第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

医学生の診断エラーは・・まずは普通の医学生の勉強をしましょう。

2018-10-15 14:39:47 | 診断エラー学

みなさまこんにちわ。

週末は内科学会専門部会「診断プロセス向上WG」のために、東京にずっと潜伏してました。ついでに写真撮影などの取材!?もしてもらって、白衣で某東京の海など川など写真撮ってもらっていると変態的コスプレの人か、変な企画もののビデオ撮影などと間違えられそうでした(汗)。

さて、今日も診断エラーについてです。Graber先生(来月も少しお会いできるかもですが)が以前やられたもので、実際の100例の診断エラーを分析した研究があります。その中で診断エラーの多くが認知バイアスが主な原因となっている、知識や技術などが原因になっていることは少ないとの見解でありました 1)。我が師匠の研究でも、そのように認知バイアスの与える影響に注目されておりますね 2)。
 
Dual Processモデルを用いてよく研修医はSystem2を頻用するので極端な診断エラーが少ない!?ということが言われています。しかし実際に日本の研修医(昔の自分の経験では)を見ていると、その知識や経験が全く無いことから異なる診断をしていたり、Missしていることもあるので超初学者は認知バイアス以外の根本的な技能や知識の要素もあるはずであると思っていました。
 
今日はその研究です。
診断エラーの研究を医学生に行うというものがあまりなかったので、斬新でした(実際の患者を診ることは米国でもそんなに多くないはずなので)。コンピューターで臨床問題を88人の医学生に解かせて、最終的な診断とその根拠を書かせて解析すると言ったものですが、認知バイアスがあるかと思いきや・・。304症例の解析では、診断技術の不足(24%)、疾患知識の不足(16%)、文脈や病歴情報の理解困難(15%)、Premature closure早期閉鎖(10%)などと、認知バイアスが原因になっていることはどうも少ないとの結論になっています3)。
 
結論は、知識や技術の不足、経験の不足、疾患背景の欠如などが医学生の診断エラーには多分に結びてついており、認知バイアスが関わるということは少なかった。ということになります。
そりゃそうだろうなぁ!という結果ですが、研究のリミテーションはコンピューターベースの評価であるために、そこには認知バイアスがかかりにくさというのもあります。イライラしている人が隣から圧力をかけてきたり、カルテがドンドンたまっていって焦ったり、寝不足でフラフラしていたり、同時に数人診ていたりなど、外部から(内部からも)認知バイアスの影響を受けにくいのもあるかと思います。
 
このように、診察した自分しかわからない心理状況を省察することなくして、Cognition biasの評価はやはり難しいですね。少なくとも、医学生はやっぱり背伸びは適度にとどめて、まずは「医学の勉強」をしっかりしておくというのが妥当なラインになるのでしょうか。
 
それでは、また。

1) Graber ML, Franklin N, Gordon R. Diagnostic error in internal medicine. Arch. Intern Med. 2005;165(13):1493–9.

2) Tokuda Y, et al. Cognitive error as the most frequent contributory factor in cases of medical injury: A study on verdict's judgment among closed claims in Japan. J. Hosp. Med. 2011 March;6(3):109-114

3) Braun et al. Diagnostic errors by medical students: results of a prospective qualitative study. BMC Medical Education (2017) 17:191

 

Madhidolの偉大な先輩 羽田野先生と、出雲にくるきっかけをくださった粟屋先生と飲めました!

 

 

診断エラー学 診断の遅れ・誤り・見逃しを克服しよう

2018-09-19 22:32:54 | 診断エラー学

みなさま、こんにちわ。

今日は日経メディカルさんの診断エラー第二弾目です。せっかくキレイに作成してくださったので、こちらに引用しておきます。

前回は、Dual process modelを例に、臨床医がどのようにして診断を行っているのか、お話しさせていただきました。結論は、臨床医の真の診断能力を上げるには、知識的な勉強だけではなく自分のうまくいかなった症例(診断エラー)からこそ学び続けなければならないということです。今回は、これまで本邦で脚光を浴びることがなかった診断エラー学について解説し、日々の臨床でどのように活用すれば、様々な課題を乗り越えていけるのかについてお話しします。

自らの診断エラーに、まず気づく

「診断エラー学? なんじゃそりゃ」。そうですね。聞き慣れない方も多いと思われます。日本では医療安全の観点から、システムに由来する医療ミスについての対策や検討が盛んに行われてきてきました。しかし、米国では「To error is human:人は必ず間違える」1)がうたわれて以降、この15年でシステムのエラーだけでなく、医師個人による診断エラーの研究が進んできました。お国柄なのか、日本では医師個人の診断エラーに焦点を当てた研究がようやく走り出したにすぎません。

診断エラーは「診断の遅れ、診断の誤り、診断の見逃し」と定義され2)、日本語で使われる誤診という言葉はその一部にすぎません。誤診という言葉が一人歩きして、どうしても、日本語の響きの中にネガティブな印象を持ってしまいがちです。ですが、この診断エラー学は他者を批判して、医師を批判するようなものでは決してないのです。日々の忙しい臨床業務で、必ず起きているはずの自らの診断エラーに、まずは気づき、適切な自己省察を加えることで、次回からの予防につなげ、さらには診断能力を向上させるという極めてポジティブな学問です(好き勝手に言っているだけですが、来年教科書を出版します。皆さん、買ってください)。

プライマリケア領域では最大15%程度の診断エラー

診断エラーについては北米を中心にかなり研究が進んでおり、診断エラーが原因となっていると考えられる社会的損失は極めて大きいことが明らかにされつつあります。米国のある報告では、救急の現場で初診時に10%ほどの診断エラーが起きている可能性が指摘されています。また、限られた医療資源の中で幅広い症状から診断を絞りこむ必要があるプライマリケア領域では、最大15%程度の診断エラーがある可能性が指摘されています。

診断オモシロ話をすれば、現時点での臨床推論における診断精度は、知覚感覚系診断に特化した専門家である病理医、皮膚科医、放射線科医が高いらしく95~98%と考えられているそうです。これは、患者とのコミュニケーションや状況因子などからくる認知バイアスの影響を受けにくく、視覚に依存しているためではないかと予測されています3)4)

さらには、米国全体ではなんと患者約1000人当たり1人に対して命に関わる致命的な診断エラーが発生している可能性があり、結果的に年間4万~12万人が診断エラーによって死亡していると見積もられました5)6)。加えて、診断エラーに関連する医療経済的側面も大きく、米国の先行研究では、診断エラーによる本来不必要な検査や治療のコスト、重症化による入院、後遺症残存や死亡例に伴う損失は年間全国民医療費の約30%を占めている可能性まで示唆されてしまっています。

特に死亡者数は衝撃ですね。2018年4月の時点(IMF2018発表)での米国の人口が3億2千800万人、日本が1億2600万人ですので、極めて単純に米国と日本との診断エラーの発生率が同じぐらいであると仮定すると、日本の場合、診断エラーによって亡くなっている方は年間1.5万~4.5万人くらいであると推測できます。

「いやいや、こちとら医療安全大国ニッポンだぜ、ビバ熟練の日本の医師の診断能力! ガサツな米国人医師と比べたらそんなに多くないはずだ!」とのお叱りの声もあるでしょう。おっしゃる通りです。仮に診断エラーの発生率が米国医師の半分以下であったと仮定すると、我が国では年間1万から2万人の間であるかもしれません。となりますと、最新の警察庁の発表では2017年度の交通事故による死者数が3694人で、僕の父親が生まれた昭和23年以降過去最少ですので、今の時代、運悪く交通事故で亡くなってしまうよりも診断エラーで亡くなってしまう可能性の方が高いといえるのです。

さあ、研修医の先生方、そしてベテラン指導医の先生方。これらの数値をどのように思われましたでしょうか? これらの数字を大きいと捉えるか小さいと捉えるかは、それぞれの先生方が働いている病院や部門のセッティングによって大きく異なります。しかし、診断エラーは、決して運が悪いときだけに起きている不幸な出来事ではないのです。というよりは、臨床業務を頑張れば頑張る人ほど、必ず遭遇しうるとても日常的な出来事なのです。

とはいえ、好き好んでやっている臨床業務から離れるわけにも行かないので、我々ができる最も大事なことは、診断エラーの「原因や理由を知る」、そして「予防策をとる」ということになります。そうです。ここが光の当たりにくい診断学の裏側に当たります。ここからは、診断エラーの原因と認知バイアス、そしてその対策方法についてお話しします。

診断エラーの原因を探る

ここで簡単に診断エラー例を省察してみます。

 研修医2年目A君は土曜日のER日直をしています。1年目研修医の後輩にも教えることが多くなり、ようやく1人でできることも増えてきました。連休なのでERは混雑しており患者さん達も待ち時間が長くイライラしております。混雑していることでベテランナースさんもやや機嫌が悪いように感じます。勤務後は彼女とデートの予定ですが、残りあと20分でシフト交代という時にアルコールで酩酊している55歳の男性が救急搬送されてきました。

正直なところ……異臭も強く吐物(やや黒い)も付着して衣服も少し汚れていたので病歴や身体所見はあまりとらずに採血検査を行ったところ、アミラーゼとリパーゼが著明に上がっていました。昨日のカンファレンスでアミラーゼとリパーゼが両方とも異常に高ければ膵炎の可能性が高いと話題に上っていて膵炎の勉強を自分でもしました。造影CTを施行したところ膵臓は腫大していなかったのですが、大量に腹水があったために「急性膵炎」と診断して内科当直医に引き継ぎ、早々に病院を出ました

週明けに出勤すると、廊下ですれ違った外科の先生から「あの患者さん緊急オペになったから」と伝えられました。冷や汗をかきながら急いでカルテを開いてみると、その後内科の指導医がCTでごくわずかなフリーエアを見付けて外科に相談、十二指腸潰瘍穿孔で緊急手術となっていました。

シフト交代間際に起きた自分の診断エラーは、どうやったら防げたのか? それから1週間、誰にも相談できずに自問自答しました。

診断エラーの原因にはいつくかの分類法がありますが、ここでは先行研究からよく用いられているものを紹介します。

 

医師が陥る診断エラーの原因分析では図1のように(1)状況要因、(2)情報収集要因、(3)情報統合要因(認知バイアス含む)の3つが複雑に相互作用しているとされています7)



(1)状況要因には、医師のストレス、診療の時間帯、勤務形態、設備や人手などの環境要因が含まれます。例えば、皆さんもすごく混んでいる救急外来で一番怖いベテランナースさんがムスッとされていたら焦りますし、自分の判断に影響しそうですよね。それ以外に、24時間連続で一睡もせずに診療をしている場合などの環境因子も全てここに分類されます。

(2)情報収集要因には、過度ないし過少の病歴・検査・診察などから得られる情報の収集過程とその情報の解釈が分類されます。診断を絞り込み、除外するための情報を集めることができなかった、または集めすぎたことも時に原因になり得ます。ほかには、その情報が陽性・陰性であった場合に、偽陽性や偽陰性などの解釈を誤ることで診断エラーに結び付いてしまうことなどが代表されます。

例えば、救急外来を受診する患者さん全員にルーチンでD-dimerを測定している場合などは、高齢者ではかなりの割合で陽性になってしまいます。それを検査前確率と検査後確率を考慮せずになんでもかんでも肺塞栓を疑って結び付けてしまう、といったケースが該当します。特に、病歴と身体所見からの情報の不足は診断エラーに大きく関与するようで、米国での医療訴訟のうち42%が直接的な訴訟理由に密接に関連していたとの報告もありますので、原則はやはり原則で病歴とフィジカルの確認はいついかなる時も重要です8)。 

(3)の情報統合要因(認知バイアス含む)には、主に前回紹介したヒューリスティックスや認知バイアスなどの認知心理的要因が含まれます。皆さん、診断エラーの原因は、知識がない、あるいは経験が足りていないからだと考えていませんか? なんと、現在では診断エラーの多くは知識の不足よりも、むしろこれらの認知バイアスの影響で適切な臨床推論ができなくなることが最大の原因だと言われています9)。なお、認知バイアスは海外では非常に注目されており、既に100以上の認知バイアスが報告されています。

ではここで、症例を振り返ってみます。認知バイアスの一覧表(表1)を見ながら読んで見てください。

研修医2年目というだけで、強いバイアスになり得ます。できることが増えて後輩ができると必然的に自信が出てきますので。この場合はOverconfidence Biasがあったかもしれません。

混雑する秋の連休、イライラする患者さんと恐いベテランナース、後20分で勤務が終わり、さらにはかわいい彼女が待っている! もはやここは相当強いバイアスがかかるのはよく分かりますね。この場合は肉体的・精神的に楽に処理する思考に引っ張られる、Hassle Biasなどが当てはまります。

もしかしたら、アルコールで酩酊中に嘔吐される患者さんに、陰性患者を持ってしまったために判断に影響を与えたのかもしれませんね。この場合はVisceral Biasというバイアスもあります。あるいは、直前に本やカンファレンスで勉強した内容が想起しやすい診断を連想させたAvailability Biasや、他の鑑別疾患を考慮することをやめてしまったPremature Closureというバイアスがあったかもしれません。

このように、1つの臨床推論における診断エラーには、様々な認知バイアスが複雑に交絡していると考えられています。内科医の集団を対象としたある研究では、1つの診断エラーに対して平均6つ以上の因子が関与していると報告されているそうです9)

表1 代表的な認知バイアス(筆者作成)

診断エラーに遭遇したら、成長の大チャンス

最後に、研修医の皆さんはぜひ、表1の代表的なバイアスの種類を一読しながら、自分の経験や診療で心当たりがないか省察してみてください。多くの場合、自分のあまりカッコ良くない部分を人に相談することは勇気が必要です。しかし、臨床医としての実力をあげるためには診断エラーと真正面から対峙することがとても重要です。

診断エラーに遭遇したら医師として成長の大チャンスです! ぜひ、今回の内容を参考に自身の症例や臨床スタイルを振り返ってみるとよいですよ。

■参考文献

1) Institute of Medicine. To err is Human: Building a safer healthcare system. Washington, DC: Academy of Science; 1999. 
2) National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2015. Improving diagnosis in health care. Washington, DC: The National Academies Press.
3) Berner ES, Graber ML. Overconfidence as a cause of diagnostic error in medicine. Am J Med 2008;121:S2–23. 
4) Graber ML. The incidence of diagnostic error in medicine. BMJ Qual Saf. 2014; 22 suppl2:ii21-ii27.
5) Leape LL, Berwick DM, Bates DM. Counting deaths due to medical errors in reply. JAMA. 2002; 288:2405. 
6) Nweman-Toker DE, Pronovost PJ. Diagnostic errors- the next frontier for patient safety. JAMA 2009; 301(10):1060-2. 
7) Bordage G. Why did I miss the diagnosis? Some cognitive explanations and educational implications. Acad Med. 1999 Oct;74(10 Suppl):S138-43.
8) Zwaan L, et al. Patient record review of the incidence, consequences, and causes of diagnostic adverse events. Arch Intern Med 2010;170:1015–21.
9) Graber, et al. Diagnostic error in internal medicine. Arch Intern Med. 2005;165:1493-9. 

 

引用はこちらになります。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/rejitop/201809/557764_2.html


Diagnostic Errorについて医療の質と安全学会にてお話いたします。

2018-09-18 23:46:07 | 診断エラー学

みなさま、こんにちわ。下記内容でお話します。名古屋は味噌カツ、ひつまぶしを食べたいと思います!せっかく抄録を書いたのでこちらに。

Diagnostic errorは決して稀な不幸な出来事ではなく、医療者が意識すること無しに認識し難い日常的に遭遇するありふれた現象である。Diagnostic errorとそれに付随する有害性が近年欧米を中心に少しずつ明らかにされて来ており、米国の研究では救急外来等のクリティカルな状況に限れば、約10人に1人の割合でDiagnostic errorが起こっている事が示唆され、年間4-8万人に及ぶ関連事象死、ならびに毎年1000億ドル(12兆円)以上が無駄になっていると推測されている。

臨床現場における思考過程、環境因子等が複雑に交絡するDiagnostic errorの疫学的研究は難しく、世界的にもメインとして用いることができたのは医療訴訟のデータであった。それ以外には剖検データ、医師からの報告、患者からの報告、インシデントレポート、緊急再入院時の統計などがサロゲートデータとして使用可能である。必ずしも判例のデータが医療現場の情報を正確に反映しているとは言えないが、これまで医療者側と患者側だけが知るブラックボックスであった重要なDiagnostic errorについて多くの情報が得られるために有用な情報である。

米国における医療訴訟の研究からは、米国内の全医療訴訟のうち28.6%がDiagnostic errorが原因となっており、全医療訴訟費用のうち35.2%がDiagnostic errorに費やされ、また全医療訴訟で最多の死亡理由(40.9%)であり、手術等を含むその他の理由(23.9%)よりもその有害性が高いことがわかっている。本邦の同様の医療訴訟を用いたDiagnostic errorの研究はあまりされておらず、2010年にTokuda等が医療訴訟274判例から大部分のDiagnostic errorは認知バイアスによって起こっていることを国際誌に報告した以外に詳細な調査は無い。そこで、我々は日本最大の判例データベースであるWestlaw Japan(25万件収載)の協力を得て、2017年時点で判例データバンクに登録されている昭和初期まで遡った全医療訴訟3200判例のデータの抽出と解析を行ったので、それらの結果から我々は何を学び、そしていかにDiagnostic errorを乗り越えていくべきかを提言したい。

 

引用

Saber Teharani AS, et al. BMJ Qual Saf 2013; 22:672-680

Tokuda Y, et al. J Hosp Med. 2011 Mar;6(3):109-14.

Gupta A, et al. BMJ Qual Saf 2018;27:53-60 

Rubin JB, Bishop TF. BMJ Open 2013; 3:e002985. 

 


ベテラン医師にも役に立つ診断学のウラ側の話

2018-09-10 22:51:19 | 診断エラー学

みなさまこんにちわ

今日は全三部作の診断エラー学入門の記事を日経メディカルさんに発表してもらいましたので、こちらの方にも転載させていただきます。

 

研修医の先生方はもう半年以上は医療の激流にのまれて、映画コードブルーも「真っ青」のいろいろなリアルなドラマを経験されたと思います。良くも悪くも自分もそうでした。前回の「ヤバイ指導医に出会ったら」では研修医に対してメッセージを書いたつもりだったのですが、意外や意外! このコーナーはなんとベテラン指導医の先生方も、お読みになってくださっているとのこと。ありがたいことです(諸先輩方、感謝の極みです!)。そこで3回にわたって、研修医だけでなく、ベテラン医師にも必ず役に立つ診断学のウラ側の話をします。

恐らく臨床の経験値を積めば積むほど、いかに効率よく、的確に最小限の検査で診断できるかについて学びたいという気持ちが強くなると思います。しかし、これはいわば、光の当たるカッコイイ部分、「オモテ側の診断学」を学んでいたにすぎません。あまり着目されてこなかったのですが、実は臨床医としての真の成長のためには反対側の、あまりカッコ良くない「ウラ側の診断学」がより重要なのです。なぜかって? それは、一流スポーツ選手はみな自分のできなかった理由を深く考えて修正に取り組むそうですよ。診断も同じです。診断は適当に行うものではなくて、うまくいかないときにどう修正したら良いのかを考え抜く闘いであると感じています。

Dual process modelに基づいた診断プロセス

これまで、数ある疾患が想定される中で、医師がどのように的確に診断をつけていくのかを言語化することは難しかったのです。そのために、自分では病因の見当もつかなかった患者さんを、指導医が一瞬で診断して行く姿は、まるで神様のように見えたものでした。しかし、昨今の認知脳科学の研究によって医師の推論過程が注目されるようになってきました。その主軸となったのがDual process modelと呼ばれる思考過程です。これは2002年にダニエル・カーネマンが応用してノーベル経済学賞の受賞に結びついた「Thinking, Fast and Slow」の考え方で1)、現在、我々臨床医が診断を行う過程にも応用されています。



Dual process modelに基づいた医師の診断のプロセスを図1に示します。これは、速い思考のSystem 1=直観(感)的診断(Intuitive process)と遅い思考のSystem 2=分析的診断(Analytical process)がお互いに相補的かつ必要に応じて時に意識的、時に無意識的に切り替えが行われながら的確な診断に結びついているのではないかと考えられています2)

この速くて直観的なSystem 1診断には、ヒューリスティックス(heuristics)と呼ばれる潜在意識下での判断が関係しています。やや分かりにくいのでヒューリスティックスの日常的な例を挙げてみます。皆様は、目の前に「石原さとみ」の顔をした超絶美人が歩いてきたら0.03秒で気づきますね(個人的趣味でゴメンナサイ)。

 

(イラスト:水まんじゅう)

では、ナゼ「石原さとみ」であると脳が認識したか説明できるでしょうか? 眉毛? 瞳? それともあの特徴的な唇? それらを数値化して説明できますか? できないですよね。

このように、自己の経験した数多くの情報を融合させて、潜在意識下で瞬間的に診断している状態こそが直観的診断(System 1)であるといえます。これを医師の臨床推論に置き換えると、特定の疾患群に精通した専門医やベテラン指導医が持つような瞬間的な診断であり、スナップショット診断であり、また一発診断などと表現されます。非常に効率的かつ芸術的であるだけでなく費用対効果が極めて高いのです。

しかし、このヒューリスティックスを用いた直観的診断(System 1)には、決定的な弱点があります。それは一度認知の歪みが発生してしまうと修正が難しいことと、その時の喜怒哀楽などの感情、忙しさや疲労、環境要因などに強く影響を受けるために判断を誤りやすく、診断エラーにつながりやすいと指摘されています。エラーに至った場合のヒューリスティックスは特別に認知バイアス(Cognition Bias)と呼ばれています3)4)。皆様も診療をやっている以上は、毎日この認知バイアスに多大な影響を受けているはずです。

最近の自分のやってしまった経験では、次のような例があります。慢性的な腰痛症に対してベテラン整形外科医のところで通院治療している高齢女性が、腰痛の増悪で内科を受診しました。どうせまた腰痛であろうとたかをくくっていたところ、実は多発性骨髄腫だったのです。

この診断エラー例を自分なりに解釈すると、こうなります。ベテラン医や専門医の判断であるというエキスパートオピニオンはとても強く信じてしまいやすいですし、誰かが判断した思考過程には無意識で追従しやすくもなります。また、忙しい外来の中でなるべく早めに楽に片付けようとする意識が働いたかもしれませんし、最も想起されやすい診断を安易にしてしまったという面もあるでしょう。これらはみんな認知バイアスであり、皆様が意識することなく必ず毎日身近に遭遇しているものです。

一方で分析的診断(System 2)は意識的に労力を使って分析的に鑑別診断を考える方法で、例えば研修医の皆様が毎日行っているように、教科書やスマートフォンで調べたり、プロブレムリストの列挙、アルゴリズムやフレームワーク(VINDICATEなど)に代表されるように臓器別に考えたりするプロセス、などが含まれます。

一般的には「脳が難しいと感じた時に意識的に推論していく方法」ですので、この分析的診断は信頼性が高く、判断を誤ることや見逃しなどが少なくなることが分かっています。様々な認知バイアスによる影響を受けにくいという最大の長所を持つ反面、とても時間がかかり、無駄な検査が多くなりやすく、最終的にコストがかかるという短所があります。

多くの場合は、経験の少ない初学者、研修医、専門外を想起させる症候などで特に頻用されるはずです。研修医の皆様も、振り返ってみて、上級医の先生に無駄な検査が多すぎる、時間がかかりすぎるなど怒られませんでしたでしょうか?

では、どのようにしたら自分の診断力を高め続けて行けるのでしょうか? 先行研究から、また尊敬するメンター達を数多く観察して来た経験から、私の持論が育まれました。それは、最も大事なことは、うまくいかなった症例からこそ学ぶという姿勢です。臨床では、これがとても重要なのです。

自分の直感や考えと合わなかった時に、どうキャリブレーション(calibration)して補正するか? 実はこれ、臨床医にとっては、診断エラー学に触れることがとても重要だ、と教えているのです4)。診断エラー学とは、エラーを研究し議論する学問で、日本では、私の恩師であり師匠でもある徳田安春先生が普及に努めています。

次回は、この診断エラーの疫学と定義をはじめ、医師が陥る代表的な認知バイアスをどうやって克服するのか、その秘策をお話ししたいと思います。

■参考文献

1) Kahneman, Daniel (2011). Thinking, fast and slow (1st ed.). New York: Farrar, Straus and Giroux.
2) Origins of bias and theory of debiasing. P. Croskerry, G. Singhal, and S. Mamede. BMJ Quality and Safety 22(Suppl 2):ii58–ii64. 2013.
3) Croskerry P, Abbass A, Wu AW. Emotional influences in patient safety. J patient Saf. 2010; 6:199-205. 
4) Croskerry P, Singhal G, Mamede S. Cognitive debiasing 1: origins of bias and theory of debiasing. BMJ Qual Saf. 2013;22 Suppl 2:ii58-ii64.

引用は日経メディカルより

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/rejitop/201809/557578.html


Diagnostic Error in Medicine 11th International Conference  DEMへ、DEMへ、行ってみようとおもいませんか?

2018-09-06 00:52:02 | 診断エラー学

皆様

DEMへ、DEMへ、いってみようとおもいませんか〜?うふぅふぅー♫

こんにちわ。おそくらは出版会社やメディアの方もこちらをみて来てくださっているようですね。連絡度々うけ、思考やプライベートを見られているようで(もはや半分以上公開していますが)少し恥ずかしいです。

さて、最近加速的に色々なことをこなしながらも集中して本腰を入れだした仕事に「診断エラー学」があります。毎年なにかを発表していますが今年も今年初めてKaren Cosby先生が出した本を買いましたのでサインしてもらいに行こうかなと。思えば国際学会で初めて40分間のOralしたときの座長が彼女でした。今ならばなんともない発表や仕事も、研修医であったあの時は人生で一番つらかったです。。

今回の僕の演題は3つとも採用されましたのでいずれもfirstで発表してきます。当然、「Publish or Perish」ですのでガスガス 出雲國から発射します!


Malpractice Claims Related to Diagnostic Errors in Japan

 

Potential Usefulness of Virtual Reality Simulation for Learning Clinical Reasoning in Japan

 

No Doubt!! Certainly Pneumothorax!! Diagnostic Error By Intuitive Visual Diagnosis.

大会の様子 誰か一緒に行きませんでしょうか?

Karen先生の書籍、部分的に読みました。言ってる内容は頭の悪い僕がギャーギャーいっているのとあまり変わらないのですが、英語なのでとても高尚で美しい文章に感じます。

 

今回も勉強に勤しみますので(書籍執筆のために時間はすべて情報収集に)、観光はココに行きたいです!!

 


内科学会診断プロセス向上WGやります

2018-08-27 14:52:53 | 診断エラー学

皆さま こんにちわ。

なんて素敵な内科学会!斬新、モダン、革新的(ポスターは自分が作って見ました、色調的ご批判は甘んじて受けます)

内科の世界はそれこそ縦割りではうまく診療ができません。

表の診断学だけでなく、裏側の診断学も勉強して見ませんか?

 

きっと、目からウロコの体験になると思います。ぜひ、ご応募待っています。

 

日時 2018年10月14日 14時から16時まで

場所 日内会館 

お申し込みは

fjsim-office@naika.or.jp

までご連絡ください。

 

 


どんな医師でも必要な診断エラーTips 10 Q&A

2018-08-21 23:17:55 | 診断エラー学

みなさまこんにちは。

今日はどんな医師でも必要な診断エラー Tips 10 Q&Aをお送りいたしますね。毎日何かに追われながらも、研究に参加してくれるメンティー達のおかげで平静の心で頑張れています。自分の診断エラーの執筆や研究などのまとめが進んでおりますので、重要なTipsのみをSIDMのホームページの情報に準じてUPしておきます。出典は下にあります。

Q:診断エラーって何?

A:The National Academy of Medicine(旧米国IOM)による診断エラーの定義では①患者の健康上の問題に対して正確かつ適切なタイミングで解明できていない、また②その解釈を患者に伝えることができなかった場合、と定義しています。簡単に言えば、診断エラーとは、いわゆる診断の誤り:狭義の誤診(Wrong)、診断の遅れ(Delay)、診断の見逃し(Missed)とすることができます。

 

 Q:診断エラーについてどこまでわかっている?

A:診断エラーは米国の推定で毎年1,200万人に何らかの影響を与え、他の医療過誤(手術ミスや患者取り違えなど)よりも患者に与える有害性は大きいことが示唆されています。経済的損失も計り知れなく、原因としては適切な診断がされなかったことで、疾患が進行し重症化したり、高額な検査を頻用したり、医療訴訟の増加、偽陽性の所見を治療してしまうなどの事で結果的に医療費が高額になってしまいます。診断エラーの結果として、米国では毎年1000億ドル(12兆円)以上が無駄になっていると推測されています。

 

Q:どのくらいの頻度で診断エラーは実際には起こっていますか?

A:重篤な疾患に限れば、おおむね10人に1人の割合で最初の診察時に診断エラーが起こっているとされています。

 

 

Q:診断エラーの情報はどうやって集めたら良いでしょうか?

A:診断エラーを解析するための主な情報源は次のとおりです。先行研究の論文は多数あるためにデザインやモデルを本邦のもので調整する必要があります。すでに僕が日本の判例データバンクから入手できる医療裁判データ3000例以上を解析し研究成果を報告中です。

剖検データ

診断エラーを経験した医師からの報告

診断エラーに遭遇した患者からの報告

病院のインシデントレポート

緊急入院の統計

診断エラーを測定する研究

判例データ 

 

Q:しかし、医療裁判の判例が必ずしも医療的にただしい情報とは言えないでのはないでしょうか? 

A:その通りです。判例のデータは医療現場の情報を正確に反映しているとは言えませんが、患者に危害を与えうる最も重要な診断エラーについて多くの情報が細かく記載があり、それを得る事ができます。さらに大事な情報源として患者からのクレーム分析は、カルテなどからの得られる医療記録以外に、他のデータソースからはまず得られない患者側からの視点の情報も得る事ができます。

 

Q:診断エラーはどのくらいの頻度で有害事象や死亡につながってしまうことがありますか?診断エラーによる死亡率はどのくらいですか?

 A:診断エラーは米国内で推定年間1,200万人に影響を与えており、他の医療過誤の原因を足して合わせたものよりも大きな影響が出ていると推測されています。米国内の病院のみの調査では、診断エラーが原因で毎年4万〜8万人が死亡しており、少なくとも多くの患者が後遺症をかかえているのではと見積もられています。すべての臨床現場を対象に調査した場合にはさらにそれ以上に多い可能性が高いです。

 

Q:診断エラーの原因は何ですか? 

A:診断には、「人的要因」と「システム要因」の双方の要素が含まれています。医学的知見や医療の爆発的な成長は、ある意味両刃の剣であり、診断はより正確に可能になった一面で、同時に複雑性が増しています。人的要因の観点からは、誰しも日々の生活で「勘違い」などの認知の歪みに影響を受けているとされます。医師も同様に、診療の現場で認知機能の限界とバイアスを受ける事がわかっています。特に近年の医学における複雑性は人類が経験したことのないレベルです。既知の疾患はすでに1万疾患以上、検査項目は5000項目以上ありますが、対象となる主訴や症状はあまり変わっておらず多くはありません。したがって、いずれの主訴や症状にも何百までとはいかなくても、数十種類の思考過程や検査の組み合わせなどを的確に選んでいく必要があります。

一方で、医療のシステム要因は、数百から数千におよぶ異なる思考プロセスや診療行為、手技やテクノロジーなどが複雑に絡み合ってリンクしています。もともとこれらの医療システムは、患者の安全性を担保するために構築されてきましたが、これらの複雑になればなるほど、相互のコネクションの数が増えるほど、情報の誤った伝達、故障のリスクなどが高まってしまうのです。

 

Q:ある科の方が他の科よりも診断エラーをおこしやすいなどはあるのでしょうか?

A:実はあります。診断エラーはすべての診療領域で医療訴訟の主な原因となっています。米国の調査では、プライマリケア領域、救急医療領域、放射線医学領域だけでなくほとんどの診療領域で診断エラーが訴訟理由の一位になっています。外科系領域においても訴訟理由として2番目に多くなっています。診断エラーの中でも診断の見逃し(Missed)はプライマリケアや救急医療で最も多いとされます。一つの理由としては単純に初診で訪れる患者数が圧倒的に多いためですが、一方で複合的に既往を持っていたり、病態が進行して症状がはっきりする前の早い段階で患者が受診していることが原因と考えられます。

 

Q:診断エラーのほとんどは珍しい疾患なのではないでしょうか?

A:実は違います。診断エラーにより後遺症や死亡という結果に至った原因疾患の実に75%が、かなり一般的な疾患である血管系疾患や感染症、そして悪性腫瘍で占められていました。よく思われるように診断困難例に陥る珍しい疾患は、確かに見逃し(Missed)があったり、診断に至るまでにかなり時間がかかってしまう事が多くなります。しかし診断エラー自体は脳卒中、敗血症、肺癌などのかなり一般的な疾患で圧倒的に多く起こっており、その与える影響はかなり大きいものになります。ゼブラな疾患(珍しい)でもコモンな疾患でも診断プロセスを改善していく事で診断エラーを減らすための努力をすることがとても重要なのです。

 

Q:診断エラーと、その有害性を減らすために、我々は何ができるか?

 A:The Society to Improve Diagnosis in Medicine (SIDM)は診断エラーによって患者に害を与えない世界を目指しており、 保健システム、医師だけでなく、看護師、放射線科医、検査技師、研究者や患者など全ての人が「診断の向上」に対して役割を果たすことを目標としています。SIDMが掲げるビジョンは下記です。

・診療レベル、システムレベル、政策レベルで、診断の向上を最優先事項とする。

・有害性を減らすための、診断の正確性向上やエラーの減少を対象とした研究を進める。

・正確かつ適切な診断を行うために知っておくべき障害とそれらの解決方法の両方を医師や他職種に広めるために、医学教育システムを改革する。

・実臨床の現場で、医師だけなく、患者や他職種も巻き込み、診断能力の向上をはかる。

・診断向上のためのすべての業務で、患者とその家族の声が入るようにする。

 

 

 特にここはMust Knowです。これが診断エラーの世界の定義です。馴染みのある方も、初め手の方もこれを機に親しんでいただければ幸いです。

 

What is Diagnostic Error?

The National Academy of Medicine (formerly the Institute of Medicine [IOM]) defined diagnostic error as the failure to (a) establish an accurate and timely explanation of the patient’s health problem(s) or (b) communicate that explanation to the patient. Simply put, these are diagnoses that are delayed, wrong, or missed altogether. These categories overlap, but examples help illustrate some differences:

 

A delayed diagnosis refers to a case where the diagnosis should have been made earlier. Delayed diagnosis of cancer is by far the leading entity in this category. A major problem in this regard is that there are very few good guidelines on making a timely diagnosis, and many illnesses aren’t suspected until symptoms persist, or worsen.

A wrong diagnosis occurs, for example, if a patient truly having a heart attack is told their pain is from acid indigestion. The original diagnosis is found to be incorrect because the true cause is discovered later.

A missed diagnosis refers to a patient whose medical complaints are never explained. Many patients with chronic fatigue, or chronic pain fall into this category, as well as patients with more specific complaints that are never accurately diagnosed.

 

http://www.nationalacademies.org/hmd/Reports/2015/Improving-Diagnosis-in-Healthcare.aspx

https://www.improvediagnosis.org (診断エラーのホットTipsを学べると思います)
 
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2015. Improving diagnosis in health care. Washington, DC: The National Academies Press.

 

.

 

 

 

 

 


診断エラー学 はじめに

2018-08-16 12:04:38 | 診断エラー学

 

みなさまこんにちわ。

ようやく、ようやくTema assignment が終わりました・・・。これでようやく自分の仕事と課題にガスガス取りかかれます。

研究といえば、いい感じにデータ集めも解析もうまくいってきたので、日本発のエビデンスとして早めにPublishを考えています。

診断エラー学の大きな教科書の進行もうまくいってでいますのでこちらにもぼちぼちまとめを乗せていくことにします。

 

診断エラーといえば、そうそう最近業者の方や出版社の方から連絡をいただく事が多くなってきておりDual process modelはもはや周囲の人もかなり有名ですね。

一番最初に参加した国際学会はなんと!Diagnostic error in medicineでした。まだ若かったです。その新しい分野の学びに参加して大変感銘を受けたのを昨日の事のように覚えています。確かJhon Hopkins大学であったと思います。徳田先生はひどい下痢で参加できず、急遽取りやめられてすごーく不安な旅程でしたが、一人であったからこそ学会の全てのメイン演題を全部聞いてメモってやろうと、慣れない英語で一生懸命勉強していたのを覚えています。

以降、毎年参加してますが、日本が進むべき道はこっちだなぁと自分の直感では思っております。

 

 

 

2回目のDiagnositc error in medicineの参加の時はまだ研修医で、太郎先生や徳田先生(当時は緊張して話せなかった・・)とシカゴでオーラルのメインカンファレンスで直前ミーティングをしていました。あの時の緊張は後にも先にも人生で一番でした。一ヶ月前から緊張して、前日はほとんどねれなかったです。。

 

(Diagnostic error in medicine 2013年?シカゴ 今やメールで連絡を取り合うKaren Cosby先生からの紹介)

 またこの話は今度するとして・・・

 

 

せっかく1年前に島根マガジン(マニアな雑誌です)に書いていた原稿があったので、転載しておきます。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

島根に来て早くも9ヶ月が過ぎました。自分の好きな領域は身体所見と診断学(誤診学)なので、今回はこれをお読みの全ての皆様に役立つであろう?診断学についてお話してみます。診断ってなんだろう?実はつい最近までは全く研究対象にされておらず、まるで経験の積んだ医師のみが持つまるでマジックのような芸術品として考えられていました。2006年頃から北米を中心に医師が下す診断というものはどのような過程を経ているかについて認知心理学との融合が進み少しずつ解明されてきています。皆様は目の前から石原さとみの顔をした超絶美人が歩いてきたら気づきますね(個人的趣味でゴメンナサイ)、では何故石原さとみであると認識したかと説明できますでしょうか?眉毛?口?目?数値化できますか?このように、情報を融合して潜在意識下で瞬間的に診断している状態を直観的診断(System1)といいます。一方で、例えば生年月日や出生地や身長だったり、色々な複雑な情報を整理して診断を絞ったり、除外したりしている状態を分析的診断(Sytem2)といいます。ボク個人は極めて直観的(System1)診断を好みますが、理由はとても安く、短時間で、効率的に判断できることが多いからです。特定の領域に限局したエキスパートが得意とする能力ですが、それっぽい顔をした別の疾患であった場合には簡単に誤る諸刃の剣でもあります。一方で分析的診断は主に医学生・研修医・専門領域以外の医師が頻用している手法で、一つ一つの情報を調べて鑑別診断を挙げては丁寧に除外していく作業です。直観的診断に比べて、分析的診断は誤りがとても少ないのですが、非常に時間がかかること、不要な検査を行い金銭的負担がかかってしまう事などの大きな欠点があります。昔はERなどでモタモタしている研修医にハラハラしながら不安に観察していましたが、実は分析的診断を頻用するビギナーの方が診断学の観点からは安全な事が多い事がわかっており最近は安心して任せています。どちらが良いとは一概に言えない直観的診断と分析的診断をうまくどちらも使用しながら進めていく事が診断の過程ではとても大事であり、これは診断のデュアルプロセスモデルと呼ばれています。