酪農家苦しめる飼料高騰、燃料・光熱費との「三重苦」…乳牛メーカーが支援する動きも
2023/05/16 05:00
コロナ禍での生乳余りやロシアのウクライナ侵略による飼料価格の高騰で、乳牛農家が苦境に立たされている。全国有数の酪農地の県内でも、輸入飼料を代替品に置き換えるなど、農家は苦渋の決断を余儀なくされた。そんな中、地元乳業メーカーなどが主導し、加工品の開発などで牛乳の消費拡大を図る動きもある。(吉原裕之介、広瀬航太郎)
経費1.5倍に
「飼料、燃料、光熱費が一気に値上がりしたのは初めて。経験のない『三重苦』だ」。葛巻町で30年以上にわたって酪農を営む 中六角保広なかろっかくやすひろ さん(55)は険しい表情を浮かべる。
約100頭の乳牛を育てる中六角さんの牧場では、1か月で約7トンの乾草を与えてきた。だが、ウクライナ侵略などの影響で、安価で豊富なカロリーを摂取できる輸入飼料の価格が急騰。昨年1年間の飼料代は、前年から約450万円増えた。苦渋の決断として、昨夏頃から乾草の量を月約4トンに減らし、「粗飼料」と呼ばれる青刈りのトウモロコシなどに置き換えている。
トラクターの燃料代や光熱費も含めると、年間経費は1・5倍に膨れあがったが、「酪農は命を育む産業。どんな状況でも最低限の飼料は確保しなければ」と中六角さんは語気を強める。
農林水産省のまとめによると、県内の乳牛農家数は765戸(2022年時点)で、北海道についで全国2番目に多い。産出額も4位の264億円(20年)を誇る。個人や家族の小規模農家が多く、丁寧な飼育管理ができる反面、物価高などの影響を受けやすいという。2021~22年には41軒の飼育農家が廃業した。
国は生乳の生産抑制を目的に、乳量が少ない乳牛を処分した場合、1頭で15万円を交付する異例の緊急支援を打ち出した。だが、中六角さんは「減産を前提とするのではなく、需要がコロナ前の水準に戻るよう支援してほしい」と求める。
支援広がる
こうした状況を受け、乳業メーカーが酪農家に支援金を贈ったり、牛乳を加工品として活用したりする動きが広がっている。
西和賀町の乳業メーカー「湯田牛乳公社」は昨年7~10月、飼料高騰に苦しむ町内の酪農家など14軒に金銭援助を行った。「岩泉ホールディングス」(岩泉町)も今年2月、町内16軒の酪農家に計160万円の支援金と、地元の木工職人が彫った縁起物のフクロウの置物を贈った。同社の担当者は「地域の酪農家は我々に欠かせない存在。継続的に支援し、ともに厳しい状況を乗り越えたい」と語る。
一般社団法人「世界遺産平泉・一関DMO」は、コロナ禍による牛乳余りを解消しようと、「不二家乳業」(一関市)から提供を受けた一関市、平泉町産の牛乳と、トウモロコシを組み合わせたご当地ジェラートの販売を1月に始めた。同市のふるさと納税返礼品としても提供している。同法人の担当者は「地元の牛乳を加工品として全国の人に味わってもらうことで、少しでも酪農家の力になれればうれしい」と話している。
https://www.yomiuri.co.jp/local/iwate/news/20230515-OYTNT50050/