0003_山の奥の裂けた入口
--山の奥の裂けた入口--
デミュクは、森を奥へ奥へ進む。
もう、進む足元に道はない。
元々、人は立ち入らない。(人ではなく悪魔だが)
草が腰まで伸びている。
デミュクを探す追手(おって)の声は、遠(とお)のいていく。
山へ山の火口へ。
ふと周りを見る。
(そうだ、子供の時、入って怒られたっけ)
(何の木だろうか?
ブナの木?
何千年?万年か?
老齢に曲がりくねった幹。
だが、上部には葉が生い茂っている。
そこにいつまでいるのだろう?)
棘(とげ)をもつ蔓(つる)が巻き付いている。
(靴を履いていて良かった)
手や体は、擦(す)り傷だらけになる。
疲れた。
木の曲がって空いた幹の隙間に蹲(うずくま)って座り込む。
静かにしていれば、やり過ごせる。
でも、人界への入口はどこにあるのだろう?
暗い。
追手の声は、聞こえない。
疲労で瞼(まぶた)が重い。
眠ってはいけない。
(いけない。 い けなぃ)
デミュクは、眠気に負けた。
眠りにつく。
はっと!目覚(めざ)める。
月に替(か)わり、
青い光を放つ金環食の太陽がでている。
悪魔の世界の太陽である。
月と同様、太陽の真ん中を黒い影が覆(おお)っている。
人間界の地球の影なのか?
茂(しげ)みがざわつく。
黙り込んでいるものが静かに手探りして茂みの中を歩いている。
甲冑(かっちゅう)の音がする。
デミュクは、口を押えた。
気配を消した。
「白(しら)みつくしに探せ。
いないぞ。見つけ出さねばならない。
我々の命がかかっている」
話し声が聞こえる。
(追手だ)
静かに進む。
「バキィ」
枝を踏んだ。
「いるぞ!向こうから音がした」
デミュクは、走りだす。
「ザザァザァザ」
「あそこだ!あそこだ!」
追手に完全に見つかった。
追手は、甲冑で重い。動きが鈍い。
だが、デミュクは、素である。
森は、障害で覆(おお)われている。
茂みをかき分けるが思うように進めない。
棘(とげ)が痛い。
しかし、必死でかき分け進む。
追いつ追われつ、暫く時間が経過した。
辺りが暗い。
「まだ昼?」と言うのに。
(本当に昼か?)
山のどこかも分からない。
(木々が光を遮(さえぎ)っているのか?)
ついに追い詰められる。
周りを追手が囲(かこ)む。
「もう。逃げられないぞ。
観念(かんねん)しろ」
(囲まれた)
「殺すようにいわれたよな。
そう、面倒だ」
一斉(いっせい)に追手が槍(やり)を投げる。
数本の槍が飛んでくる。
デミュクは両腕(りょううで)を顔の前にかざして防御する。
顔に向かう槍は防ぐことが出来た。
「グサ」
だが、左腹(はら)に一本の槍が刺さった。
「うぅ」
デミュクは、槍を掴(つか)み傷口を抑(おさ)えた。
手に血が滲(にじ)む。
そして、何かが口をついて出る。静かに呟(つぶや)く。
「ゴンドリヤ。イゲ。オフマイワーゲデ」
(何の意味?)
デミュクの血筋につたわる悪魔の古い言葉。
無意識にでた言葉だ。
意味は、分からない。
(支配されている。誰かに?)
『窮地(きゅうち)に至(いた)った時に唱えなさい』とおばあ様に幼少時に教わった気がする。
おばあ様は、死んだの?
悪魔に寿命はあるの?
今は、そんなことを考えてる余裕はない。
そして、血の付いた指で十字を切る。
『開こーぞ』
天空から声が響いた。
足元に裂(さ)け目が現れる。
「ガガァガァ」
追手は、恐れおののき慌(あわ)てて後ずさる。
裂(さ)け目の底は、黒い黒い。暗黒である。
裂け目の壁は、岩肌にどす茶色の土と白い石が剥(む)き出しである。
良く底を見ると何かが渦(うず)を巻いていた。
(吸い込まれそうである)
デミュクは、裂け目の上、宙に浮いていた。
そして、意を決して飛び込む。
それは、簡単な事だった。
力を抜くだけで良かった。
体が吸い込まれ落ちて行く。
暗い。明かりが無くなる。
そして、空気が薄くなる。
(息がしにくい)
何かが体を通り抜ける。
暗いが木の香りがする。
目に風景がひらけてくる。
月が見える。
まん丸く光った月。
足の下に地面を感じる。
(森!人間界?
満光(まんこう)の月。
でもなぜか同じ!
同じ森。
でも、追手がいない)
(灯りが見える)
(助けを求めるべきか?)
ふらふら、足は、進む。
血が滲(にじ)んでいた。
森の向こうに畑が見える。
民家の灯(あか)りが見える。
(意識が、出血のせいぃぃ ぃ)
膝(ひざ)からゆっくり崩(くず)れて行く。
森の外(はず)れで気を失った。
つづく。 次回(初めて見る人の女)話名は、変わるかも知れません。ご容赦ください。
次回は、第Ⅱ章。「現れし古に伝わりし指輪」です。
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