天津ドーナツ

みんなで力を合わせて、天津の日本語教育を楽しく、元気にしましょう。ご意見・ご要望は左下の「メッセージ」からどうぞ。

スピーチについて  テーマ・相手・自分を理解する

2011-01-31 09:06:59 | 顧問・アドバイザーから
世の中にはハウツー(How to)本があふれているから、

この日記のテーマも、「スピーチのコツ」とでもしたほうが、受けがいいのかもしれません。



しかし、そういうことは他の人やさまざまな書籍、インターネットの「スピーチのコツ」といった

サイトなどに任せることにします。



ですので、

内容は憶えてもらわなくてもいいから、上手そうだなというイメージで勝負していきたい人は、

他の方法で練習してください。



(ここから本題に入ります)

今、「大中物産杯」というスピーチコンテストに向けて、数人の学生の原稿チェックをしています。

テーマは「未来に伝えたいこと」。



彼らの原稿を読んでいて、改めて思いました。



「何を、何のために」ということが明確になっていないと、

「どうやって」の部分をいくら飾り立てても、心には響かない、

そして、それを考えるには、

「相手と自分を理解する」必要がある、

ということです。



原稿にはすばらしい美辞麗句が並んでいます。

でも、何度読んでも、そのスピーチを聞いて心から拍手をしている観客の顔は

浮かんでこないのです。



いろいろな本を読んだり、ネットで検索したりして、

何日も考え続けて、その理由が、ようやく少し分かったような気がします。



繰り返しになりますが、

「何を、何のために」ということが明確になっていないと、「どうやって」の部分を

いくら飾り立てても、心には響かないのです。



「どうしてそのテーマが出されたのか」

「どんなことを、何のために」

ということを何よりも先に考えなければいけないのに、

原稿を数時間で仕上げ、何週間も「発音・表現」の練習をする、



私自身も、そういう指導をしたことがあります。

その反省を込めて書くのですが、



そういう練習がどんなスピーチにつながるのかというと、

大量消費される消耗品のスピーチ、です。

消耗品、つまりは、使い捨ての「すぐに忘れられるスピーチ」です。



ちょっと言いすぎでしょうか。

「それは一生懸命にやっている学生に失礼だ」という方がいるかもしれません。

私もそう思い、6年間を過してきました。



しかし、自分でスピーチコンテストの発起人になってみて、

この問題から逃げるわけにはいかなくなりました。



ためしに一度、コンテストの審査員の方々に、

「記憶に残っているスピーチはありますか。どんなスピーチでしたか」

と聞いてみてください。

コンテスト直後ならまだしも、次の日になったら、ほとんどのスピーチが

忘れられてしまいます。



「学生のスピーチなんだから」

「ニュースだって、次の週には誰も覚えていないんだから」

と言う人もいるかもしれません。



私も、先週のニュースをすべて憶えてるわけではありませんから、

現代社会が情報においても大量生産・大量消費の方向に動いてきた

ことは否定しません。



ただ、何十時間(あるいは何ヶ月)も使っているスピーチの指導・練習が、

発表するそばから忘れられていくもののためだとしたら、

ちょっと時間がもったいないんじゃないかな、と思うのです。



(ここから本当の本題に入ります。前置きが長くて申し訳ないです)



1.テーマには、意図があります。

  例えば、「未来へ伝えたいこと」というテーマであれば、

 「未来の社会がどうなっているのか、

  そのときに社会の中心になっている人(つまり、今は学生の人)に考えてほしい」

 「その未来を少しでもいいものにするために、今からできることを考えてほしい」

 というようなことが考えられます。

  あるいは、

 「自分の行動は、何十年・何百年後の未来に影響を与えるということを自覚してほしい」

  という主催者もいるかもしれません。



2.「誰に、何を」を考えてください。

  「先生、そんなの決まっています。審査員、ゲスト、観客の学生たちです」

  という人は、50点です。

  残りの半分は、

  「その人たちは、普段何をしているのか。どんなことで喜び、どんなことで悲しんでいるのか。

   どんな希望を持ち、何に悩んでいるのか。どんな環境で育ち、どんな生活をしていくのか」

  といったことです。

  

  相手が変われば、話す内容も変わってくる、

  これは誰もが理解できることですが、実際に、相手の欲求・価値・期待を考えようという

  人は、ほとんどいません。



  あるいは、そのようなことは「相手に媚びることだ」という人もいるかもしれません。

  「スピーチは、自分の成長ためにするのであって、相手の評価は関係ない」と。



  もし、その「評価」が「順位」というのであれば、私も同意します。

  審査員が変われば順位は変わるかもしれませんし、同じ審査員でも、1週間後には

  違う評価をしているかもしれないからで、

  そのようなあやふやなもののために、神経をすり減らすのはもったいないと、

  私も思います。



  しかし、それでも、やはり、「どんな人たちが聞いてくれるのか」ということは

  考えなければいけません。



  やり方は簡単、相手の生活を想像すればいいのです。



  「能力試験も、英語の試験の準備しなければいけない。宿題もある。遊びに行ったり、部屋で

   インターネットをしている友達もいる。デートをしている人もいる。美味しいものを食べに行く人もいる。」

  「最近、日本語の勉強が楽しくなってきた(あるいは難しく感じてきた)。『フリーター家を買う』とか、

  『告発国選弁護人』は面白いな」

  というような人たちが休日にスピーチを聞きに来る、

  

  そういうことを想像することができれば、

  「その人たちにどんなことを伝えたいのか」ということも、分かってきます。



  今回のテーマ、「未来へ伝えたいこと」で言えば、

  相手は、会場にいる人だけではありません。



  50年後、100年後、500年後の未来の人たちです。

  自分の、そして会場にいる人・いない人たちの子孫です。

  そういう人たちに、どんなことを伝えたいのか、

  これが、このテーマの要求していることです。



3.「何を」の基準は自分自身です。

 テーマの要求していること・相手を理解したら、次は「何を」を考えます。



 そのときのキーワードは、「私」です。

 つまり、「私は何を伝えたいのか」です。



  

  結論:

  スピーチの練習に取り掛かる前に、

  「誰に、どんなことを、何のために、私は伝えたいのか」、ということをきちんと考えてください。



  「このテーマで、この相手に、これを伝えたい。それは、私のこういう経験から出てきたことです。」

  これができたら、「どうやって」という表現の練習(原稿書き・発音・表現の工夫)に入っていいと思います。



  補足:

  「誰に、どんなことを、何のために」を考える習慣は社会に出てからも役に立ちます。

最新の画像もっと見る