79: 『安部公房とわたし 山口果林』
山口果林著
講談社
2013年8月
253P 1,575円
【目次】
プロローグ
第一章 安部公房との出会い
第二章 女優と作家
第三章 女優になるまで
第四章 安部公房との暮らし
第五章 癌告知、そして
第六章 没後の生活
エピローグ
今年八月に出版された『安部公房とわたし』だが、遅ればせながら、本日読了。
本を読み始めてまず驚いた事は、本書文中の名詞の多さ。彼女の文に馴れるまでに一苦労し、また、最後まで読めるかどうかが不安になった。
この本を読むのは、多少の苦痛を伴った。
避難はしない。だが、同情も出来ない。
安部公房スタジオ時代から噂は大学構内にも流れていた。安部公房の死後二十年がたった今、本書が出版された複雑な気持ちは拭えない。
とはいえ、この本が出たからと言って、安部公房作品に何ら影響はない。安部公房は安部公房であり、作品は作品である。
ただ、今は、大津西武劇場最後列立ち見で目頭を上げ鋭い視線で舞台を見入っていた安部公房。そしてレモンティを飲みながら尻を下げて話して下さった一個の人間及び作家演出家としての安部公房のやさしさを思い浮かべる。ささやかな時間だが大津西武で知る安部公房と『安部公房とわたし』と重ね合わせるわたくしがいる。
わたくしは十代から才女である公房夫人の安部真知さんの存在と作品に魅力を感じ、憧れていた。
同時に山口果林さんという女優は気品に満ちた底力のある女優と感じてはいた。だが、無意識にではあろうが、ほとんどのドラマを見る機会を失った。
わたくし事を申すなら、安部公房の作品の面白さにひかれ始めた高校一年から考えて、ウン十年。
わたくし自身学生から妻となる。正夫人と愛人に対しての考え方は当然以前に比べ大きく変化した。
安部公房の支えとなった素晴らしい女性及び女優、山口果林という一個人一女性としては評価に値する。
だが、今やわたくし、夫一筋の専業主婦という立場。婦人サイドからものごとをとらえてしまうことはお許し願いたい。
本書に描かれたくない、また必要もないと思われる部分が載せられていた事については物悲しい。
散骨当時の彼女の考え方には問題はないと思う。だが、その後の自分本位で無責任な気持ちの収め方は果たして公にしても良いものだろうか。遺族や安部公房自身は納得出来るのか。せめて力尽きに間はその地に訪れて頂きたいと願うのは,わたくしだけか。せめて胸に秘めておいて欲しかった。
性格等は、長年思い描いて来た安部公房に近い状態なので、安堵した。
また本を開くと安部公房の文字そのもの。山口果林という名が出きるまでの安部公房の愛と工夫と人柄を感じ、ほくそ笑む。
その無邪気な一面を持つ安部公房氏が本書出版を知ったならば、どのように考えるのだろうと考え込んでしまい、後味の悪さを感じながら本を閉じた。
みなさま、おつきあい下さいましてありがとうございます。
感謝申し上げます。