私の作業テーブルに春風が吹く。
来週あたり桜が満開になるのだろう。
ノートが捲れる、髪が乱れる、カーテンが遮光の役目を果たせず靡く。
そして春風は思い出をめくる。
日々の授業は退屈だった。
緊張感ある中で私語ができないという空間は大の苦手だった。
ある日、隣の机から消ゴムが床に落ち跳ねた。
私は拾い、持ち主と顔みあわせニッと笑い渡す。
持ち主はまた黒板の方を向くが、私は転がった消しゴムに笑いを堪えるに必死だった。
教科書とノートを立て制服の袖で顔を隠し、声を圧し殺し笑う。
だがノートを盾にしたとて肩が震えているので先生が直ぐに気づき注意を受ける。
ついでに宿題をしていない事がバレて私の頭は何らかでコンとこつかれる始末。
余談だが、宿題を一度もしたことがない(笑)
こつかれた後、ようやく先生によって私の笑いのスイッチが切られる。
退屈だった時間は割としょうもない事で笑い過ぎていく事が多々あった気がする。
当時、消しゴムに好きな人の名前を書いてカバーをし誰にも気づかれることなく使いきれると恋が叶うという噂がたった。
私は隣から転がった消しゴムを拾った際、ケースを外し男子の名前が書いているのを見たのである。意地悪いと思うだろうが、そうでもない。
少数で統廃合も無く、小中と過ごした私の学校は、大体みんな何処かで一度は同じクラスになるくらい世界は狭かった。
故に好きな人といっても限られ、好きな男子が被る女子は割といた。だから消ゴムを落とした持ち主も若干は恥ずかしそうにしていたが、大凡検討はつくので顔を見あわせニッと笑い、やっぱりね、具合な感じの軽い合図だった。
だが私は何故笑いが止まらなかったかというと、私の消ゴムにも同じ男子の名前がを書いていたのだった。誰も検討もしていなかったと思う。
好きだから書いたのではない、少数の世界を知り過ぎて好きな人もできなかった。
しかし「書けば恋が叶う」は本当説か知りたくて、未発達な私の頭は恋せず学年の限られた人の中から選んで書いてみたのである。
この話のオチは簡単で数日後、私が机からポロッと消ゴムを落としてしまい、落ちた近くの席の子が拾い見られてバレたのである。
そのとき拾った相手の顔が、嘘っ?!と顔を示した。
静かな授業中、嘘だよ、と返す表現が焦れば焦るほど嘘臭い。
結局、恥ずかしさと笑いに堪えかねて教科書とノートを盾にし袖を顔で隠し、肩を震わせる私は先生に気づかれ、頭に何らかコンが落とされ笑いのスイッチが切られたのだった。
若いとは箸が転がっても笑うというが、確かに今の私は笑うことは少なくなったし、笑わない日もある。
でも思い出はノートや教科書のなっていて春風が吹いた様に捲られる。
同じ場所、同じ頁を何度も捲られることもある。
そして若い時と等しく笑う。
過去だけでなく不意打ちされたかの様に瞬間(今)笑うことがある。
それも印象的であれば思い出ノートに記され、どこかで捲られることがあるのだろう。
作業テーブルの上にワンカップの空き瓶がある、使いかけの消ゴムが10以上詰まっている。
春風が吹いても、びくともしない。
今までに1つも消しゴムを使いきった事はない(笑)
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