ガンバレ、ニッポン

なんか、不安定なニッポンですね。

中国人研究者からの技術流出 ~その背景にある「日本の問題」

2021-12-15 20:35:09 | 国内
中国人研究者からの技術流出 ~その背景にある「日本の問題」

『中国人研究者から技術流出、先端兵器に?日本も「千人計画」警戒強化』

日本や欧米の政府が、軍事に転用される可能性が高い機微技術の流出への対策を強化している』 ~『朝日新聞』2021年12月12日配信記事 『中国人研究者から技術流出、先端兵器に?日本も「千人計画」警戒強化』より 12月12日に掲載された朝日新聞の記事について、担当者である峯村健司・朝日新聞編集委員に訊く。 

飯田)実際に日本にいた中国人の研究者たち、国立大学や国立の研究機関にいた人たちが、その後、記事によれば中国に帰って、極超音速兵器など、安全保障を根底から覆すようなところにも関わっていたのではないかということです。緻密な内部資料等々も含めて、かなり掘り下げて書かれています。 峯村)リサーチも入れると半年以上かけました。緻密かつ、深堀りをした内容になったと自負しています。取材を進めてわかったことは、「1人~2人の外国人が情報を盗って帰った」というような話ではなく、約20年かけて、同じ日本の国立大学に弟子や同僚を派遣していたことが判明しました。 飯田)そして代わる代わる……。 峯村)代わる代わる3年ごと、4年ごとという形で、日本で研究をします。そして、その人たちが帰り、中国の研究機関や大学で、それぞれが極超音速兵器に関わる研究・開発にかかわっていたことがわかったのです。 飯田)その人たちが。 峯村)見事に役割分担ができていて、極超音速兵器のなかでも、燃料や形状、推進するエンジンなどに、日本で研究していた少なくとも9人の中国出身の方々が関わっていたのです。そういう意味では、20年がかりで組織的にやっていた可能性があります。 飯田)学術分野としては、燃料は燃料ですし、空力は流体力学です。全部別々ですけれども、組み合わせるとこうなるという。 峯村)今回、感情的に煽る記事ではなく、必ずカウンターコメントを取ろうと思いました。該当する中国の研究者たちがどういう方々なのか、連絡先も調べました。しかし、「あなたは技術を盗みましたね」と聞くわけですから、もちろん断られます。 飯田)そうですね。 峯村)なかなか厳しかったのですけれども、知人らを通じて紹介してもらい、9人のうち1人の方からコメントが取れたのです。できるだけ客観性を保つ努力をしました。 飯田)「そういうわけではないのだ」という。 峯村)この中国の研究者の方は日本滞在中、「風洞」という極超音速の実験をやる設備がある施設を訪問していました。私の取材に対して、「日本の研究施設は素晴らしい施設であった」と認めたながらも、「私は盗んだわけではない」と反論しました。 飯田)長い筒のなかで、前からファンで風を出し、どういう流れになるのかということを調べるものですよね。 峯村)確かに日本のものと形は似たような風洞を、中国の政府系研究機関でつくってはいたのですけれども、それについては「ニラとネギくらい違う」と言っていました 飯田)にらとネギくらい違う。 峯村)微妙過ぎて、その違いがよくわからなかったのですけれども。 飯田)同じ薬味だとも思うけれど。 

セキュリティ・クリアランス制度」を導入するべき

峯村)「根本的な技術は全然違う」と言っているのだと思います。ただ、それが仮に偶然だったとしても、日本で研究経験のある技術者たちによって極超音速のような、日本の安全保障を脅かしているものができているという外形的な事実が明らかになりました。 飯田)その技術者の人たちで。 峯村)これまで、こうした状況に対して、日本政府はほとんど対策をしていませんでした。こうした技術が軍事転用されたのかがわかりづらいからです。「私は研究していただけです」と、「基礎技術は研究していましたが、ミサイルの研究などはしていません」と言われると、難しいところなのです。 飯田)その先のチェックが。 峯村)いま話題の経済安全保障においては、どの部分の技術について管理するのか、流出を防ぐことができるのかがカギとなってきます。あとは「セキュリティ・クリアランス」です。記事を通じて、「この人は本当に大丈夫な人なのか」「中国軍に絡んでいないのか」「お金をもらっていないのか」ということをチェックする。「この制度は一刻も早くつくるべきだ」という警鐘を鳴らしたとという思いがあります。 飯田)諸外国の事例も含めて、日本国内での研究にあるような予算付けなど、そういう環境の部分も問題なのではないかと、いろいろな問題提起をされています。「中国に日本の頭脳が流出する」という批判もされていますけれども、海外に行った研究者の方に聞くと、日本では予算も付かないし、研究の基盤もしっかりしていなかったから、「行かざるを得なかったのだ」という反論もある。ただ批判するだけではなく、足元を見直さなければならない部分もたくさんあるわけですよね。 峯村)そうなのです。メディアはしばしば「批判するだけで、あなたたちは何なのだ。代案を出せ」と言われます。それを意識して、これは盛り込むようにしているのです。 飯田)批判だけではなく。 峯村)実際に中国がどのように人材確保しているかというところで言うと、浙江省などは何億円という形で給料を出し、日本人のリタイアした科学者の方々をリクルートしています。家付き、秘書付き、車付きで、お仕事も「適当にやっておいてください」というような待遇です。学者からすると天国のような状況をつくっているのです。 飯田)そうして日本からの頭脳流出が行われてしまう。 峯村)確かに中国はやりすぎかもしれませんが、こうした世界的な頭脳獲得競争は熾烈になっています。私からすると、「やらなかったもの負け」です。片や、日本の何人かの学者さんにも聞いてみたのですけれども、桁違いで研究費が少ない。さらには文科省の申請する資料も役所仕事の、「そのようなものはどうでもいいだろう」というような、分厚い資料を書くことも多い。こういうところの制度も幅広く批判する。そして、「どこを変えればいいのか」という提言をするという中身にはなったのではないかと思います。 飯田)先日のLINEのスクープのときにも伺いましたが、昔であれば、こういう記事を書く場合において、当然、浙江や北京に行って取材ができた。しかし、いまはコロナで難しくなっていますよね。 峯村)我々国際ジャーナリストにすると、手足が縛られた状況なのです。だからこそ、「IT国際調査報道」と私が勝手に名付けているのですが、いろいろな通話アプリやインターネット、電話などを使って、手当たり次第に探してみる、というやり方をしています。 飯田)通話アプリやインターネットなどを駆使して。 峯村)実際に私が北京に行き、この中国人研究者にアクセスできるわけではないのですけれども、日本にいるその人の知り合いにコンタクトを取って、その人から電話をしてもらうようなやり方で、1つ1つ階段を上る形で取材しました。薄氷ですけれども、何とか記事化することができました。 

飯田)記事には「公安関係の」というようなこともありましたけれども、取材方法としてはハイブリッドなわけですか? 峯村)そういうことです。私は内部文書が大好きで、北京時代もワシントン時代も、とにかく内部文書を取ることを最優先にしてきました。 飯田)内部文書を。 峯村)表向きの政府の見解だけでは真実をつかめません。内部文書にこそ真相は宿るのです。どこに行っても、これを取るようにはしています。 飯田)内部文書にこそ真相は宿る。 峯村)誤解されるのですが、記者によっては、内部資料を縦横で書く記者もいますけれど、私にとって内部資料はただのフックに過ぎません。内部資料のなかには、まだ詰め切れていないファクト、間違っているところがあるのです。あくまでも道具として使い、「その100倍ぐらい取材する」というのが、私のやり方です。 飯田)いま「縦横」とおっしゃいましたけれども、内部資料を記事に直す、横書きのものを縦書きに直すということで、そのままやってしまうと、それは「縦横」という感じになってしまう。しかし、それをもとに裏を取り、さらに裏を取って行くということですね。 峯村)そうですね。資料のなかに書かれているこの人は、「何年から何年まで日本にいたのか」と、そのようなものを全部調べました。それで日本各地へ出張に行くこともありました。 飯田)学術会議の話のときも問題になっていましたけれど、中国などに対する軍事技術的なものの研究や流出というのは、野ざらしなのにも拘わらず、防衛省と何かやろうとか、自衛隊と何かやろうとすると、その時点で予算も下りない。企画書すら通らないというような、「このアンバランスな状況はどうなのだろう」と記事を読んで思いました。 峯村)アンバランスというよりも「一体、どこの国を守っているのだ」という、怒りすら覚えます。先日も宇都宮大学でありましたよね、防衛装備庁に反対するという。 飯田)大学側は問題ないのだと。 峯村)「問題ない」と言っている一部の教授が批判しているのですけれども、その批判の内容も、説得力に乏しいと言わざるをえません。そこは本当に、今回の問題のなかでいちばんの問題だと思うのですが、その日本にいる国立大学の中国人研究者は、逆に科学研究費を使って研究しているのです。科学研究費を使い、「ありがとうございました、ごちそうさまでした」と言って、中国に帰る。そして最もいま日本の防衛を脅かしている極超音速兵器の開発につながっている私はこれに拘って半年間追いかけたのですけれども、常識的に考えて、「どちらがおかしいのだ」という話です。