梅雨入りしてまもなく、栄子は2度目の帰宅をした。前回と同じく2泊3日である。タクシーで着いて、アパートの玄関から部屋の布団まで、宇八が抱きかかえていったが、何か空箱のような軽さであった。輪子が気力をなくしてしまっていたため、部屋があまり片付いていないのも、もう気にしなかった。二人が結婚した頃の話をしたがり、コロッケが食べたいと言った。一緒になった、1955年頃は本当に貧しかった。銭湯に行くおカ . . . 本文を読む
「雪舟はどう語られてきたか」という本は、1996年の橋本治から時代を遡って1908年没のフェノロサ(書物としての刊行年1921年のみを掲げ、文章の初出を示していないのはこの本の性格から言って極めて問題です)まで、雪舟について書かれたものを集めています。すごく簡単にまとめようとすれば表題に掲げた3人の文章を軸に考えればいいと思います。
まずフェノロサは何を言ったか。雪舟をレンブラントなどと比 . . . 本文を読む
○レオナルド・レオ・チェロ協奏曲集:鈴木秀美、赤津真言、オーケストラ“ファン・ヴァセナール”
レオナルド・レオ(1694-1744)は、A.スカルラッティの後継者としてナポリで活躍した作曲家だそうです。鈴木のチェロがいい味を出しています。
○ラーション偽装の神、田園組曲、ヴァイオリン協奏曲:エサ・ペッカ・サロネン、スウェーデン放送交響楽団
ラーション(1908-86)は、スウェーデンの作曲 . . . 本文を読む
ゴールデン・ウィークになった。入院患者には無関係なもののようだが、雰囲気が微妙に違う。自宅に帰る患者も多く、見舞い客も少なくない。しかし、家にも帰れず、訪れる者もいない患者と世間が休みでも働かなければならない看護婦たちの気持ちが病棟全体に漂い、どこか寂しげで不機嫌である。栄子もそういう気分に伝染したのか、夫と娘にわがままを言ったり、昔のことを話題にしたりした。輪子がむくリンゴに目を遣りながら、 . . . 本文を読む
クラシック音楽で歌詞をもたないものは多くの場合、題名がありません。シンフォニー第40番ト短調K.550とか弦楽四重奏曲第15番イ短調op.132いったもので、味も素っ気もありません。題名がついているものもご存知のようにありますが、「運命」とか「未完成」とか作曲家本人がつけたものでない場合も多く、しばしば評判が悪かったりします。一つには言葉にできないから作曲したんだという考え方があるんでしょう。 . . . 本文を読む