「付 信太妻」
以前にも読んだ『説経節』(東洋文庫)より「付 信太妻」を読む。
【恋しくば 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉】
以前読んだ時の記録はこちら ↓
説経節』(東洋文庫)より「付 信太妻」 樟の葉と恋に陥った安倍保名の本名は、安倍権太左衛門保名。子は、安倍晴明。
「信太妻」と云えば、歌舞伎で言うならば、『葛の葉』
この演目もわたくしは好きで、色々な役者でさんのを見たし、説経節の「信太妻」の動画も見たことがあるが、中でも中村扇雀さんの『葛の葉』は感動に値した。
ところで今回「付 信太妻」を読み、新たな発見をした。
恋しくば
尋ね来てみよ
和泉なる
信太の森の
うらみ葛の葉
この歌は、葛の葉が子をあやしながら、障子に文字を書く。
子(後の安倍晴明という設定)がぐずるので
あやす
左手で書く
口に筆をもって書く
後ろ向きに書く
などの趣向を凝らされてはいるが人形浄瑠璃や説経節では、子は布団に寝かされたまま、葛の葉が障子に右手で書くというといった形になっている。
恋しくば
尋ね来てみよ
和泉なる
信太の森の
うらみ葛の葉
説経節の「付 信太妻」を書く前に、それをにおわす記述が丁寧に書かれている。
恋しくば
尋ね来てみよ
和泉なる
信太の森の
うらみ葛の葉
この部分は柳田國男をはじめ、多くの民俗学者が注目し論じている所である。
概ね共通している所は
葛の葉が狐たる理由(信太の背景)
(ここでは割愛させていただきます)
うらみ葛の葉
うらみ = 裏見(うらみ)
恨み
うらみ葛の葉
うらみ = 裏見(うらみ)
クズの葉の後ろを見れば、クズの葉の裏には白い毛が生えている。
つまり、クズの葉の裏は狐(葛の葉=自分自身)に見立てられている。
このように考えれば、
恋しくば
尋ね来てみよ
和泉なる
信太の森の
うらみ葛の葉
は切なく悲しい。
涙を呑んで別れゆく葛の葉の気持ちが伝わってくるのである。