SURGERY NOW note

がん治療と外科手術に関する新しい情報や日常診療を通じて感じたことなどを紹介します。

膵頭部がんに対する上腸間膜動脈周囲神経叢切除は有効か?

2008-07-27 | 治療
 膵頭部がんでは膵頭部後面から上腸間膜動脈方向へ向かう膵頭神経叢浸潤が多いので、上腸間膜動脈周囲神経叢の切除が行われます。この上腸間膜動脈周囲神経叢切除法には様々な方法が存在し、全周切除、右側半周切除、神経叢表面だけ浅めに切除する方法などがあります。

 しかし、この上腸間膜動脈周囲神経叢切除の有効性は科学的には証明されていません。一般に、神経周囲浸潤を認めるような膵臓がんは高度進行例であることが多くリンパ節転移の頻度も極めて高いので、神経叢を切除したから治癒するということにはならないからです。ですから、どの程度の神経叢切除をするかは手術の度に悩むことになります。膵頭部がんでは上腸間膜動脈周囲神経叢の右半周切除が、最も一般的だと思います。しかし、高齢の患者さんや全身状態があまり良くない人では神経叢切除を省略することも多いのが実情です。

膵臓学会で膵菅内乳頭粘液腫瘍(IPMN)について発表

2008-07-27 | 学会
 2008年7月30‐31日横浜で東海大学今泉俊秀教授の主催によって日本膵臓学会が開催されます。私は「IPMNをめぐって:手術vs経過観察」というテーマのパネルディスカッションでパネリストとして討議に参加する予定です。

 膵菅内乳頭粘液腫瘍(IPMN)は良性腺腫から最も悪性の浸潤がんまで様々の悪性度の腫瘍があります。しかもその良悪性の鑑別診断はなかなか難しいために治療法の選択に悩むことが少なくありません。良性腺腫であれば必ずしも手術する必要はありませんが、悪性のがんでは手術する必要があります。最も悪性である浸潤がんを見逃さずに治療するためには、若干手術適応を広げて手術を行う必要があります。しかし、そうすると良性腺腫も手術を受けることが多くなってしまう問題があります。しかし、悪性が強く疑われる場合だけを手術するのでは、せっかく早期発見されたがんを治療するチャンスを逃す可能性があります。

 IPMN全体の約3/4を占める分枝型IPMN腫瘍の大きさは、腺腫(n=35)で平均3.3cm、非浸潤がんと微少浸潤がん(n=17)で平均4.3cm、浸潤がん(n=23)で平均5.4cmと、悪性であるほど大きくなっています。しかし3cm以下の浸潤がんもあれば5cm以上の腺腫もありますので腫瘍径だけでは良悪性を鑑別することはできません。一般にCTやMRIなどの画像検査によって、分枝型IPMN浸潤がんの約90%以上において充実性の浸潤がん部分を診断することが可能です。ですから残り約10%未満の、浸潤がん成分が画像検査で診断できない浸潤がんを手術適応から漏らさないことが必要です。