄り道が再燃する気配だ。


立教大OB70歳 VS 20歳のジャズコンサート

2014-04-20 19:35:22 | JAZZ

町田駅前の109という東急ビルにある小ホールで行われた立教大学のスインギン・ハードオーケストラの発表会にドクター桜井さんと同行する。小さなホールで歯切れのよい残響感に包まれた最前列の真ん中の席は居心地がよい。ちょうど目前にはワンポイント収録の為にセットされたソニーのコンデンサーマイクが立っている。立教大学を遥かな昔、卒業したOBの方のお薦めコンサートだ。彼もこのイベントの世話人をしていて町田市内には800名に及ぶ立教OBが住んでいると聞いて驚く。この日はスインギン・ハード平均年齢20歳とOBジャズコンボ平均年齢70歳という絶妙な組み合わせの演目である。

スインギンハードは、山野楽器主催のビッグバンド大会で毎年、上位に入賞するバンドというだけのことはあってパワフルなアンサンブルプレイが聴きどころだ。黒の就活服と見まがうフォーマルに身を固めた初々しい童顔男女部員の演奏を観察する。カメラ、登山、という分野における女子力の進出と同じようにジャズのビッグバンドにも女子の進出は著しいようで、150センチくらいの小柄な女子が自分の顔の大きさと変わらないベルを持つバリトンサックスをかついで、あるいは担がれて入場する様にドクター桜井氏共々、笑みがこぼれてしまう。

トロンボーン、サックス、コントラバス、トランペット、各枢要部分には女子が必ずいて素直でのびやかなプレイを男子部員に伍して披歴している。曲目はエリントン、ベイシー、グレン・ミラーのオールスタンダード曲だから全て楽しいし、退屈というものがない。男子部員でソロを担当しているサックスやトロンボーンのヤングマンの2、3人には健康一色のブラバンサウンドからモダンジャズへ移行中のような陰影を持ったよい音色を聴かせるプレイがあった。

OBバンドはにわか結成二年目とのこと。音の血行を整え揃えることで苦労している様子がしのばれる。それでも「四月の想い出」を失速気味なエディー・ロック・ジョーみたいな抑揚で歌い上げる高山さんのテナーにはヤングマンとも一味違う粋を感じたし、鈴木章冶で名高い「すずかけの道」はスインギン・ハードの若手メンバーとのコラボが楽しげだった。どんな時世にあっても世代を超えて繋がっていく音楽、それがジャズということを実感する和みのコンサートを味わうことができた。


山吹の朝食

2014-04-19 09:21:41 | その他

公営住宅の緑地帯にも初夏が巡ってきた。昨年、伊勢原のフラワーランドで買った苗ポットの「モッコウ薔薇」がこのところ旺盛に花芽をつけている。やはり苗ポットから地面に植え替えたのがよかったみたいだ。これからあのクリームがかった小粒の薔薇は夏ころまで目を楽しませてくれそうである。

今朝はお隣の敷地からはみだして、小枝を徒長させている八重の山吹を少しだけ失敬してくる。世田谷線の松陰神社付近の線路際を走る電車の窓から、ちょっとした庭植えの花木類を眺めるのは好きで、昨日は山吹の風になびく風情がよかった。二年前まで住んでいた日向薬師の近辺なら山吹などは野辺道のどこにいてももいでくることができた。いまはそうはいかない。失敬してきたばかりのこの山吹を好きな器に挿してみる。部屋の片隅に置いて眺めるという遊びである。どこか小田原の骨董市で手に入れた白磁の瓢(ひさご)型、大和骨董市の先月に入手した500円の蕨を鉄絵であしらった志野焼き掛け花入れ、現代沖縄赤絵のチョカと山吹をかわるがわるに挿してみる。

傍らの朝食は珍しく自炊の味としては仕込みの味付けから成功した茨城産のタケノコ炊き込みご飯、キュウリの浅漬け、デザートの水菓子に信州大泉村産の干し柿、これはDさんのお薦め品で、甲州や信州の寒風が育む至宝の食材だ。こういうものをさりげなく土産とするDさんの食センスの良さにいつもながら感謝する。

来週の楽しみは森アーツで始まる「子ども展」だ。アンリ・ルソー、ルノアール、の大判ポスターをじっと眺めていると滲みだす至福感、コロコロした女の子の胸を飾る一輪のマーガレットを眺めるだけで幸福感情は倍増してしまう。背後にリフレインする野原のタピスリー模様はまったくジャズ的即興と共通する韻律を感じる絵柄だ。ルノアールの女の子に抱えられた子猫が伸びをしている様子、ぜひともそのディテールに宿っている真理を拝みに行こうと思っているところだ。

 


いつもの春を

2014-04-07 07:01:41 | 自然

朝ごはんの焼き魚を宮城沖産の鯖干し、黒豆の砂糖レス煮、春キャベツと胡瓜の浅漬け、到来品のゼンマイ五目煮、等で和的にきめる。駅前にある小田急OXのスーパーは他店スーパーよりも全ての商品が二、三割高い。しかし干物、紅鮭などはどなたかバイヤーに目や舌が効く人がいるらしい。先日弁当のおにぎりに使った時鮭の甘塩の切り身からも昭和30年頃に食べた鮭の香りが珍しく舞い上がってきた。今回の鯖も塩加減が素晴らしい。身を覆う飴色の焦げ目をほぐす時の至福感は格別の390円である。

食後は湯河原産の柑橘種「はるか」が待っている。こういう献立の秩序が回復すると休日の散歩はよい形に連なっていくものだ。雨降りのお天気配分がよく公営住宅の空き地にも春を物語る草花が控え目に現れている。

ごみ捨て場の横にある椿の生け垣が植えてある地面の隙間には「つくし」が勢ぞろいしている。末尾に原という名称がつく昔の土の記憶を「つくし」は地下茎の根をとおして伝播しあっているのだ。この「つくし」をもいで沖縄陶器の「チョカ」に挿してみる。「つくし」をほのぼのと眺めていたら、前に住んでいた日向薬師付近の野原を眺めたくなった。日向薬師へ向かう最近のルートは国道246をやめて、座間から丹沢山系とまっすぐに対面できる相模川の「座架依橋」を通るコースが好きになった。厚木北部の三田、萩野の田舎混在景色を眺めながら、玉川の流れる小野地区、七沢温泉を通過して日向へ向かう。

このエリアは内陸のせいか桜がちょうど満開になっている。付近に連なる地山では雑木の青葉、山桜が淡彩絵模様、川の縁には菜の花、人家の庭先では連翹(れんぎょう)、ああ、春だと思う毎年の心境である。懐かしい日向薬師の地元住民の社になっている白髭神社もちょうど桜が満開、鱒釣り場の駐車場に聳える桜の大木も満開、桜の園へやってきた気分を満喫する。

 

 

いつもの散歩コース、菜の花畑と竹藪のある神社横のパサージュ(小道)は春の野辺の宝庫だ。カントウタンポポ、蛇イチゴ等の好きな野草の隙間では、薄紫色の菫・スミレ(学名ビオラ・マンジェ)にもであう。園芸品種などの近縁なスミレ類はごまんと溢れるが、野辺の和種スミレもほんとうに少なくなっている。園芸家、柳 宗民さんがスミレを愛でている言葉を思い出す。「スプリング・エフェメラル(春のはかない生命)」という響きのきれいな言葉どおり、今日のプチ散歩は桜といい、スミレといいまさに「スプリング・エフェメラル」を体感できるひと時になった。