--そんな態度ではやらん。
老人は突進してきた一輝を躱し、果実を素早く袋に戻すと、胸元にしまい込んだ。
--では、どうすればよこす?
ここは、このスケベで性悪な老人が創りだした空間であった。あの素早さといい、一輝が闘いを挑むのは振りな状況にあった。
--ワシは困っておる。
--オレの知ったことか。
この妖怪ジジイが困ろうと野垂れ死のうと、一輝には痛痒(つうよう)も感じない。
--オレの知ったことか? だと。ワシはお前さんのせいで窮地に追い込まれておるのだ。
老人の言葉に、一輝は目を見張った。
老人が猫に化け、部屋に居座ってから、一輝はこの猫には指一本たりとも触れていない。
--ジジイ、楽な生活をしすぎてボケたのか? せっかく磨いた仙道の技を、やわら鈍らせぬうちに野に出たらどうだ?
そうすれば一輝も氷河も、この猫の皮を被った変態に煩わされずにすむ。
--黙らっしゃいッ。お前さんには敬老精神というものがないのか?
老人は嘆いた。
--オレにそんなものがないことぐらい、自慢の鼻で嗅ぎ出せんのか?
一輝は嗤った。
--まったくああ言えばこういう…解った、ワシは出て行く。
老人は背を向けた。
--ちょっと待った。その果実は置いていけ。
老人には未練はないが、老人の胸中にある果実には、有り余るほどの執着がある。
なぜ、敬老精神の“け”の字もない人間に、大切な仙薬をやらねばならぬ?
老人は背中越しに一輝を振り返った。
--これまでお前はオレの部屋に居座って、ふてぶてしく振舞っておったろうが。
飯を喰らい、惰眠を貪り、氷河に抱かれ、全身をマッサージされ、さらには一緒に入浴までさせてもらっているのだ。
コレ以上の贅沢はあるまいと、一輝は思った。
--ワシの面倒を見てくれたのは、あの金髪の好青年だもんね。そうだ、出立の礼に、あの青年にこの仙薬を渡すとしよう。
老人はポンと、両の掌を打合せた。
「続く」
老人は突進してきた一輝を躱し、果実を素早く袋に戻すと、胸元にしまい込んだ。
--では、どうすればよこす?
ここは、このスケベで性悪な老人が創りだした空間であった。あの素早さといい、一輝が闘いを挑むのは振りな状況にあった。
--ワシは困っておる。
--オレの知ったことか。
この妖怪ジジイが困ろうと野垂れ死のうと、一輝には痛痒(つうよう)も感じない。
--オレの知ったことか? だと。ワシはお前さんのせいで窮地に追い込まれておるのだ。
老人の言葉に、一輝は目を見張った。
老人が猫に化け、部屋に居座ってから、一輝はこの猫には指一本たりとも触れていない。
--ジジイ、楽な生活をしすぎてボケたのか? せっかく磨いた仙道の技を、やわら鈍らせぬうちに野に出たらどうだ?
そうすれば一輝も氷河も、この猫の皮を被った変態に煩わされずにすむ。
--黙らっしゃいッ。お前さんには敬老精神というものがないのか?
老人は嘆いた。
--オレにそんなものがないことぐらい、自慢の鼻で嗅ぎ出せんのか?
一輝は嗤った。
--まったくああ言えばこういう…解った、ワシは出て行く。
老人は背を向けた。
--ちょっと待った。その果実は置いていけ。
老人には未練はないが、老人の胸中にある果実には、有り余るほどの執着がある。
なぜ、敬老精神の“け”の字もない人間に、大切な仙薬をやらねばならぬ?
老人は背中越しに一輝を振り返った。
--これまでお前はオレの部屋に居座って、ふてぶてしく振舞っておったろうが。
飯を喰らい、惰眠を貪り、氷河に抱かれ、全身をマッサージされ、さらには一緒に入浴までさせてもらっているのだ。
コレ以上の贅沢はあるまいと、一輝は思った。
--ワシの面倒を見てくれたのは、あの金髪の好青年だもんね。そうだ、出立の礼に、あの青年にこの仙薬を渡すとしよう。
老人はポンと、両の掌を打合せた。
「続く」