第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

日経メディカル社で診断エラー学のイベントします。

2021-06-07 11:39:58 | 診断エラー学
闘魂とは、己に打ち勝つこと。
 
約9年の月日が流れ、ついに日本はここまできた気がします。
 
「ミス」、「誤診」、ひいては「診断エラー」という言葉を使っただけで、偉い先生達に文章でおこられた若かりしあの日。とっても楽しい毎日でした。
研修医が遭遇しまくっているはず、されど気づいていないことが多いだろうことを楽しくお話します。
 
目指せ、status quo bias打破!
当日、こちらでお待ちしています。
日時:6月22日(火)20時から(19時半に開場)
パスコード:865884
やっぱり、もう一回。
闘魂とは、己に打ち勝つこと。
 
書籍は下記でお読み頂き、これまで重要だけど語られてこなかった診断エラー学を日本の卒前卒後教育に組み込んでいただければ幸いです
 
 
 
 

 


De-bias strategy 診断エラー回避 デバイアス戦略

2020-08-27 14:10:10 | 診断エラー学

みなさまこんにちわ。

目下、診断エラー関連のオリジナル研究を同時に4つ報告するために日夜奮闘しております。

さて我が国でも診断エラーについての知識やその理解は相当普及してきたと思うのですが、

次のステージは”デバイアス”である思います。

 

診断エラーの原因としての認知バイアス(Cognitve bias)の除去やシステムエラーの回避が重要ですが、これは

もっとも難しい、認知バイアスをどのように減らすかの工夫についての論文です。

その名前は”SLOW tool” 

 日本語にすると 診断をする前に最後に一瞬だけチェックしよう!! 

1 本当か?その理由は?

2    データを再確認しよう!何か足りないことは? 全て説明つくか?

3 もし反対の結果だったら?

4 最悪のケースは何か?他に何が考えられるか?

* O'Sullivan ED, Schofield SJ. A cognitive forcing tool to mitigate cognitive bias - a randomised control trial. BMC Med Educ. 2019;19(1):12.

 

これは下記のような背景からきています。

Slowing Down                                                 Availability bias, multiple 

*これは焦っている時、またハッスルバイアスやMaslowの法則などの判断をしようとした時に有効だと思います

SSure?                                                         Overconfidence bias, hindsight bias 

LLook /Lacking/Link                                 Multiple  

OOpposite               Anchoring bias  

WWorst-case             Scenario Search satisfying 

 

特に僕が今行なっているStudyの中でも自信過剰バイアスover confidence bias, 確証バイアス confirmation bias, Availability bias、アンカリングバイアス anchoring biasなどはかなりコモンでしたので、確かにこれらをデバイアスするための戦略提案としてはもっとも根本的かつ簡単であり、良いかもしれません。しかし、実際の臨床現場では有効であるかはさらに研究する必要があります。

こういうCheck list Intervetinon をPre-Postで組み込む時は、そもそもそのチェックリストの妥当性を評価せねばならずなかなか難しいところですが、一つの草案としてとてもシンプルで良いと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 


Diagnostic error in medicine 12th, Washington D.C.

2019-11-14 05:05:54 | 診断エラー学

みなさま、こんにちわ。

 

早くも、筆頭発表3演題、Supervise1演題が終わり帰ります。

僕は極力自分のリサーチ結果などを論文にするために国際学会に発表して、国内の学会では発表をしません。学会に出て勉強という意味では、PubMed、Google Scholarの方がよっぽど短時間で多くの情報を手に入れることができると考えていたので、あまり得意ではないのですね。。

 

でも、学会に参加するということで、最近考え方が変わりました。。

一つは、同じような研究をしている人たちとの議論できること。独りよがりのアイデアをさらにブラッシュアップさせるためには非常に効率が良いと感じます。

 

二つ目は、Net Working作りですね。何より、国内、国外で同じようなテーマで頑張っている人が出会い、国際共同研究などに持ち込むなど、人との顔の見える出会いは最も大事な要素のように感じます。

 

三つ目は、その土地を知ること。実はワシントンDCは3度目にも関わらず、国会議事堂や有名な博物館なども一度も行ったことがなく(それはかなり問題だと思います)。もしかしたら人生で最後かもしれないと考えるようになりましたの、その土地の文化や歴史や、食事などに集中しようという風に考えるようになりました。

 

ということで、国際学会DEM13thへ向けて新しいアイデアを実施できないか検討中です。

そして今回の内容をすぐに英文誌に投稿したいと思います。

 

 

 

なんとあの月へ行ったアームストロング船長のホンモノのスーツ。

アポロ11の博物館のビデオに感動しました。

 

 

 

 

 


WHOが言っちゃう医療安全に関する10の真実

2019-05-10 15:29:28 | 診断エラー学
みなさま こんにちわ
 
最近思うのですが、超高齢社会の日本に置いて、過剰医療による有害事象とコストの増大、診断エラー、医療の質と安全などの価値が再度重要視されてきている、うねりのようなものを感じています。
 
例えば、だいたい皆さん飛行機で墜落などに遭遇する可能性は100万分の1以下なのですが、実は診断、投薬や治療を含む医療行為を受けている間に有害事象に遭遇する可能性は300分の1程度はあると見込まれているようです。私らのイメージでは飛行機や原子力産業などめちゃくちゃリスクが高いと思い込みやすいですが(特に僕もそう)、医療に比べればはるかに安全だとのことです。そうこれからの医療も実験研究も大事ですが、風通しが良くなればPatient safetyの領域で研究を行なっていくことの重要性がさらに増し認められてくると思っています。
 
1) 地球上の人類の死因で、医療を受けることによる有害事象が14位
 (医療は飛行機や原子力産業よりも危ない?!)
2) 先進国の医療現場では10人に1人が医療による有害事象を受けている可能性
 
3) 地球上で数百万人が投薬ミスにより有害を与えており、年間数十億ドルの費用がかかっている。
4) 全医療費の約15%が医療自体による有害事象関連のために費やしている。
 
5) 医療安全領域へ投資することで逆に医療費を大きく節約できる
 
6) 入院患者100人のうち約14人が院内感染にかかる。
 
7) 毎年100万人以上が外科的な合併症で死亡しています。
 
8) 診断エラーは医療のすべての関連に大きな影響を与え、無視できない多数の患者に害を及ぼしている。
 
9) 検査や治療による放射線の被曝は公衆衛生・医療安全上の問題になりつつある
 
10) プライマリケア領域の医療ミスの多くは安全管理の不足が原因ある。
 
1)
WHOの発表では地球上では年間4億2千万人が入院しますが、その内の約4270万人に有害事象が起きていると見積もられており、少なく見積もっても結核や、マラリアなどの三大感染症と比較して14位程度であるとのこと。
 
2) 先進国の病院で受ける医療現場では約10人に1人が有害事象に遭遇しているらしいです。もちろん偶然のものもあるのですが、50%くらいは防ぐことができる有害事象もあるとのこと。一方で、所得が低い26の国々での調査では、約8%のケースがが有害事象に遭遇し、そのうち83%は予防することが可能であり、不幸にも無くなる方は30%程度に及ぶのではないかと見積もられています。
 
3) 投薬ミスが地球上で数百万人に有害を与えており、年間数十億ドルの費用がかかっている。間違った危ない投薬や投薬ミスは、防ぐことができるメインの問題で。 世界全体そのことでかかっている費用は年間420億米ドルと見積もられており、これには人件費、実際の医療費は含まれていません。 なんとこれは地球上の医療費の1%に相当します。 システムやマネージメントの脆弱性(人員の疲労や、労働環境の悪化、スタッフ不足などの人的要因)が処方、調剤、管理などの業務に影響を及ぼし、その結果深刻な患者にとって害を与えている可能性が示唆されています。
 
4) 全医療費の約15%が医療自体が与えた有害事象関連に費やしている可能性。
最近の研究結果からOECD加盟国における病院の支出の約15%は院内感染や、深部静脈血栓症や褥瘡などを代表する有害事象に対して使われているとのことです。これらの国だけで費やされる医療費だけでも、毎年数兆ドルに達すると推定されています。
 
5) Patient safetyへの時間・人・お金を投資することで医療費を大きく節約できる
患者の医療が与える有害事象を減らすために力を入れることで経済的節約につながり、患者の予後をよくするだけでなく、患者さんの予後が良くなります。米国で集中的に医療安全の取り組みが行われた2010年から2015年の間に、公的医療保険病院だけで推定280億米ドルの節約につながっています。
 
6) 院内感染に入院患者100人のうち約14人がかかってしまう。
 
100人の患者が入院していたとして、高所得国で7人、中低所得国で10人が院内感染症にかかっているであろうと見積もられています。これは毎年世界中で何億人もの患者が遭遇していることになります。EU全体で見れば毎年約320万人の患者が院内感染にかかっており、そのうち3万7千人がこれが原因で死亡しています。しかし、適切な手指衛生などの簡単で低コストの感染対策がしっかりと行われれば、その頻度は50%以下に減少させることができる可能性があると言われています。
 
7) 毎年100万人以上が外科的な合併症で死亡しています。
 
WHOの調査結果では手術による治療は依然として死亡率をもたらし、地球上で年間少なくとも700万人の人々が手術による合併症を経験しており、そのうち100万人以上が死亡しています。 周術期や麻酔関連の死亡率は、これまでの努力もあり過去50年間で徐々に低下していますが、低中所得国では依然として高所得の国々より2-3倍高いままらしいです。
 
8) 診断エラーはすべての医療関連に大きな影響を与え、無視できない多数の患者に害を及ぼしてしまっている。
 
これまでの研究結果から米国の成人外来患者の少なくとも毎年5%程度が診断エラーを経験しています。 近年発表された数十年にもわたる病理解剖検査の研究は、診断エラーがアメリカでの死亡患者の約10%の主な原因になっている可能性が示されました。マレーシアでのプライマリケアセッティングでの横断的研究では、3.6%の診断エラーが認められ、カルテレビューの研究からも、病院における全有害事象の6〜17%を診断エラーが占めることが示唆されました。一方で、発展途上国からのエビデンスはほとんどありませんが、検査や機器へのアクセスが限られていることや、臨床能力が保証されたプライマリーケア医や専門医が不足していること、さらには紙カルテを採用しているなどの要因によってさらに高頻度で診断エラーが起きていることが推測されています。
 
9) 検査や治療による放射線の被曝は公衆衛生・医療安全上の問題になりつつある
 
放射線の活躍によって医療は確実に進歩しました。しかし、被曝線量の問題は公衆衛生および医療安全上の懸念となりつつあります。電離放射線の医学的使用は、人工線源からの放射線への人口被ばくへの最大の唯一の貢献者である。 世界中では、毎年36億件を超えるX線を用いた検査が実施されており、そのうちの約10%は子供に対して行われています。さらに、年間3700万件を超える核医学治療と750万件を超える放射線治療が行われています。 医療放射線が過度に、また不適切に使用されることは患者と医療従事者の両方にとって新たな健康被害となりえます。

10) プライマリケア領域の医療ミスの多くは安全管理の不足が原因ある。
 
ある文献レビューの報告から、プライマリケア領域では10万回の診察あたり約5〜80回件の医療ミスが発生することが明らかにされました。特にシステムや、薬などの管理や配役などの安全管理上でのエラーが最も頻繁に方向される代表例です。プラリマリケア領域の全医療ミスの約5-50%がこの安全管理上のエラーであるそうです。
 
いやぁ、WHOの10 fact ヤバイですね。このWHOの世界に発信した文章から見ても医療安全はこれからの医療で、かなり重要です。
研究といえば、実験!で合った日本の医学部の研究ですが、全世界の潮流を見ているとそれだけ出なくこっちも熱いよ〜とい気がしております。
自分としては慣れない基礎研究で新しい新薬や治療法を実験して導くというよりも、これらのことを改善し、いかに患者への有害事象を減らすことができるかのことを研究する方が自分には合っているように感じます。この数年の動きを要着目です。。
 
下記がWHOの元ネタです。
 
 
写真は内科学会専門医部会の仲間達と(GW唯一の仕事で良い思い出・・)

しまねからこんにちわ Vol.4

2019-04-02 17:05:55 | 診断エラー学

皆様 こんにちわ

春になり、年号も決まり、これから自分はどうやって行きていくのか、次の年号が変わる時まで自分は何歳になっているのか(生きていられるのか?)

よくわかりませんが、勤務医として激しい働き方をしてきた自分はそろそろ体にポロポロとほころびが出てきていますので、メンタルと体力と両方を運動しながらマネージしていかないといけないと決意しております。

 

さて、ドクターズマガジンの連載4回目が出ていましたので、こちらにも生原稿を転載しておきます。

 

しまねからこんにちは Vol. 4 

「医者こそ、もっと寝せなさい!!」

暖かい春の日差しを浴びて、草も木も研修医もすくすく伸びる4月。ココしまねは、一年で一番の輝きを放っております。そして今月末から恐怖のゴールデンウィーク10連休。当直やオンコールから避けられない読者の皆様ならその恐怖が納得いただけるかと思います。自分の経験でも年末年始などの長期連休は他の病院・医師が休む時期であるからこそ、ジェネラリストの出番であると信じて働き詰めでやってまいりました。そう、「医師が不眠不休で頑張る事≠患者さんにとって良い事」という事実を認識するまでは・・。

 

僕はバンコクに留学前の1年間関東中の様々な救急告示病院で患者さんの不利益にならない限り断らずに救急車を受け続けると言う事をしておりました。今思えば、勤務して欲しいという需要に不眠不休でも精一杯答えることが医師としてカッコいいと信じていました。どこからか声が聞こえてきます「坊やだからさ。若さゆえの過ちと言うやつだよ」と(シャアアズナブル風に).自分は寝ていないと不機嫌になるし、判断に影響が出やすく、本当に苦い思いもしてきました。驕りではなく、1日8時間のみの勤務だったら絶対にしないような判断ミスも数多くしてきたのではと思います。

前回まで、診断エラーの学術的なことをお話してきのですが、今回はそのような働き方と診断エラーの観点からの小話を。色々な職種の人と交流も増え、某航空会社のパイロットの知り合いができました。彼曰く、それはそれは厳しい睡眠と健康管理が義務付けられているそうです。それはなんでも【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】であるからだそうで、当たり前の義務であり権利であると。確かに飛行機に乗ることが多い自分としてもいつもあの強風と雪の出雲縁結び空港にいつも安全に着陸させてくださり感謝です!そこで、ふと気づきました、【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】って・・・僕らじゃん!! と言うか、診断の付いていないド緊急の業務や処置をすることが多いまさに医師の仕事ではないですか!何故医師は睡眠をとらなくても許されるのでしょうか?では、寝てないことと診断エラーはどうだろうと疑問が湧きます。2018年にLancetから働き方改革もビビる際どい論文が出てました。34時間以上の連続勤務をしている医師は休みをちゃんととっている医師より460%も診断エラーが多く、また前日の睡眠時間が6時間に満たない外科医はよく寝た外科医の170%も手技での合併症を与える可能性が高いそうです。ゲゲっ本当ですか!?ここまで多いのですか!!でも、過去のやらかした思い出は決まって連続勤務中であったので、確かに自分の反省や経験と一致してしまいます。こんな研究もあります、医師が患者に与える有害性の研究など背景的にもできなかった時代にNEJM(2005年)から連続勤務と医師の交通事故に対する前向き研究の結果が出ました。ここでは24時間以上の連続勤務をした後は車の実際に衝突事故が2.3倍も高く、事故直前のヒヤリハットが5.9倍も高くなると。比較的複雑な思考過程を要しない車の運転ですら、明らかに当直明けは超絶リスクな訳でありまして(この車の事故も経験があります)、これが認知バイアスや感情や疲労などをもろに影響を受ける臨床と診断であればなおさら危険と感じます。そう、十分な睡眠と診断エラーは直結しているのですね。経験的にも、感覚的にも、数値的にも。

 

不安になられたた病院経営や医療安全に携わる先生方大丈夫です!! 米国でのパイロット(笑) 調査では、研修医に対して16時間以上の連続勤務を制限した上に、次の勤務の前に必ず8時間以上の休息を取らせるようにした結果、重大なアクシデントは20%以上も減り、また診断エラーに関しては1/4-1/6にまで減少したそうです。昔、体育会系のマッチョな指導医によく言われた言葉で「寝れる時に寝ておけ、食える時に食っておけ!」と言うものがありましたが、これはまさに診断エラーの観点からとても大事です。指導医の皆様、研修医が昼間に寝ていても、「こいつはデキる!医療安全を考慮して居眠りしているのだね」と褒めてあげてください。まさに【寝る子は安全】なのですね。

パイロットさんに対する飲酒や睡眠と安全性の話題も大事ですが、十分な睡眠も取れずに疲弊しまくっている臨床医をたっぷり寝かせる事はもっと重要かもしれないと思います。だって僕らの仕事は【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】なのですから。働き方改革が我々医療者にとって、そして国民の皆様にとってどのような展開を見せるか。これからくる新時代が楽しみでなりません。

 

1) A sleep prescription for medicine, Lancet. June 8, 2018 http://dx.doi.org/10.1016/ S0140-6736(18)31316-3

2) Extended work shifts and the risk of motor vehicle crashes among interns. N Engl J Med 2005; 352: 125–34

 


しまねからこんにちわ Vol.3

2019-03-05 16:53:07 | 診断エラー学

みなさま、こんにちわ。

春の空気が新鮮で、少しずつ自分もエネルギーが満ちてきております。色々大変なことはあるのですが、数年以内に道を開くと決意して。

さて、今月もDrマガジン記事をUPしておきます。よろしければ御失笑ください。

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あぁ、少しずつ心が躍りだす出雲の春が近づくとともに、「いとしさと、せつなさと、心強さと」が交差して複雑な気分になる3月ですね。この時期どの指導医にとっても一番辛いのは、せっかく仲良くなった研修医(一生懸命教えた?)が、それぞれの道に向かって旅立っていくことかもしれませんね。もちろん自分も幾度となくそうやって送り出してもらってきましたので文句は言えないのですが。自分が送り出された側といえば、一番記憶に残っているのは恩師 徳田安春先生から両国の土俵があるちゃんこ鍋屋さんでの激励会です。「私の様に臨床・教育・臨床研究の3本柱をバランスよく指導できる人材になって欲しい」と、新渡戸稲造先生の【武士道】の書を渡されながら言われたのを思い出します(しかし未熟な自分にはいまだに何故、イナゾウ先生の武士道であったのかは未だに感得できておりません)。自分の様になんの才能も特技もない人間は、確かに地方国立大で実験や基礎医学の研究で世界レベルを狙うよりは、あまり着目されてこなかったニッチな領域を得意分野として、バランス感覚で勝負する方が逆に希少価値が出るのかもしれないと考えて今に至るわけです。だって、本来大学医学部の使命の3本柱は、臨床・教育・研究であると言われていますもん(研究と臨床はいいとして、教育は・・・頑張れ日本!

)。そんなこんなの理由があって、あまり着目されてこなかったこの診断エラー学の研究を赴任と同時に始めました。第一回、第二回はウラ診断学の話をしましたが、今回のテーマは【認知バイアスを乗り越えろ!】です。前回、将来的には偽陽性などのOver diagnosisなども含まれる可能性もありながら、現段階での診断エラーの定義は(診断の遅れDelay、診断の誤りWrong、診断の見逃しMiss)1であり、知識の不足と言うよりはちょっとした思考過程の歪みを起こす認知バイアスこそが原因の主であるとされるのでした1)。診断学の認知バイアスは欧米を中心に非常に注目されて研究されており、既に100以上の認知バイアスが提唱されています。

ここで架空の症例で分析して見てみましょう。今日は研修医である自分の送別会があり絶対に早く仕事を終えたい状況です。いつもの怖い看護師さんが勤務に入っています。慢性膵炎で繰り返し救急搬送歴がある飲酒中ホームレスの50歳男性が、16時45分(申し送り時間15分前!!)に腹痛を主訴に搬送されてきました。異臭もあるし、ひどい酩酊です。どうせまたいつもの膵炎だと考えてやや放置気味にしていたところ結局は大動脈解離の診断でありました。

 

さて、この症例。申し送り時間前というだけで強烈なバイアスになりえますね!「事件は会議室ではなく,申し送り直前に起きてるんだっ!」と声を大にして叫びたいです。この様な疲れや時間に焦っている場合は肉体的・精神的に一番楽に処理できる思考に引っ張られやすくなるというHassle Biasの影響を受けやすいです。もしかしたらアルコールやホームレス、搬送歴などの要因からこの患者さんに陰性患者を持ってしまった為に判断が鈍った可能性もあります。この場合は本能的感情で判断が左右されるVisceral Biasと呼ばれるバイアスが当てはまります。また前回の診断名を容易に連想したことによるAvailability Bias(想起しやすいものを考えてします)や、他の鑑別疾患を考慮することをやめてしまったPremature Closureと言うバイアスがあったのかもしれません。この様に、一つの診断エラーのケースでも深く分析すればするほど様々な認知バイアスが複雑に交絡かつ重複していることがわかりますね。ある内科医の集団を対象としたある研究では一つの診断エラーに対して平均6つ以上の認知バイアスの影響が関与していると報告されているそうです*。私がやっている臨床医の最も記憶に残る診断エラー症例を解析した研究でも概ね同様の結果が出てきております(論文化乞うご期待!)。自分のあまりカッコ良くない部分を振り返るのにはとても勇気が必要な作業ですが、臨床医としての実力をあげるためには自分の弱点を知る作業が極めて重要です。おっと、書いていて気づきましたが、もしかしてあの時、恩師が稲造先生の「武士道」を餞別にくださった意味は、プロとして自分を内観して成長せよということなのかしら。

 

■参考文献

Graber ML, Franklin N, Gordon R. Diagnostic Error in Internal Medicine. Arch Intern Med. 2005;165(13):1493–1499. doi:10.1001/archinte.165.13.1493


しまねからこんにちは Vol2

2019-02-11 11:26:17 | 診断エラー学

みなさま こんにちわ。早いもので、もう2月。

寒いです。毎日何かに追われているので、春がきたらバンコクに旅行に行きたいと(PC、メール、携帯全てOFFで)と切望しております。

さて、2月号のドクターズマガジンが出てましたので、こちらで原案を載せておきます。

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冬の出雲。地名はまさにその地の空気を表しているとはよく言ったもので、かなりお天気が悪いです。僕の基本スペックはオツムが少し弱く、ノー天気、極端な南国男の気質なので、この時期は春が音を立てて訪れるのをじっと待つ修行的季節です。さて、前回は診断エラー学の話で、周囲からもこの読者数○万という最大級の医師向け雑誌でついに陸の孤島しまねという地方からニッポンの何かに対して発破をかけ始めたと、勇気もらえるコメントを頂きました。ですので、今回はすべての医師が日常的に遭遇する診断エラー(診断の遅れDelay、診断の誤りWrong、診断の見逃しMiss)1と認知バイアスについて踏み込んで見ましょう。

臨床を頑張れば頑張る医師ほど必ず遭遇する診断エラーですが、できるだけ遭遇したくないですね。そう一番簡単な克服方法は、臨床から完全撤退すること!(ゴメンなさい!事実です)。現実的なレベルでは、自分の苦手な領域には一切手を出さないこと!がしかし、これもまた円滑な医療を提供するために、臨床を続ける以上は非常に難しい問題であります。しまねの様な日本の最先端を走る高齢化トップリーディングエリアでは遠く離れた場所まで高齢の患者さん達を紹介しまくるのも実質不可能で費用対効果が悪すぎます。

 

勉強したらいいではないか?!正論ではそうなのかもしれないのですが、それは表の診断学。それだけでは済まないのですね。そう、ここは裏側の診断である診断エラー学を学んでみるのが重要です。

 

何事も克服するためには原因を知ることから始まりますね。では、診断エラーに遭遇する原因をどのように考えたら良いでしょうか?一つの例として、3つの要因が絡み合って影響しているという考え方があります。これは医師のストレス、診療の時間帯、勤務形態、設備や人手などが原因であるとされる状況要因。次に過少(ないし過度も)の病歴・検査・診察などから得られる情報の収集過程とその解釈が問題があるとされる情報収集要因。最後に統合要因といって認知バイアスという直観(直感)が医師に与える強烈な負の影響などが複雑に相互作用していると考えられています2。特に最後の認知バイアス、これはもう今の時代 Must Knowです。これは2002年にダニエル・カーネマンが応⽤してノーベル経済学賞の受賞に結びついた「Thinking, Fast and Slow」の考え⽅が、近年臨床医の思考過程と診断プロセスを説明するのに応⽤されているものです3。速い思考のSystem 1=直観的診断と遅い思考のSystem 2=分析的診断がお互いに相補的に使い分けられながら的確な診断に結びついているのではないかと考えられています。例えば「突然発症の人生で一番の激しい頭痛」とくれば、クモ膜下出血を想起しますね。ベテラン医が瞬間的に下すこの直観的診断は⾮常に芸術的であるだけでなく費⽤対効果が極めて⾼いのでが、欠点として一度認知の歪みが発生するともはやその思考パターンは修正が難しく、その時の喜怒哀楽などの感情や、忙しさや疲労、環境要因などに強烈に影響を受けるために診断エラーに直結しやすいことがわかっています。このようにエラーに至る場合の直観を特に認知バイアス4と呼んでいるのです。これをお読みになっている先生方も臨床をやっている以上は、毎⽇この認知バイアスに多⼤な影響を受けているはずです。

 我が国の医療安全の歴史を見ると、患者取り違え事件や消毒液混入などシステムエラーなどが熱心に取り上げられ対策の検討がされてきました。しかし僕が行なっている診断エラーの研究の一つ「本邦の医療訴訟3200判例の解析からみる診断エラー」5では、医療訴訟判例の多くで医師の診断エラーが関与しており、それらが与える社会的インパクトは極めて大きい事も分かってきました。それにも関わらずこれまであまり着目されてこなかったことからも伺えるように、なんとなく医療の臭いところに蓋がされて熟成するまで放置してきていたような気がしております。

誰しも自分のネガティブなところをなるべく見たくないと思いますが。自分がどのような時にその認知バイアスに影響を受けてしまうのか?自分はどのような時に診断エラーに遭遇しやすいかについて意識しながら臨床と対峙することはとても重要です。カッコ良くは無いですが、どうすればそれらを防ぎ克服することができるかについて内省するウラ診断学を学ぶのも、なかなか楽しく、実臨床に直結していて有用だなぁと感じています。

 

■参考文献

1) Graber ML, Franklin N, Gordon R. Diagnostic Error in Internal Medicine. Arch Intern Med. 2005;165(13):1493–1499. doi:10.1001/archinte.165.13.1493

2) Kahneman, Daniel (2011). Thinking, fast and slow (1st ed.). New York: Farrar,Straus and Giroux.

3) Bordage G. Why did I miss the diagnosis? Some cognitive explanations and educational implications.Acad Med. 1999 Oct;74(10 Suppl):S138-43.

4) Croskerry P, Singhal G, Mamede S. Cognitive debiasing 1: origins of bias and theory of debiasing. BMJ Qual Saf. 2013;22 Suppl 2:ii58-ii64.

5) Watari T, et al Malpractice Claims Related to Diagnostic Errors in Japan. 11th International Conference, New Orleans, USA. 10/8-11, 2018


医者こそ、もっと寝せなさい。【人の命を預かる責任重大な】パイロットはたっぷり寝てます。

2019-01-03 21:21:42 | 診断エラー学

こんにちわ

さすらいのホワイトプレーヤー です(嘘)。

年末年始・・基本はこれまで他の病院・医師が休むからこそのジェネラリストの出番のごとく働き詰めでやってまいりました。

インフルエンザ診療、感染症が好きな先生ほど、本当に辟易しているのではないでしょうか?

自分は寝ていないとあまりにも不機嫌になり、判断に影響が出やすいことを、救急を断らずに受け続ける戦国無双の修行期間に48時間連続ERなどをやっていて、本当に苦い思いばかりをしました。驕りではなく、8時間勤務だったら絶対にしないような判断ミスもいっぱいしてきたと思います。

当時のヤサ男の考え

頑張って勤務して欲しいという需要に精一杯答えることがカッコいい≠患者さんにとって良いこと

であることを知りました。当時はさらに正義感に燃えていたのですね。

若さゆえの過ちというやつですね。 

さて、今回は診断エラーの観点からの小話を、、

パイロットの知り合いはそれはそれは厳しい厳しい睡眠と健康管理が義務付けられているそうです。

彼曰く、それはなんでも【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】であるからだそうで、当たり前の義務であり権利であると。

確かに飛行機に乗ることが多い自分としてもいつもあの強風と雪の出雲縁結び空港に着陸させてくださり大変感謝しております!!

そこで、気づきました。

 

【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】って・・・

僕らじゃん!! 診断の付いていないド緊急の業務や処置をすることが多い、マジ僕らじゃん。直結しまくってるじゃん!

そこで思う訳です。寝てないことと診断エラーはどうだろうと。

2018年にLancetからオモローな【際どい】論文が出ました。1)

 

34時間以上の連続勤務をしている医師は休みをちゃんととっている医師より460%も診断エラーが多い!!

 

また前日の睡眠時間が6時間に満たない外科医はよく休養をとった外科医の170%もSurgical damageを与える可能性が高いそうです。

 

正気ですか?まじですか!?ここまで多いのですか!!

でも、自分のこれまでの反省や経験とすごく一致する・・・確かにそうかもしれません。

 

2005年当時はまだ医師が患者に与える有害性のことなどの研究ができていなかった時(文化があまりなかった時)に、NEJMから当直と研修医の交通事故の研究が出ていました。患者さんへの有害性は研究できないけど、医師の車の交通事故は研究できますもんね。また医師だって車の運転をするパイロットになる時もありますので、パイロットさんも36時間勤務とか連続勤務したらどうなるかという論文は探せませんでした(飛行機と車一緒にするなと怒られそう)。

これから見てもわかるようにExtended Work shiftの医師は車の衝突事故がOdds 比2.3も高く、ヒヤリハットの事故直前がOdds 比5.9も高くなります。

比較的複雑な思考過程を要しない車の運転ですら、明らかに当直明けはデンジャーな訳でありまして、これが認知バイアスや感情や疲労がもろに影響を受ける臨床と診断であればなおさらなかと感じます。そう、睡眠と診断エラーは必ず直結してます。経験的に、感覚的に、数値的に。

パイロットさんの飲酒や睡眠も大事ですが、本来寝ていない疲弊しまくっている臨床医をたっぷり寝かせる事がより命に直結していると思います。

働き方改革が医療者にとって、国民の皆様にとってどのような展開を見せるか。新しい時代が楽しみでなりません!!

 

こんな内容は、Dr's マガジンの「しまねからこんにちわ」の題材に持ってつけかなと思っています。乞うご期待。

 

1) A sleep prescription for medicine, Lancet. June 8, 2018 http://dx.doi.org/10.1016/ S0140-6736(18)31316-3

2) Extended work shifts and the risk of motor vehicle crashes among interns. N Engl J Med 2005; 352: 125–34


TOYOTA KAIZEN と医学教育改革、医療の質・安全学会でぶっこむ。

2018-11-25 12:41:08 | 診断エラー学

みなさまこんにちわ。医療の質・安全学会にお呼びいただいたのでお話ししてきます。

私のテーマは本邦の医療訴訟判例から読み取れる診断エラーについてです。招待いただきましたので絶対普段会話されていない内容にしてみました。
そもそもがこの領域は本邦ではアンタッチャブルな領域とされてきましたが、世界的には今後メジャーになっていくと体感しております。
久々にフリー以外の真面目?なプレゼンで緊張しました。ちょっと刺激が強かったかなと猛省しております。
 
さて、せっかくこのような学会で勉強させていただくので、実行可能で大学全体に波及できるような宝を「一つだけ」は学んで帰ろうと決めて、集中してお話し聞きました。中でも感銘を受けたのが世界のTOYOTAの業務品質改善部のお話しでした。
 
ほぼ医療の話に置き換えることができます。
Total quality managementの根本規則として
1) お客様第一(医学生・患者でもOKか)
2) 全員参加 (ここをどう取り組めるか?労働時間内に行うのであれば目に見えない生産性を意識できるか?、後述する組織トップのビジョンが必要)
3) 絶え間ないKAIZEN(これは大学・院内では定期・定時で行う工夫、専門部会、学年・役職問わないTeamを作る。)
 
の三つのトライアングルを全ての職員が考え守ることにあるとのことでした。
 
新しく学んだことは。PDCAとSDCAの両輪を回す重要性でした。
 
P(plan) D(do) C(check) A(act) 、これは方針管理や、抜本的改善、革新的な活動・アイデアなどで頻用する。ここから、組織全体が持つべき方向性・Standard化した行動や業務などを作成し浸透させる。
 
一方で、組織の活動の標準化(つまりは毎日の医療行為の標準化と質が保たれているか?良い教育が行われているか?)に関しては、PDCAではなく、SDCAを用いる。
 
つまり、S(Standardize 標準化) D(do) C(check) A(act)が重要で、行うべき標準化されたやり方、規則、考え方は遵守できているか、できないのであればなぜか?
 
なるほど、これらを振り返らないから、医学教育は停滞するのかと感じます。
他の先生の教育手法を大学教員どうしがチェックしたり、学んだり、評価したりすることは乏しい状況です。
ほとんどの医学部でSDCAはまず回ってないはず。(しかし、もうしわけありません、たとえ偉い先生でもその教育手法を評価する時代が多分きます。)
 
PDCAだけでは連続性にかけるために突発的なアイデアや斬新なパワーのあるリーダーが一次的に動かせたとしても持続性に欠け、人が変わればまた元に戻ってしまうことも考えられます。大学などの大きな組織あるあるですね。
 
どうすれば、全体に浸透させれるか?
TOYOTAの哲学では【組織のトップがビジョンを全体に示していないとKAIZENは絶対にあり得ない】とのこと。我がボスの鬼形先生のお言葉と一緒で、やはり部門のトップはそうあるべきなのでしょう。
 
ということで、ペーペーの僕らがやるべきことは、組織のトップたちが明確なビジョンを提示できるような風通しの良い雰囲気づくりと「辛くてしんどいところなどは僕ら下っ端が支えますので任せてください、やりましょう!!」とバックアップすることなのかもしれないと結論づけました。
 
ということで、昨晩はティクニィと小坂先生、マサルさんと会談。。
 
かまします T.W 2018. 11.25.
 
明日に繋がるいい話ができました。チクニィを中心にまた新しいアクション決定。
 
 

Diagnostic error in medicine 11th New Orleans 1日目

2018-11-04 14:53:51 | 診断エラー学
みなさまこんにちわ
11th DEM New Orleansにきております。

DEM 通信1

前日のセッションはResearch Formで学会のフェローとして研究を行なっている若手発表者のデザインやアイデアを揉むという面白い企画でした。
初日の午前中は120$を追加で払って参加したIntroduction to research: the science of diagnostic error from study design to publicationというテーマで、数多くの論文を読ませてもらったSingh先生らから、なぜ診断エラーの研究は難しく、それをどのように乗り越えて行けばいいかという研究者のための研究ノウハウのレクチャーでした。というか、この午前中の中身に触れただけで今日は満足です。
 
そもそも診断とは何か?という定義が難しく、クリニシャンアートの領域でもあり、また診断エラーの定義はもっと難しいために、Diagnostic error の研究のデザインと実施と解析がさらに難しいものになるそうです。今回自分が実施したいくつかの診断エラーの臨床研究も同様に苦しんでいますのでその中身の的確さたるや(最も早く教えてくれよ〜)という感じで。
 
中でも引用されたのが糖尿病や高血圧ですら、その診断基準が変わり得るのににいわんや診断エラーは?ということでした。
 
さぁ、今から自分の臨床研究2演題の発表をしてきます。アディオス
 
 
昨夜に阿部先生、鈴木先生、原田先生と行ったJAZZ Barがやばかったです。本物とはこれか?!ビール一杯で胸一杯です。
 
 
 
今後、コラボレーションをできないか(Superviseしてもらえないか)アプローチしました。
 
Tari 11/3 2018