草むしりしながら

読書・料理・野菜つくりなど日々の想いをしたためます

草むしりの「ジャングル=ブック」2

2019-04-28 12:34:18 | 草むしりの「ジャングル=ブック」
草むしりの「ジャングル=ブック」2
「山神様」

 如何でしたか、「ジャングル=ブック」。
 シア・カーンって、意外とおまぬけな奴だと思いませんか。雄二はシア・カーンよりも猟師のブルデオが嫌いなようです。「この、ブルデオめぇ」などと言いながら、挿絵の中のブルデオをバンバン叩いていました。

「おいおい、雄二……」
まったく、ユニークな奴だ。よくそんな事考えつくものだ。でも正直に言うと、悪いのはブルデオだと僕も思った。

「まああ」お祖母ちゃんは困った顔をして雄二を見ている。
 これ以上叩くと本が壊れてしまう。止めなよ、雄二。この「少年少女世界の名作文学」ていう本はお祖母ちゃんが子どもの時に読んでいた、大切な本なんだから。もうかなり古くなって、あちこちにシミがついたりしているけど、子どもだったお祖母ちゃんが、何度も読み返したみたいだよ。

 お祖母ちゃんが子どもの時に、お祖母ちゃんのお父さん。つまり僕たちの曾お爺さんが、毎月一冊ずつ買ってたれたものだって。いつかお祖母ちゃん言っていたじゃないか。曾お爺さんはこの本にために、二階の子ども部屋を板張りにして二段ベッドを買い入れ、押入れをつぶして作り付けの本棚にしてしまったってね。

本棚の中には今でもこの本の全シリーズが、ずらりと並んでいる。

「本が壊れちゃたら、読んでもらえなくなるよ」
雄二はやっとブルデオを叩くのを止めた。
 
 翌日の朝早く、僕は小太郎に起こされた。気持ちよく寝ていたら、急に湿った冷たいものが顔に触って、驚いて目を覚ました。小太郎は僕が目を覚ましたのを確かめると、今度は雄二の所にいった。雄二の顔をペロペロ舐めると、耳元でゴロゴロ喉を鳴らし始めた。ふん、僕とは起こし方まで違うじゃないか。

「えっ、行ってみようか」
 雄二は飛び起きて、そのまま部屋の外に出て行ってしまった。あいつら会話している。布団の中で僕は雄二と小太郎を見送った。
「僕は誘ってくれないかよ」
仕方が無いからまた寝ようかと目をつぶったら、小太郎が引き返してきた。大急ぎで僕の所に来て、蒲団からはみ出した僕の足にガブリと噛みついた。
「何するんだよ。血が出るじゃないか」
すると小太郎は僕を見て「ニャー」と、ひと声鳴いた。

「何かあったのだろか……」
僕は蒲団から飛び出して、小太郎の後を追いかけた。

 昨日の夕暮れから降り始めた雨が、明け方まで降っていたようだ。ミルクをながしたような濃い霧が立ち込め、水嵩の増した谷川がゴウゴウと音を立てて流れている。空はまだどんよりと曇っていた。

 目を凝らすと、裏山の入り口にある竹林の中に人がいる、お祖父ちゃんのようだ。竹林の周りには猪や鹿をよける網が張り巡らされている。お祖父ちゃんはいったいどうしたのだろうか。

「なんだ、お前たち。起きたのか」
「どうしたの、お祖父ちゃん。今朝は筍掘らないの」
「中に入っておいで」
僕たちは網に引っかからないように注意して、竹林の中に入って行った。
 猪の仕業だろうか。地面がボコボコに掘り返され、無残に食い散らかされた筍があちこちに散らばっていた。家のすぐ裏まで猪が出るなんて。雨上がりの湿気た地面から、今まで嗅いだことの無い動物の匂いがした。
 
「やられたよ」
 お祖父ちゃんが穴の開いた網を指さして言った。猪が網を食い破って中に入って来たそうだ。猪がその気になれば、こんな網、簡単に食い破ることができるんだ。僕はこの春先、お祖父ちゃんと一緒に竹林の周りに網を張ったことを思い出した。

 穴の開いた網を見ながら僕は「ジャングル=ブック」と同じだと僕は思った。
「知らない間にジャングルの神様を怒らせた」
お坊さんが言った言葉を思い出した。ぼくたちも知らない間に山の神様を怒らせたのだろうか。

 何かいるのだろうか。総毛立った小太郎が、深く立ち込めた霧の向こうに向かって低く唸り出した。雄二が僕の手をそっと握って来た。僕は雄二の手を強く握り返し、霧の中を覗き込んだ。真っ白で見えない。

「来年はもっと丈夫な網張るからな。二人とも手伝ってくれるか」
お祖父ちゃんの言葉に僕たちは頷いた。
 雲の隙間からお日さまの光が差し込んできた。すぐに霧も晴れるだろう。僕は固く握りしめた雄二の手を放した。逆立った小太郎の毛も、元に戻ってきた。

「さあ、朝ごはんにしよう」
僕たちは網に引っかからないように用心しながら、竹林の外に出た。

 明日からいとこたちが泊まりにきます。祖母ちゃんも本を読んでくれそうにありません。ちょっとつまらないけど、皆で鯉のぼりの下で柏餅を食べる約束したので、それも楽しみです。

 祖母ちゃんも大忙しなので、五月六日まで草むしりブログはお休みします。
次回五月七日より「ジャングル=ブック」の連載を再開します。モーグリの今度の敵は最強です。さてモーグリはどうやって戦うのでしょうか。ご期待下さい。

それではみなさん「獲物がどっさり」

草むしりの「ジャングル=ブック」1

2019-04-22 13:55:52 | 草むしりの「ジャングル=ブック」
草むしりの「ジャングル=ブック」1
ジャングルの合言葉

「獲物がどっさり」
祖母ちゃんが僕と弟の雄二に言った。
「獲物がどっさり」
僕たちは祖母ちゃんに答えた。
「獲物がどっさり」はジャングルの合言葉だ。

昨日「ジャングル=ブック」どうだった。僕は夜寝る前に祖母ちゃんに読んでもらったんだ。もちろんあらすじじゃないよ。カアとサルたち、あの後どうなったのかな。

祖母ちゃん聞いたら「さあねぇ」って首をかしげていたよ。僕は仕方が無いから、自分でお話の続きを考えていたんだ。

「ああ、僕もモーグリは見たいに動物と話が出来るようになりたいなぁ」
僕の頭の中はもうモーグリのことでいっぱいだった。

「お兄ちゃん。見て、見て」
空想の世界を彷徨っていた僕は、雄二の声で現実に引き戻された。

 雄二が小太郎を抱いて、こっちにやってきた。小太郎とは祖母ちゃんの飼っている猫の名前で、普段は祖父ちゃんと祖母ちゃんと一緒に、この家に住んでいる。僕は金曜の夜から雄二と一緒に泊まりに来ているだけなんだ。

 小太郎は雄の白猫で、顔なんかソフトボールの球くらいあるし、体も大きければ尻尾だって長い。五歳にしては小柄な雄二が抱えていると言うより、小太郎が雄二にしがみついているって感じだ。

 まったくあいつらは仲がいい。雄二が赤ん坊の頃、祖父ちゃんがまだ眼の開かない小太郎を拾って来てからの付き合いだ。赤ちゃん用のミルクと子猫用のミルクを一緒に飲んだ仲で、雄二に何をされても決して小太郎は怒らない。僕が尻尾を間違えてちょっと踏んだら、怒って噛みついたくせに。

「ああ、重かった」
雄二は小太郎を降ろすと、大げさな顔をして言った。それから人指し指をピンと立てて小太郎の鼻先に持って行った。そして真面目くさった顔をして「ニャー」と鳴いた。

 するとどうだ、小太郎が雄二の指先に鼻をコッツンさせ「ニャー」と鳴いた。
「獲物がどっさり」雄二はどや顔で呟いた。するとまた小太郎が「ニャー」と鳴いた。
 「お前たち話せるのか……」

 嘘だろう。よし僕もやってみよう。しかし小太郎じゃなぁ。僕にも兄としてのプライドがある。そこで僕は防火水槽の中にいる、ウシガエルのオタマジャクシで試してみた。

 雄二の真似をして、人指し指を立てて頭の中で何度も念じた。
「獲物がどっさり」「獲物がどっさり」
僕は大きく深呼吸するとウシガエルの鳴き声をまねして鳴いてみた。
「モー、モー」
水面に浮かんでいたオタマジャクシは、驚いて水の中にもぐってしまった。

 やっぱりダメか。僕は力を落として家に戻って行った。
「なんだこれ」
玄関の前の敷石の上に、何かがピクピクと跳ねている。トカゲの尻尾のようだ。
「尻尾って切れても動くんだ」尻尾の生命力、そんなものに感心してしまった。
「こんなことをするのは……」
やっぱり小太郎だ。どうやらトカゲに逃げられたようだ。ドジな奴だ。
名前を呼ぶとすぐにやって来た。

 僕は小太郎の目を見ながら、頭の中で念じた。「獲物がどっさり」「獲物がどっさり」と
そして人差し指を立て、小太郎の鼻先に持って行き「ニャー」と鳴いた。
すると小太郎は僕の人差し指に鼻先をコッツンコして鳴いた。
「カンヅメー」
確かに小太郎が鳴いた。

「分かったよ、祖母ちゃんには内緒だからな」
僕は缶詰の蓋をパカッと開けた。小太郎は美味しろうに缶詰を食べながら、長い尻尾をクネクネと振った。
 
あっ、お父さんが迎えに来た。祖母ちゃん今度は連休に来るからね。また続き読んでね。
 
それでは皆さん「獲物がどっさり」