昨日は日本古典文学大系8の「古今和歌集」春歌(下)から紀貫之



古今 春歌115
しがの山ごえに女のおほくあへりけるによみてつかわしける つらゆき
梓弓(あづさゆみ)春の山邊をきえくれば 道もさりあえず花ぞちりける
梓弓 春の枕詞(弓をはるの意味で言いかけた)
古今 春歌116
勘平御時記載の宮の歌合の歌
春の野にわかなつまんとこし物を ちりかふ花に道はまどいぬ
古今 春歌117
山でらにまうでたりけるによめる
やどりして春の山邊のねたる夜は 夢のうちにも花ぞちりける
古今 春歌118
勘平御時記載の宮の歌合の歌
吹く風と谷の水となかりせば み山がくれの花をみましや
古今 春歌124
よしのがはの邊(ほとり)に山ぶきのさけりけるをよめる つらゆき
吉野河岸の山吹ふく風に そこの影さへうつろひにけり
古今 春歌128
やよひに、うぐひすのこゑのひさしうきこえざりけるをよめる つらゆき
なきとむる花しなければ 鶯もはてはものうくなりぬべらなり



「古今和歌集」春歌(上)11
やまとうたは、ひとのこゝろをたねとして、よろづのことの葉とぞなれりける。世中にある人、ことわざしげきものなれば、心におもふことを、見るもの、きくものにつけて、いひいだせるなり。花になくうぐひす、みづにすむかはづのこゑをきけば、いきとしいけるもの、いづれかうたをよまざりける。ちからをもいれずして、あめつちをうごかし、めに見えぬ鬼神をも、あはれとおもはせ、お(を)とこ女のなかをもやはらげ、たけきものゝふのこゝろをもなぐさむるは、歌なり。
ふるとしに春たちける日よめる
袖ひぢてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ 紀貫之 古今和歌集 春歌 二番
雪のふりけるをよめる
霞たちこのめもはるの雪ふれば花なき里も花ぞ散りける 古今和歌集 春歌 九番
歌奉れとおほせられし時、よみて奉れる
春日野の若菜つみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ つらゆき 古今和歌集 春歌 二十二番
歌たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる
わがせこが衣はるさめふるごとに野辺のみどりぞ色まさりける つらゆき 古今和歌集 春歌 二十五番
歌たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる
青柳の糸よりかくる春しもぞみだれて花のほころびにける つらゆき 古今和歌集 春歌 二十六番
古今 春歌39
くらぶ山にてよめる つらゆき
梅花にほふ春べは くらぶ山やみにこゆれど しるくぞありける
古今 春歌42
はつせにまうづるごとに、やどりける人の家に、ひさしくやどらで、程へて後にいたれりければ、かの家のあるじ、かくさだかになむやどりはあると、いひいだして侍りければ、そこにたてりける梅の花ををりてよめる つらゆき
ひとはいさ心もしらず ふるさとは 花ぞむかしのかににほひける
古今 春歌45
家にありける梅の花のちりけるをよめる つらゆき
くるとあくとめかれぬ物を 梅花 いつの人まにうつろひぬらん
古今 春歌49
人の家にうえたるさくらの、花さきはじめたりけるをみてよめる つらゆき
ことしより春しりそむる櫻花 ちるといふ事はならはざらなん
古今 春歌58
お(を)れるさくらをよめる
たれしかもとめてお(を)りるる 春霞立ちかくすらん山のさくらを
古今 春歌59
歌たてまつれとおほせられし時によみたてまつれる
桜花さきにけらしもあしひきの山のかひよりみゆる白雲



「古今和歌集」春歌(下)
古今 春歌78
あひしれりける人のまうできて、かへりにけるのち
に、よみて花にさしてつかはしける つらゆき
ひとめみしきみもやくると さくら花けふはまちみて ちらばちら南
古今 春歌82
さくらの花のとりけるををよみける つらゆき
ことならばさかずやはあらぬ さくら花 みる我さへにしづ心なし
古今 春歌83
さくらのごと、とくちる物はなしと人のいひければ
よめる
櫻花とくちりぬともおもほえず 人の心ぞ風もふきあへぬ
古今 春歌87
ひえにのぼりて、かへりもうできてよめる つらゆき
山たかみ見つゝわがこしさくら花 風は心にまかすべらなり
古今 春歌89
亭子院歌合歌 つらゆき
さくら花ちるぬるかぜのなごりには 水なきそらに浪ぞたちける
古今 春歌115
しがの山ごえに女のおほくあへりけるによみてつかわしける つらゆき
梓弓(あづさゆみ)春の山邊をきえくれば 道もさりあえず花ぞちりける
古今 春歌116
勘平御時記載の宮の歌合の歌
春の野にわかなつまんとこし物を ちりかふ花に道はまどいぬ
古今 春歌117
山でらにまうでたりけるによめる
やどりして春の山邊のねたる夜は 夢のうちにも花ぞちりける
古今 春歌118
勘平御時記載の宮の歌合の歌
吹く風と谷の水となかりせば み山がくれの花をみましや
古今 春歌124
よしのがはの邊(ほとり)に山ぶきのさけりけるをよめる つらゆき
吉野河岸の山吹ふく風に そこの影さへうつろひにけり
古今 春歌128
やよひに、うぐひすのこゑのひさしうきこえざりけるをよめる つらゆき
なきとむる花しなければ 鶯もはてはものうくなりぬべらなり



「古今和歌集」春歌(下)の紀貫之の最後は次の歌でございました。
せつないですねぇ……。
なきとむる花しなければ 鶯もはてはものうくなりぬべらなり
間違いやお気づきの点がございましたら、教えていただければ嬉しいです。
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