シトー派修道会とブルゴーニュワイン-中世盛期のヨーロッパと食(10)
フランスワインの2大産地と言えば、フランス北東部の「ブルゴーニュ」と南西部の「ボルドー」です。前回のお話ではシトー派修道会が出てきましたが、シトー派修道会はブルゴーニュワインの礎を築いたことでも有名です。そこで今回は、シトー派修道会のワイン造りについて見て行きましょう。
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ブルゴーニュワインの大きな特徴は、単一品種のブドウでワインを造ることだ(多少の例外あり)。一方、ボルドーワインでは複数品種のブドウが使用される。
ブルゴーニュの赤ワインでは「ピノ・ノワール」が主に使われている。このブドウで造ったワインは繊細な香りと味わいが特長とされていて、有名なものとしては「ロマネ・コンティ」がある。
ピノ・ノワール(moni quayleによるPixabayからの画像)
一方、白ワインでは「シャルドネ」がメインとなる。ブルゴーニュの白ワインはさわやかな酸味と辛口が特徴で、「シャブリ」地区のものが有名である。なお、シャルドネはピノ・ノワールとグエ・ブランという品種との交配で生まれたと考えられている。
シャルドネ(jane2494によるPixabayからの画像)
単一品種のブドウでワインを造ると、似たような風味のワインばかりが生まれると思われるかもしれない。しかし、ピノ・ノワールもシャルドネもニュートラル(中立)系の品種と呼ばれており、生育地の土壌や地理、気候などによって風味が変化しやすい。このため、畑ごとに異なったワインが生まれるのだ。なお、生育地の土壌や地理、気候などをフランス語でテロワール(Terroir)と言い、ワインの話ではよく登場する言葉だ。
このような単一品種を使ったワイン醸造の礎を築いたのが、ブルターニュの地に建てられた修道院の修道士たち、すなわちシトー派の修道士たちだった。祈りと質素な生活、そして労働に重きを置いていたシトー派の修道士たちは、ワイン造りにも精を出した。彼らは、神には最高のワインをささげねばならないと考えたのだ。
シトー派の修道士が目指したのが、彼らの白い衣に象徴される「純真さ」である。この純真さを生み出すために、ピノ・ノワールなどのブドウの質の向上に努めた。純真な良いワインを造るために極上のブドウだけを使おうと言うわけである。
このようなシトー派の修道士たちの考えが後世に受け継がれ、ブルゴーニュでは単一品種のブドウでワインが作られるようになって行く(完全に単一品種でワインが造られるようになるのは18世紀のフランス革命以降と言われている)。
またシトー派の修道士は、それぞれの土地の性質を調べることで、最高のブドウができる畑を整備して行った。
彼らの修道院の近くでは良いブドウが出来なかったので、他の土地をくまなく探したところ、少し離れた丘陵斜面がブドウ栽培に最適であることを見つけた。この地が「黄金の丘」を意味する「コート・ドール(Côte-d'Or)」であり、ブルゴーニュワイン醸造の中心となっている。
さらにシトー派の修道士たちはコート・ドールの丘陵斜面を細かく区分し、その優劣を決めて行った。畑が違うと出来上がるワインの風味が異なることに早い段階で気づいていたのだ。彼らは土壌の状態を調べるために土を食べたとも言われている。
このように畑を細かく区分し、それぞれで異なるワインを生み出すやり方は現代に受け継がれている。例えば、ブルゴーニュワインの格付けは畑ごとに行われている。「特級畑(グラン・クリュ)」と「一級畑(プルミエ・クリュ)」が上位の格付けであり、これらのワインのラベルには畑の名前まで記載するのが規則になっている。
ワインの歴史の中でシトー派修道会が果たした役割はとても大きいものだったと言える。