僕の生まれ育った阿佐ヶ谷と言う町に、とても素敵な店がある。
最初に訪れてから、既に30年経つだろうか・・
但し、阿佐ヶ谷に行く機会が、ここ二十年ほど、多くないので、
悪いと3年に一回、良くて1年に一回ほどしか訪れる事が出来ていない。
そうなると、マスターは、訪れるたび僕の顔を見て、いぶかしげな表情を見せる。
その度に「ツルです」「ああ!つるちゃんかあ!」と言う会話が繰り返された。
何回前だろう・・
またもや2~3年、間をあけて、久しぶりに訪れた時だ・・
マスターが、僕の顔を見るなり、顔色を変えた。
何かまずい事でも前回やったか!
そんな事ではなかった・・
なんと、奥様が無くなられた、と言う・・
スタッフとしていつもお店にいて、素敵な笑顔の魅力溢れる女性が、奥様だと知ったのはいつだったろう・・
そして前回訪れた時、僕は自分のCDをお二人に差し上げたのだ。
奥様は、そのCDをとても気に入ってくれて、癌に冒され、入院しても、
ずっと最後まで、そのCDを聴いてくれていたそうだ。
そして・・・自分が死んだら、その葬儀で、ながして欲しいと言われたのだそうだ。
なんと表現したら良いのだろう・・
音楽家としては、冥利に尽きるのかもしれない・・
でも、とても悲しい。
音楽の意味とは何なのだろう。
気に入った!
と言ってくれることもなく、逝ってしまった彼女に対し、
僕は生きている限り、真摯に、音楽を作り続けて行く事でしか感謝を表せない。