JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

経費削減SS (一輝と猫16)

2013-08-05 03:04:00 | ノンジャンル
--キサマッ、狙いは氷河か?
 さっき氷河の素肌を舐め、触りまくったネコの暴挙を思い出し、一輝は肚を立てた。
--確かに、氷河という青年は気に入っておるが…コラッ、止めんかッ。
 拳を握り宇宙を高めた一輝に、老人が慌てた。
--ワシがあの青年が気に入ったというのは、お主のような邪念からではないわッ。
 一輝の拳を躱しながら、老人が悲鳴を放った。
--黙れッ、変態ジジイがッ!
 一輝は老人のいる場所から、老人が躱すであろう範囲に、無数の拳を叩き込んだ。
--やめんか、コラッ。部屋が壊れてしまうではないかッ!
--部屋など、知るかッ!
 このジジイは猫に化け、氷河とも共に入浴し、氷河の膝に当然の様に全身を委ね、氷河のマッサージを受けたのだ--。
 一輝は猫のやるだと思って、膝から叩き落としたいのを我慢していたのだ。
 だがあのフザけた猫は猫ではなく、珍妙な術を身につけただけの、ただの変態スケベロジンだったのだ。
 よくも、と一輝は思った。
 氷河の肌も膝も一輝の、一輝だけのものなのだ。
 それを、猫の姿を真似ただけという老人に、膝には居座られ、肌は舐められてしまった。
 絶対に、許すことの出来ぬジジイであった。
--ま、待てッ! こ、これはいらぬか?
 老人が懐から探りだした袋の中から、素早く小さな実を取り出した。
--それは、もしや…。
 一輝は動きを止めていた。
 老人のシワだけらの掌には、そばの実のような果実が乗せられていた。
--そうじゃ、この間、お前さんに助けて貰った礼にやった実じゃ。
 老人は一輝の前で、果実を乗せた掌を翳(かざ)してみせた。
--ほーれ、これが欲しいか?
 老人が果実の一つを摘み、一輝に示した。
--寄越せ。
 老人の手にしている果実こそ、一輝があの事件から探し求めていた物であった。
 一輝は暇を見ては、老人が徘徊していそうな公園や駅などに足を伸ばし、老人を--いや、この果実を探した。
 だが老人も果実も、見付け出すことはできなかった。
 灯台下暗し、という言葉がある。
 老人は事もあろうに猫に化け、氷河に甘え暮らしていたのだ。

「続く」

経費削減SS (一輝と猫15)

2013-08-03 01:38:00 | ノンジャンル
ーーお前さんの考えなどお見通しじゃ、なざらなワシは仙道を極めておる、ホラ、この通り。
“ほら、この通り”と言って飛び上がった老人は地に脚を付けたときには、猫の姿に戻っていた。
ーーキッ、キサマッ。
 さっきまでベッドの脇のテーブルで、硬い身体を無理無理グルーミングしていた猫の姿に、瞠目する一輝の前で、猫は再度跳ね上がり、着地したときには元の老人の姿に戻っていた。
ーー何事を気合の入れ方じゃ、ワシぐらいの力を手に入れば、なににでも姿を変えられるでな…。
 笑顔でそう宣(のたま)う老人の姿を目にしながら、一輝は氷河との会話を思い出していた。
 猫がベランダにいたと言いはる氷河を、一輝は嗤った。
“猫が各部屋が独立しているマションの17階にいるわけがないではないか”と。
 だが、猫に成れたのなら、鳥に慣れないわけはない。氷河の言葉は本当だったのだ。
ーーなぜ、オレの住居が解った?
 老人とは、氷河に不思議な果実を与える前に別れている。
ーー匂いじゃよ、匂い…ワシぐらい仙術を極めると、お前団に付いていた僅かな香りを伝い、目当の匂いを探すことなど造作もないのじゃ。
ーーオレに付いていた、香り…。
 一輝は目の前で胸を張る老人を見据え、言葉と続けた。
ーーなぜ、オレの香りではなくて、その僅かな香りの人間をさがす?
ーーワシは人を見る目が有る。お前さんは、猫の世話などは絶対にやかん男じゃ。
 断言され、一輝はやや不機嫌になった。
 だが、自分が猫のトイレを変え、ブラッシングをし、毎日、餌に気を使える姿は、想像できない。
 そういうマメさは、一輝は氷河に任せることにしているからだ。
ーーキサマッ、狙いは氷河か?