第Ⅱ章。「現れし古に伝わりし指輪」14話、領主の息子マルミニ①「~失望と愛~導かれし悪魔の未都市。」0017
17、領主の息子マルミニ①。
デミュクと執事シュシャンは、食事処の2階で休んでいた。
日も少し暮れだし、
これからの事を考えている間に、いつの間にか2人は寝ていた。
ふと気が付くと、下が#賑__にぎ__#やかなので『はっと』して2人は起き上がる。
もう、夜もふけって辺りは真っ暗になっていた。
丸い光を放つ月が見える。
「お腹がすいたね」
「下で何かを食べますか?」
「そうしよう」
2人は、夕食を食べに1階に降りていくことにした。
1階のフロァーに、#女将__おかみ__#が忙しく動いている。
デミュクは、女将を呼び止めた。
「女将さん。
忙しいところすみません。
領主の息子マルミニさんは、来ましたか?」
「まだだね。
夜中。夜中。
まだ、早いよ。
ちょうどいい。
そうそう。
夕食でも食べておゆき」
「えぇ。いただきます」
「奥の席に座るといいよ。
フロァー全体を見渡せるからね」
「ありがとう」
2人は、奥の4人掛けの席に向かい合って座った。
「何を食べますか?」
執事シュシャンは、デミュクに問いかける。
デミュクは、メニューを手に取り開いた。
「パンでも食べてみますか?」
シュシャンは#冗談交__じょうだんま__#じり言った。
悪魔は、普通は悪魔の世界にある特別な食べ物以外の食事をしない。
「ところでシュシャン。
人の食事をしていると体の組織が変化したりするのかな?」
デミュクは、ある意味、人間になりたいと思い始めていた。
悪魔の王家のしがらみから抜け出し、
追われる身を捨て自由になりたかったからである。
「私は、妖精の一族なのでよくわかりません。
ただ、私の経験では、心は、体に影響を与え、
体は、心に影響を与えます。
いい方向に向くと良い。
そうですとも」
執事シュシャンは、自身にも暗示をかけた。
デミュクは、ふと頭に将来のことを思い浮かべる。
「パンを食べてみますか?
そしておかずはシチューにしましょう。
何か肉が入ったものを食べましょう」
執事シュシャンは、迷いを吹っ切るようにデミュクに話す。
「そう言えば、海に近いって言ってましたね。
そうそうシチューに魚を入れてもらいましょう」
執事シュシャンは、陽気に言う。
「#女将__おかみ__#。シチューに何か魚を入れて、それとパンをお願いします」
デミュクは、大きな声を出した。
別に、怒っているわけではない。
ただ、これから起こることの決意の表れである。
「ぐっう。
アオジャミのシチュー」
女将は、デミュクに負けないくらい大きな声を出した。
手を出し、デミュクに#合図__あいず__#する。
少し待って女将がパンとシチューを運んで来た。
シチューは、よく出るのかもしれない。
直ぐに運ばれてきた。
「ありがとう」
デミュクは、笑顔をみせた。
「そんな顔を見せると#惚__ほ__#れちまうじゃないか。
#旦那__だんな__#さん」
女将は、少し#嬉__うれ__#しくなった。
デミュクは、パンをちぎりシチューにつけて口に運んだ。
(味がしない)
執事シュシャンも口に運んだ。
「なかなかな#美味__おい__#しいですよ」
「俺には、味がしないんだよ」
「そうですか。そうですよね」
シュシャンは、悪魔の味覚は違うことを思い出した。
「シュシャンは、悪魔の食べ物をどう思ってたの?」
「いつも、妖精の家に帰って食事していましたので、
すみません。
わかりません」
「なるほどね」
デミュクは、やっと気づいた。
シュシャンは、悪魔ではないのである。
「妖精の家には、畑があるのですか?」
「内緒です。
すみません」
デミュクは、今まで執事のことなど考えたことがなかった。
しかし、今は自分が特別であったことを思い知らせれつつある。
出てきたシチューは、#赤黒__あかぐろ__#かった。
ホワイトシチューではなかったのである。
パンは#硬__かた__#いがシチューにつけるにはちょうどいい。
「なぜ、悪魔に味覚はないのだろう」
デミュクは、ふとそのことに興味を持った。
#注釈__ちゅうしゃく__#すると悪魔に味覚が無い訳ではない。
インクの味と言うか舌が特別なのである。
太陽と月の光が違うからである。
悪魔が味に欲望を#注__そそ__#ぎ神の#真似__まね__#をしないようにである。
食欲と性欲は関連性があるという人もいる。
創造主は、そのことが地位の欲望に#繋__つな__#がると考えた。
だが人の心とは、そんなに単純ではない。
この場合、悪魔だが。
地位に欲望を持つ者は現れる。
『#世在民__せざいみん__#。#世在王__せざいおう__#』である。
世の中には民がいて、王が#在__あ__#るものである。
「それは、神の祝福ですよ。
きっと」
執事シュシャンは、本気でそう考えていた。
シュシャンの主人は悪魔のデミュクである。
それは、動かせない事実である。
デミュクは、一心に食べる努力をした。
しかし、4分の1を食べたところで音をあげた。
魚。たぶん、『アオジャミ』と言ったと思う。
皮が青かった。
やっぱり、味がしなかった。
魚のぶつ切りがふんだんに入っていた。
執事シュシャンは、その残りを残さず平らげた。
「#女将__おかみ__#。お酒を」
お酒は、なぜか酔えた。
その部分は、あまり人間の脳のつくりと変わらないかもしれない。
真夜中近くになり、ついに待ち人が来た。
「#旦那__だんな__#。領主の息子マルミニだよ」
女将は、小声でデミュクに告げた。
デミュクは、急に目が覚めた。
そして、意思の力で酔いを#振__ふ__#り切った。
「女将。酒だ。
今日は、勝負に負けた。
やめだ。やめだ。
酒をくれ」
マルミニが大声を出しながら入ってきた。
つづく。次回(領主の息子マルミニ②)
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