えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...ありのままに、ユーモラスに......♪

第5章 放射線治療 9.

2007年07月03日 | 乳がん闘病記
9.
 2005年4月24日。退院後初めてのY先生の診療日。どんな病理検査結果が出ているだろう。土曜日なので、夫も一緒に話を聞くと言う。奇しくも、高校の同級生たちの花見の宴会が、新宿御苑で開かれることになっている。オフ会にはほとんど参加してきた私のこと、診療日と重なっていなかったら、きっと何食わぬ顔で参加していただろう。残念だ。

 2人で診察室に入ると、Y先生は少し驚いたようだった。今までは重大な局面でも私1人で話を聞いてきたからだろうか。それとも、近々海外に行くことになるかもしれないことを伝えていたのに、夫がまだいるからだろうか。先生は周りをキョロキョロ見渡して、「椅子が1つしかないのですが、どうしましょうかね…」と、気づかってくれる。
 これまでも常々思っていたことだが、Y先生の患者に対する態度はいつも紳士的だ。決して慇懃無礼でもマニュアル的対応でもなく、患者に敬意を払っていることがわかる態度であることが、患者を安心させ、信頼させる大きな要素なのだろうと改めて思う。結局夫が立ったまま聞くことになった。

 先生はまず、座ったまま下着を持ち上げて患部を見せるように言った。当たり前の行為なのに、私はなぜか一瞬ためらってしまった。もちろん、手術をしてもらった先生に見られることが、今さら恥ずかしいわけではない。夫にもすでに見せている。にもかかわらずためらわれたのは、おそらく、たとえ医師とはいえ夫以外の男性に、夫の前で見せるという行為が恥ずかしかったのだと思う。ほんの一瞬のことだったのに、先生は私の表情とその隙を見逃さなかった。そして訊いてきた。「ご主人はもうご覧になりましたか?」 
 この言葉で、私は体験談を再び思い出した。「術後すぐには夫に見せられなかった」というものだ。先生はそういう患者の体験談や心理を理解した上で、この質問をしているのだと私にはすぐにわかった。しかし、女性心理にはめっぽう疎い夫は、そんなことに考えが及ぶわけもない。彼は無意味に快活に、「はい、見ています。毎日……」と言った。「この人は、やっぱりわかってないんだな~」と、私は心の中で苦笑していた。無理もないことかもしれないけれど…。
 それはともかく、私の中ではY先生の株が上がっていた。臨床を積み、患者の心理を理解しているだけではなく、私の一瞬の顔色からその質問をした頭の良さと思いやりに、好感が持てたからだ。―これから、この先生と長いつき合いになりそうだけど、この先生ならきっと大丈夫だな…―と思った。

 傷痕は順調に回復していると、Y先生はF先生と同じことを言った。

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