佐藤雅美(まさよし)さんの2016年の著作であった。
佐藤さんは昨年亡くなっていることは前にもブログに書いた。
この作品は、2016年8月に発行され、昨年4月に文庫本になったものであった。
佐藤さんは初期、歴史的な題材を経済面から考証した作品を発表しており、私も好きな作品が多かった。
これも前に書いたが、「大君の通貨」もそのひとつで、新田次郎文学賞を受賞している。
その他にも「小栗上野介忠順伝」や「荻生徂徠伝」などの江戸時代の人物評伝も書いており、
また読むのを楽しみにしている。
今回の作品は、江戸時代の初め、家康から家光の時代に活躍した、大久保彦左衛門の話である。
映画がまだ全盛だった昭和の時代には、江戸初期の名物男、「天下の御意見番」として、
スクリーンに登場し、一心太助を相棒に活躍し人気があった。
もちろん実在の人物であり、一族大久保家は徳川家の早くからの譜代であり、徳川の時代を築くのに
貢献してきた。しかし、大坂の陣も終わり、元和偃武となって、世が静謐になると、禄高は大きく減らされていた。
そのせいもあり、思うことをずばずばと言い、大口をたたく頑固者になっていた。
そのような彦左衛門が、子孫に向けて書き残した「三河物語」には、徳川家とそれに仕えた大久保一族の
歴史が描かれている。
この「三河物語」のなかに「旗奉行吟味一件」という話がある。
そこにこそ、「主君のことを思えばこそ、主君におもねってはならない」というーーー頑固一徹、家康に対しても
己の言を曲げなかった大久保彦左衛門の「侍の本分」があった。