勃ちあがった象の白い涙の物語

ロックンロールにゃ老だけど死ぬにはチョイと若すぎる

「余命1ヶ月の花嫁」

2013-12-08 23:39:42 | 書籍
正直言って、なめていた。
病気モノのお涙頂戴モノの物語。そんな風に思っていたのだが、はっきり言って、そんな単純なモノではない。

病気モノのお涙頂戴モノといえば、主人公が若ければ若いほど、その主人公を取り巻く状況がささやかな幸せに満ちていれば満ちているほど、盛り上がるというのが定番である。
そういう意味で、この話も、余命一ヶ月と宣告されてからの結婚式という、いかにもなエピソードがハイライトとなる、そういう手の話なんだと思っていた。
しかし、この本はそんな単純なモノではなく、読み終わった後、いろんなことを考えさせられる話である。




「青春の証明」森村誠一

2013-12-04 01:51:52 | 書籍
映画化された「人間の証明」と「野生の証明」とにはさまれて、同じ「証明」シリーズの作品でありながら、イマイチ、地味なイメージで無名な作品。
ただ、話としては一番面白かったように思う。
たしかに、推理小説としてはイマイチだし、なんかオチも、とってつけたようなもので、どんでん返しというには強引な感じがするが、それぞれの人間関係が、複雑に絡んでいく様は面白いし、リアリティはないとはいえ、話としては、すごく面白いと思う。

「野村ノート」 野村克也

2012-05-13 08:41:12 | 書籍
南海、ヤクルト、阪神、楽天と監督をしてきたノムさんこと野村克也の自慢話満載の本。
内容的には、どちらかというと作戦的な話より組織論や人材育成論の話が多いので、そういう意味では、ビジネス書的な見方もできなくはないが、やはり、野球の話に終始しているので、そういう捉え方は、個人的に疑問である。

選手としては超一流であることは認めざる得ない成績を残している彼だが、監督としてのその成績は、世間で言われているほど優れたものであるかどうかは、個人的に疑問が残る。彼が監督として顕著な成績を残したのはヤクルト時代のそれのみで、この本の内容も、そのほとんどがヤクルト時代の話に終始している。

そのヤクルト時代にしても、確かにそれまで最下位が定位置だったものを、数年で優勝させ、常勝チームに生まれ変わらせたのは事実だが、彼が監督する数年前に広沢や池山といった有能な選手が活躍しだしていたりしたわけで、複数年にまたがって活躍したピッチャーがいないばかりか、将来の有望なピッチャーを一年で使い潰してしまったという印象が、個人的には強い。

ただ、あのボヤきは面白いし、そういう意味では、球界に必要なキャラクターをもった人材だとは思う。


こと

「永遠の0」 百田尚樹

2011-08-07 10:46:32 | 書籍
上手いな、と思う。
とにかく、よく出来たストーリーによく出来た構成で、読んでいて、非常に面白かった。

終戦間際に特攻で死んでしまった祖父のことを調べようと、その孫が、彼を知る生き残りの元兵士たちに、その祖父のことを聞いて回る話であるのだが、そういう何人かの口を通してあの戦争のことが語られるだけに、こういう特攻を扱った作品としては、特攻賛美や自虐史観といった一方的な見方に陥ることもないし、なにより、下手な歴史書より、あの戦争の経緯がよくわかる。

あえて悪口を言えば、ラストでいきなり特攻ものの話からラブストーリーに話が転換していまうことだが、その強引さが気にならないほど話の構成は上手くできている。

「落日燃ゆ」 城山三郎

2011-05-24 23:13:15 | 書籍
太平洋戦争の東京裁判において、唯一の文民A級戦犯として絞首刑となった広田弘毅の生涯を追った作品。
この本を読む限り広田弘毅という人は、「物来順応」で「自ら計らわぬ」生き方をした人物で、確かに、あの戦争へと至る過程において総理大臣や外相を歴任した人物であるが、総じて「平和・国際協調」を推し進めようとした人物であり、決して、他のA級戦犯のように、積極的に戦争への道へと日本を推し進めていった人物ではなく、むしろ、その逆の人物であるといえる。
これだけの善人としか言いようのない人物が、有罪となり絞首刑とされたところにあの東京裁判が、いかに戦勝国の報復裁判でありいい加減なものであったのかが明白なものになると言える。

この本に描かれたのはある程度は真実であり、広田弘毅は本当は絞首刑なんかになるような人物ではなかったのだろう。しかし、ここまでの完璧な善人の存在というのは、あまりに出来すぎた話で、実際は、ここまでの人であるとは思えない。
そういう意味で、この本は、真実を伝えているというよりも、広田弘毅の提灯持ち小説という感じがしないではない。
しかし、その時代背景である、日本が戦争へと突き進んでいく過程のある側面は、よくわかると思う。


「翔ぶが如く」 司馬遼太郎

2011-05-16 21:40:36 | 書籍
「征韓論」による大久保利通と西郷隆盛の対立から西南戦争までを中心に、西南戦争直後の大久保利通の暗殺まで描いた小説。
以前、この小説を原作とした大河ドラマがあったが、その大河ドラマでは描かれた幕末は、小説では描かれていない。

この小説は、文庫本で全10巻の大作である。ひっとすると、司馬遼太郎の作品としては、最大の分量になるのではないだろうか。それだけの分量がありながら、描かれた時代は、明治6年から10年までの僅か4年間ほどでしかない。それだけに、話はあちこちに飛んだり、様々な話の本筋には関係の無い情報が盛り込まれていたりするのだが、それでいて、キチンと話を纏め上げ、話内容に破綻を生まないのは、さすが国民的作家・司馬遼太郎といったところだろうか。

個人的には、征韓論に敗れて西郷隆盛が下野したということや西南戦争という歴史的事実は知っていたが、その歴史的な意味はあまり知らなかったのだが、それがこの小説を読めば、よくわかる。

全体的に、はずれの少ない司馬遼太郎の作品だけに、それなりの満足のいく内容だとは思うが、何か物足りない感じがあったことも否めない。
それは、大久保利通と西郷隆盛の二人の友情と対立という観点からの描写が少ないからだと思う。

「乾坤の夢」 津本陽

2011-05-15 08:52:02 | 書籍
関が原の合戦から大阪の役までを徳川家康を中心に描いた小説。
その時代背景自体は、日本歴史上、もっともエキサイティングな時代だけに、本来ならば話として面白くならないわけがないのだが、この本に関しては、本当につまらない。正直、小説としては読むのが苦痛であるとさえいえる。

多くの文献を漁り、膨大な情報量が詰め込んである。その歴史の裏話の量としては、他の歴史小説を明らかに圧倒している。しかし、それがために、話の進め方に無理が出ているし、人物が描けなくなっている。
歴史的に大きな事件を取り扱っているだけに、読者としてその大まかな話の筋や結論を知っているだけに、何とか読みきることができたが、そうでないのならば、話の筋すら把握できないのではないだろうか。

歴史の資料文献として読むぶんにはいいが、小説として読むにはどうなんだろう、と思う。

広瀬隆 「東京に原発を!」「危険な話」

2011-03-20 17:29:06 | 書籍
チェルノブイリの原発事故をきっかけに盛り上がった反原発運動時に、その運動のバイブル的な存在の本であり、つまりは四半世紀も前の本になる。

改めて読み返してみると、すでに著者はこの時点で、今回の福島原発の事故を予言している。

地球温暖化などの環境問題などで、原発を取り巻く周りの状況は大きく変化してしまっているが、この本に書かれていることは、本質的には、今も何も変わっていない。
実際に事故が起こってしまった今となっては、既に手遅れかもしれないが、しかし、だからこそ、今、読み返してみる価値はあるかもしれない。

「城塞」 司馬遼太郎

2011-01-15 13:44:59 | 書籍
豊臣家滅亡の大阪の役を舞台とした小説。
司馬遼太郎の小説は、その主人公がわかりにくく、それでいて人物ではなく出来事を主役にしているのが司馬作品の特徴であるというのが持論であるが、この小説は、ある意味、その典型で、大阪の役を主役として、それに関わる人物を描いている。

ちなみに、一般的に、特に関西において徳川家康の印象は、あまりよくない。ずる賢い狸オヤジという印象が強いのであるが、それは、この大阪の役を起こすための卑怯卑劣なる数々の行状のためであるが、それがこの小説ではよくわかる。

「十一番目の志士」 司馬遼太郎

2010-12-26 12:25:55 | 書籍
司馬遼太郎の作品としては珍しく、主人公が架空の人物である。
主人公は架空の人物とはいえ、勝海舟や高杉晋作、近藤勇といった歴史上の人物は、多々、登場し、彼らの人物描写は、本当の彼らもかくあったであろう、と思わせるもので、そのあたりが、日本史上の出来事を数多く描いて国民的作家といわれた司馬さんならではだと思う。

ちなみに、司馬遼太郎の作品の主人公は、人間であることが少なく、たとえば関が原の合戦であるとか、たとえば大阪の役であるとか、たとえば日露戦争であるとかといった、出来事であることが多いと、個人的には思う。

さて、肝心の話は、正直、退屈ではないが、いまいち面白くなかったように思う。
せっかく幕末という激動の時代を舞台にしながら、その時代の面白さが内容に反映されていないように思う。