午後、腿になんかかる虎松。
おかあさんの腿に頭をおいて甘えていたら、狐様がおかあさんにいう。
「好きな猫の柄はなんでしたっけ?」
「え?特にないけど」おかあさんはキョトンとしている。
「あるでしょう、ほら」と狐様が去ると、ボクとおかあさんのそばに誰か来たんだ。
その子は、おかあさんに「おねえちゃん」と声をかけた。
「え??ミー?え?え?」過呼吸になりそうな、おかあさんの声。
いっとくけどね、ボク、結石でオヤツ食べれなくなったんだからね。
気づかいをして、ボクは寝たふりするからね。
心えて欲しいことがあるんだ、今はボクのおかあさんだからね。
ボクは静かに目を閉じた。
「ミーです。探したよ、おねぇちゃん」その子は少し寂しげな顔をしたが微笑んだ。
「えー…もー…」おかあさんは震えるような小声とともに、一気に泣き崩れて涙がボクの体にポタポタ落ちる。
「楽しかったね、ありがとう」ミーは、とても礼儀が良く凛とした顔で立っている。
「本当にミー!?ミー!ミー!嬉しいよぉ」おかあさんは声をあげて泣いてどうにもならない。
「泣かないで、泣かないで、ね、ありがとう」とミーは言う。
「ミー、楽しかったけど、私は子供だったし、大人になっても未熟だったから辛いことも、我慢させたことも、いっぱいあって…うー…ごめんね、ごめんね、ミー」
おかあさんは子供のように泣いてしまってボクの体は涙のどしゃぶりが降っている
「楽しかったよ、おねえちゃん」
「楽しかった、でも離れ離れで寂しかった」とボソッとおかあさんは下を向くと
「私も寂しかった…」ミーは静かに言った。
「ごめんね、ごめんね、本当に。寂しい思いをさせて、本当にごめん」
おかあさんは話すことが難しいほど泣いているけど、今、このミーを離したくない気持ちがボクにはすごく伝わってくる。
ミーも、それをわかっているようだが、そうたくさんの時間、この世界のいることはできないみたい。
「ね、おねえさん、猫の国があってね、そこに居るの。また来るから、泣かないで」ミーはニッコリして言う。
「うんうん、熊子が居たらここがわかるから。うんうん、また来る?一緒に此処に来てくれる?」
「うん。みつけたから。また来るわ、おねえちゃん」
また会えるか不安のおかあさんは、何度も何度もミーに尋ねては、ミーはウンウンと頷き、おかあさんが少し落ちつくと、ミーは笑顔で消えた。
ミーは、ずっと昔の猫で20年は生きたらしい。
おかあさんが、まだ子供の頃から居たようで、家から離れたおかあさんは家との繋がりが希薄で会うことを躊躇い、亡くなったことは伝えられたけれど、ミー自身は亡くなってから猫の国へ行き、こっちの世界を覗いたりしてボクのおかあさんを探していたらしい。
「15年以上…もっと昔に亡くなってから、ずっと探してくれたんだ…」ミーが消えた後、おかあさんは呟きまた泣きはじめた。
ボクは知らなかった、おかあさんが猫に好きな柄模様があるなんて。
ミーはブチ猫で、おかあさんが最も好む猫の柄らしいが、ボクたちと過ごす中で偏った気持ちはダメと自分に蓋をしたんだろうか、聞いたこともなかった。
涙のどしゃぶりになったボクのトラ柄の毛は好き?
ミーはそんなに別格だった?
おかあさんが、まだ、おかあさんになってない頃をボクは知らない。
おかあさんが、可愛がっていた子すべてをボクもボクたちも知らない。
おかあさんが泣きじゃくるほどに好きだったミーは、どんな妹だったんだろう。
おかあさん、ボクはスキ?
おかあさん、目を瞑ったままでいるから、涙でどしゃぶりになったボクのトラ柄の毛を拭いて。
このことは夢だったかもしれないよ。ボクも眠ってたし。
ね、だから早く泣きやんで。
※ 結石だいぶ良くなり中な今日のボクの毛繕い。