取り(鳥)込む
姉の家は同じ敷地内にある。家が新しいからだろうか、この頃私の飼い猫のハナコは、姉の家に入り浸っている。その朝ハナコは、姉の毛布の上にゲボをしたと言う。ハナコにすれば姉の方が新参者なのだろう。使っているパソコンの上を占領したり、下っ腹に噛みついたりと、姉の家ではやりたい放題ある。
しかし毛布の上にゲボとは困ったものだ。飼い主として悪いとは思いながらも、ここは黙ってやり過ごすしかない。気まずい雰囲気の中で、二人で朝ドラなどを見ていた。「この妹役の子役、うまいね」などと話題を微妙にそらしながら……。
そこにトントンと階段を下りる音がして、当のハナコが2階から降りて来た。姉の手前ひとこと言わなければ。ハナコを見ると、何かを咥えている。
「ネズミ」と思った瞬間だった。口の開いたままの私のバックの中に、咥えていた物をポイと放り込んでしまった。普段だったらネズミを見ただけで大騒ぎするのだが、今度ばかりは姉と二人で手を叩いて大笑いをしてしまった。おかげで先程までの気まずい雰囲気も消えてしまった。
毛布にゲボとバックにネズミ。お互いに恨みっこ無しの痛み分け。それにしてもなんて空気の読める猫だ。しばらくは感心していた。
しかし毛布にゲボは洗えば済むが、バックにネズミは洗っても済まされない。しかもバックはくたびれてはいるが私のお気に入りのヴィトンだ。捨てるには惜しいし、使うのは気持ちが悪い。
とんでもないことをしてくれたものだ。家に常備しているネズミ専用の火箸を持って、恐る恐るバックの中を捜したが、ネズミなど入っていなかった。
おかしい、さっき確かに放り込んだのを見たのに……。辺りを見回す私の目の前を、スズメがさっと飛び立ち、ハナコが後を追いかけて行った。なんだ、鳥だったのか。ネズミでなくてよかった。
それにしても朝からバックに鳥が入るとは、縁起がいい。取り(鳥)込む。お金がどんどん儲かりそうだ。ありがとうね、ハナコ。その日は朝から気分が良かった。