特殊清掃「戦う男たち」コメント公開

戦友の意見交換の場として公開しています。

二十歳

2007-05-29 07:29:58 | Weblog
私が二十歳の時は、大学生だった。
生きることの酸いも甘いも分からず、ましてや、死を自分のこととして捉らえることもない、薄味の若輩(弱輩)者だった。

ちょっと余談・・・
以前のblogに「都内の三流私大」と書いたけど、「都内の四流私大」と訂正しておく。
「三流?・・・二流の次ではないよなぁ」
と最近思ったので。
学校が四流なら、社会では何流?→我流?自流?

私にとって二十歳は、何の節目でもなかった。
毎年の誕生日と同じように過ぎ、まったく興味もなくて成人式にも行かず、記念写真などもない。
〝学生〟という無責任な身分も手伝って、大人になった自覚もほとんどなかった。




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人始末(後編)

2007-05-26 08:18:24 | Weblog
「これもお願いできませんか?」
女性が差し出した箱は、明らかに骨壺のケースだった。

「これですか・・・」
私は、それを受け取らず、床に置いてもらった。
あえて受け取らなかったのは、それによって〝引き取りを承諾した〟と思われたくなかったからだ。

私は、床に置かれたモノの四角いカバーを外してみた。
すると、想像の通り、中からは骨壺が姿を現した。

私は、壺が空であることを願いながら、念のため女性に尋ねてみた。
「中に遺骨は入ってますか?」

「ええ・・・母が・・・」
女性は、申し訳なさそうに応えた。

仏壇・位牌は迷うことなく快諾できたけど、モノが遺骨ではそういう訳にはいかなかった。




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人始末(前編)

2007-05-23 15:35:43 | Weblog
私の仕事は色々あるけど、その中の一つに遺品の回収処理がある。
〝遺品〟と言っても明確な定義はなく、その種類や量は案件毎に様々である。
家財・生活用品を丸ごと撤去することもあれば、特定の物だけを回収することもある。

単遺品で最も多いのは布団。
故人が、生前だけでなく亡くなってからも安置されていた布団だ。
次にくるのは仏壇。
その他には、神棚・写真・人形(縫いぐるみ)・衣類が比較的多い。

ある中年女性から遺品処理の依頼が入った。
品目は仏壇。
回収するモノが特定できている場合は事前見積も必要ないので、私は、仏壇のサイズと付属品を確認してから料金を伝えた。



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アルコール

2007-05-20 16:34:54 | Weblog
今更言うまでもなく、私は大の酒好き。
飲み始めると、ビール・焼酎・日本酒とすすんでいく。

学生時代は、無茶な飲み方を重ねてきた。
店のトイレや駅のホームで吐いて、人に迷惑をかけたことも何度かある。
社会人になってからも、その癖は治まらず、自分の服はもちろんタクシーをゲロまみれにしたこともある。
まったく、恥ずかしいかぎりだ。

歳を重ねるに従って、飲み方はおとなしくなってきたけど、今でもその名残はある。
「俺ってアル中?」
と思うこともしばしば。

酒は人を変える。
自分が自分ではなくなる。
気分が大きくなり、イヤなことを忘れさせてくれる。
しかし、その代償も小さくはない。

ある日の午後、一本の電話で依頼者に呼ばれた私は、現場に急行した。
道程が遠かったこともあり、私が現場に到着する頃には外は暗くなっていた。



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夏の日

2007-05-17 09:38:50 | Weblog
春も盛り、日によっては初夏の陽気。
遺体が腐敗しやすくなる季節がやってきた。
そうなると、私がこなす仕事の割合も特掃が大きく占めるようになってくる。

私の仕事を大きく分類すると、頭脳労働や精神労働ではなく肉体労働になるだろう。
まさに〝体力勝負〟の場面も多い。

当然のことながら、私は昨年の同時期からは一つ歳をとっている。
と言うことは、体力も一歳分は衰えている。
そして、残念ながら脳力も衰えているような気がする。
身体も頭も疲れやすくなってきた上に、疲労回復のスピードも落ちてきた。
やはり、歳には勝てないのか。

作業見積の依頼が入った。
依頼の内容は、家財・生活用品の撤去処分。




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死の重み

2007-05-14 08:23:58 | Weblog
ある小規模マンションに腐乱死体が発生した。
私は、エントランスロビーで依頼者(遺族)と待ち合わせた。

「大変なことをお願いして申し訳ありません」
「いえいえ・・・」
簡単な挨拶を交わして、すぐに本題に入った。

「早速ですが、現場を見せて下さい」
「こちらです」
私は、依頼者に促されてエレベーターに向かって歩いた。
エレベーターは一階で止まっており、私達は扉を開けて乗り込んだ。
私は、てっきり、上階の現場に向かうものとばかり思っていたのだが、扉が閉まった途端に依頼者は妙な質問をしてきた。

「何かお気づきになりませんか?」
「え!?何をですか?」
「例えばニオイとか・・・」
「ニオイ?特に感じませんが・・・」
「やはり、感じませんか・・・」
「???」
怪訝な表情の私と困惑した表情の依頼者。



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Up Down

2007-05-11 17:00:44 | Weblog
「気分のUp Downが激し過ぎる」
私は、人にそう指摘され
「Up Downの幅をもう少し小さくしないと、自分も回りも辛いと思う」
とアドバイスされたことがある。

不本意ながら、自分でもその自覚はある。
神経質で気が短く、常に何かの不安を抱えている私の情緒は不安定で波があるのだ。
しかし、人に情緒不安定性や気分の浮き沈みがあるのは自然なことだと思う。
また、それ自体は悪いことだとは思っていない。
ただ、それがあまりに激し過ぎると自分自身がキツいし周囲に悪影響を及ぼすこともある。

「気分の波は、どうやったら凪にできるんだろうか」
自分の気分って、自分でコントロールできそうで実際はできないもの。
自分の理性が自分の感情をコントロールできなくなる度に、そんなことを考える。

ある自殺遺体の処置をした。
その遺体は、手首から胴体にかけてキズだらけ。
手首を切ったが死にきれず、自分の身体を片っ端から切っていったようだった。



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想い出

2007-05-08 07:56:31 | Weblog
私は、わりと過去の思い出を大切にする。
言い方を変えると〝未練たらしく引きづる〟。

時々、自分の歩いてきた道程を振り返っては、色々な出来事を思い出す。
「あんなこともあった」「こんなこともあった」と、懐かしんだり悔やんだり。

そんな回想でマズイのは、
「あの頃はよかったなぁ」
といったパターン(私の得意技)。
過去を輝かせると、そこから遠ざかる一方の現在から未来が暗くなるばかり。
すると、おのずと気分が暗くなる。
だから、そんな回想パターンはイカンのだ。

中年の女性から、遺品処理の依頼が入った。

依頼の内容は、
「独り暮らしをしていた母親が亡くなったので、家財・生活用品を処分したい」
とのことだった。
女性の落ち着いた物腰と、緊急事態ではなさそうな話しぶりから、
「特掃の出番はなさそうだな」
と判断し、死因・死亡日・亡くなった場所も尋ねなかった。
そして、いつもの通り、まずは見積検分に出掛けることにして女性と訪問日時を約束した。



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ドッグフード

2007-05-05 08:42:22 | Weblog
作業に使う道具等を買うため、私はホームセンターに行くことが多い。
郊外によくある大規模店になると品揃えも豊富で、探し物がある時や凝った道具が必要な時はかなり重宝する。

ちなみに、特掃に使う道具類の寿命は長くはない。
特段に壊れるのが早いわけではないのだが、例の汚物がこびりついて精神的な面で長持ちしないのだ。
愛用の特掃靴も同様。
不本意ながら、もう何人も踏みつけてしまっている。
いくら非道でも、ここまで人を踏みつけにして生きている人間はいない?

そんなホームセンターには、ペット用品売場もある。
買い物のついで、通り掛かりに見てみると、最近はペットフードの種類も豊富にあることが分かる。
今は人間様だけではなく、ペットの方も飽食になっているらしい。
各種のオヤツ類をはじめ、犬猫の年齢や肥満度に応じた食品も揃えられている。
子犬・老犬・デブ犬etc・・・それぞれに合わせたモノがある。
更には、人間の食べ物と見紛うケーキやお菓子類まで。
ここまでくると、コメントに困るくらい感心してしまう。


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お財布

2007-05-03 13:44:16 | Weblog
「すぐに来て下さい!」
特掃の依頼が入った。
電話の主は、マンションの管理人。
非常勤の管理人らしく、週に1~2回くらいしか行かないマンションの一室で腐乱死体が発見されたとのことだった。
現場はだいぶ酷そうで、私に電話が来たときは、警察が遺体を回収していった少し後だった。

「とにかく急いで来て下さい!」
との要望に、私は、警察から立入許可がでているかどうかを確認。
それから、急ぎでない仕事を後に回して現場に急行した。

到着した現場はオートロック式の分譲マンション。
電話をかけてきた管理人は、私の到着を〝今か、今か〟と待ち構えていた。
そして、現れた私に鍵を握らせ、急かすように現場の部屋に向かわせた。



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