第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

野獣のリアル勉強法 その1

2018-09-26 12:43:34 | 総合診療

皆様 こんにちわ

秋ですね、疲れ気味です。Freeletics初めて2ヶ月かなりいい感じにトレーニングできたと思っていたら、まさかの腓腹筋の筋断裂。ブチっと音がしてそれ以降、みるみるウチに太っていってます。

市中病院の時は大学は時間があるのではないかと思っていたのですが、むしろ全く逆でドンドンと追い込まれるが大学のすごいところです。そりゃ、臨床・教育・研究を本気でやろうとしたらしんどいに決まっていますよね・・。

毎日夜は何らかのWeb会議で時間が取られ(もうこれマジでやめなければ・・)、加えて夜はGCSRTの授業、大学で受け持っている講義(感染症・寄生虫/原虫・臨床推論・内科学・臨床推論入門・闘魂外来・救急・早期体験実習)や看護学科の講義もいっぱい、雑誌の締め切りや単著の締め切りなんかも最近把握できておらず、受けてしまった講演も毎週毎週と続く。と、自分でも何か抜け出せない多忙の負のループに乗ってしまったような気がしてました。

最近はどのように集中力を保ちながら無駄なく時間を捻出し利用しながら成果を出すかについて勉強とトレーニングするチャンスと捉えて省察しております。

幾分、自分のメンターはそれをこなしていたのをこの目で見てきましたので、以前どうやっているのか??質問してみました。

極意は「マインドフルネスとシングルタスク集中力」らしいです。

去年読んだ本を読み直してみて、最近のオススメなのが 【SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」】です。

ここにもありましたが、やることが多すぎて頭がおかしくなりそうな時は大きな方眼紙にドンドンと殴り書きして行って、振り分けて各個撃破を狙うというのが自分には合っているようです。

さて今回は、以前 雑誌総合診療に載せてもらった記事で野獣のリアル勉強法からの内容を転載しておきます。

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【教育手法をどのように学んでいるか】

闘魂外来や名高い研修病院に集まるモチベーションの高い人を教育するのは実は極めて容易(レクチャーを聞きにきている人だけを相手にしていたり、だいたい市中の研修病院で指導していると勘違いしてしまいます)です。教育者としての手腕の見せ所は、やる気がない、勉強したくない、そもそも医者になりたいとも思わないなどの若者達を、自分たちの組織の為とかではなく、どう彼らにとって良い方向に支援するにあると考えるようなりました。

教育手法をどのように学ぶかというテクニカルな面は山ほどあり、また個人の好みだと思いますが、僕が気に入っているのは最新論文お届けアプリ(Read)で気にある領域の論文だけを届けてもらったり、島根は車の移動が多いので車内では必ずMKSAPオーディオを聞いたりしています。最近ではCouseraの授業を見ては気に入った事をメモし参考にしています。このCouseraは世界の一流大学の優れた教育のオンラインコンテンツで、なんと多くは登録すれば無料で見ることができます(字幕も出るし英語聞き取れなくても全く問題ありません!)。アフリカにいるお金がない青年も、日本の田舎に住んでいる研修医も、もはやネットさえつながれば学ぶ機会は皆平等で言い訳は一切出来ません。

最後は勉強するか、しないか?その二者択一による世界教育競争の時代に入っていると感じます。教え方を学ぶという意味では自分の中で努力していることが主に二つあります。

一つ目は自分がすごいな、素敵だなという教え方をしている人を自分が教えると仮定した視点で観察(偵察)しています。感情や感動に訴えエピソード記憶化する効率的な学び方であり、優れた他の先生のレクチャーなどは頻発に注聞きにいっております。

二つ目はその逆で、誰かの教え方を観察して反面教師的にこっそり観察しています。どちらも大事なことは①何が、②どのように、③良かった(悪かった)、④自分であれば今度からどうする、この4点について言語化してメモしておき、のちに練習と実践をしています。

(徳田安春先生を応援する写真)

今日はこの辺りで


診断エラー学 診断の遅れ・誤り・見逃しを克服しよう

2018-09-19 22:32:54 | 診断エラー学

みなさま、こんにちわ。

今日は日経メディカルさんの診断エラー第二弾目です。せっかくキレイに作成してくださったので、こちらに引用しておきます。

前回は、Dual process modelを例に、臨床医がどのようにして診断を行っているのか、お話しさせていただきました。結論は、臨床医の真の診断能力を上げるには、知識的な勉強だけではなく自分のうまくいかなった症例(診断エラー)からこそ学び続けなければならないということです。今回は、これまで本邦で脚光を浴びることがなかった診断エラー学について解説し、日々の臨床でどのように活用すれば、様々な課題を乗り越えていけるのかについてお話しします。

自らの診断エラーに、まず気づく

「診断エラー学? なんじゃそりゃ」。そうですね。聞き慣れない方も多いと思われます。日本では医療安全の観点から、システムに由来する医療ミスについての対策や検討が盛んに行われてきてきました。しかし、米国では「To error is human:人は必ず間違える」1)がうたわれて以降、この15年でシステムのエラーだけでなく、医師個人による診断エラーの研究が進んできました。お国柄なのか、日本では医師個人の診断エラーに焦点を当てた研究がようやく走り出したにすぎません。

診断エラーは「診断の遅れ、診断の誤り、診断の見逃し」と定義され2)、日本語で使われる誤診という言葉はその一部にすぎません。誤診という言葉が一人歩きして、どうしても、日本語の響きの中にネガティブな印象を持ってしまいがちです。ですが、この診断エラー学は他者を批判して、医師を批判するようなものでは決してないのです。日々の忙しい臨床業務で、必ず起きているはずの自らの診断エラーに、まずは気づき、適切な自己省察を加えることで、次回からの予防につなげ、さらには診断能力を向上させるという極めてポジティブな学問です(好き勝手に言っているだけですが、来年教科書を出版します。皆さん、買ってください)。

プライマリケア領域では最大15%程度の診断エラー

診断エラーについては北米を中心にかなり研究が進んでおり、診断エラーが原因となっていると考えられる社会的損失は極めて大きいことが明らかにされつつあります。米国のある報告では、救急の現場で初診時に10%ほどの診断エラーが起きている可能性が指摘されています。また、限られた医療資源の中で幅広い症状から診断を絞りこむ必要があるプライマリケア領域では、最大15%程度の診断エラーがある可能性が指摘されています。

診断オモシロ話をすれば、現時点での臨床推論における診断精度は、知覚感覚系診断に特化した専門家である病理医、皮膚科医、放射線科医が高いらしく95~98%と考えられているそうです。これは、患者とのコミュニケーションや状況因子などからくる認知バイアスの影響を受けにくく、視覚に依存しているためではないかと予測されています3)4)

さらには、米国全体ではなんと患者約1000人当たり1人に対して命に関わる致命的な診断エラーが発生している可能性があり、結果的に年間4万~12万人が診断エラーによって死亡していると見積もられました5)6)。加えて、診断エラーに関連する医療経済的側面も大きく、米国の先行研究では、診断エラーによる本来不必要な検査や治療のコスト、重症化による入院、後遺症残存や死亡例に伴う損失は年間全国民医療費の約30%を占めている可能性まで示唆されてしまっています。

特に死亡者数は衝撃ですね。2018年4月の時点(IMF2018発表)での米国の人口が3億2千800万人、日本が1億2600万人ですので、極めて単純に米国と日本との診断エラーの発生率が同じぐらいであると仮定すると、日本の場合、診断エラーによって亡くなっている方は年間1.5万~4.5万人くらいであると推測できます。

「いやいや、こちとら医療安全大国ニッポンだぜ、ビバ熟練の日本の医師の診断能力! ガサツな米国人医師と比べたらそんなに多くないはずだ!」とのお叱りの声もあるでしょう。おっしゃる通りです。仮に診断エラーの発生率が米国医師の半分以下であったと仮定すると、我が国では年間1万から2万人の間であるかもしれません。となりますと、最新の警察庁の発表では2017年度の交通事故による死者数が3694人で、僕の父親が生まれた昭和23年以降過去最少ですので、今の時代、運悪く交通事故で亡くなってしまうよりも診断エラーで亡くなってしまう可能性の方が高いといえるのです。

さあ、研修医の先生方、そしてベテラン指導医の先生方。これらの数値をどのように思われましたでしょうか? これらの数字を大きいと捉えるか小さいと捉えるかは、それぞれの先生方が働いている病院や部門のセッティングによって大きく異なります。しかし、診断エラーは、決して運が悪いときだけに起きている不幸な出来事ではないのです。というよりは、臨床業務を頑張れば頑張る人ほど、必ず遭遇しうるとても日常的な出来事なのです。

とはいえ、好き好んでやっている臨床業務から離れるわけにも行かないので、我々ができる最も大事なことは、診断エラーの「原因や理由を知る」、そして「予防策をとる」ということになります。そうです。ここが光の当たりにくい診断学の裏側に当たります。ここからは、診断エラーの原因と認知バイアス、そしてその対策方法についてお話しします。

診断エラーの原因を探る

ここで簡単に診断エラー例を省察してみます。

 研修医2年目A君は土曜日のER日直をしています。1年目研修医の後輩にも教えることが多くなり、ようやく1人でできることも増えてきました。連休なのでERは混雑しており患者さん達も待ち時間が長くイライラしております。混雑していることでベテランナースさんもやや機嫌が悪いように感じます。勤務後は彼女とデートの予定ですが、残りあと20分でシフト交代という時にアルコールで酩酊している55歳の男性が救急搬送されてきました。

正直なところ……異臭も強く吐物(やや黒い)も付着して衣服も少し汚れていたので病歴や身体所見はあまりとらずに採血検査を行ったところ、アミラーゼとリパーゼが著明に上がっていました。昨日のカンファレンスでアミラーゼとリパーゼが両方とも異常に高ければ膵炎の可能性が高いと話題に上っていて膵炎の勉強を自分でもしました。造影CTを施行したところ膵臓は腫大していなかったのですが、大量に腹水があったために「急性膵炎」と診断して内科当直医に引き継ぎ、早々に病院を出ました

週明けに出勤すると、廊下ですれ違った外科の先生から「あの患者さん緊急オペになったから」と伝えられました。冷や汗をかきながら急いでカルテを開いてみると、その後内科の指導医がCTでごくわずかなフリーエアを見付けて外科に相談、十二指腸潰瘍穿孔で緊急手術となっていました。

シフト交代間際に起きた自分の診断エラーは、どうやったら防げたのか? それから1週間、誰にも相談できずに自問自答しました。

診断エラーの原因にはいつくかの分類法がありますが、ここでは先行研究からよく用いられているものを紹介します。

 

医師が陥る診断エラーの原因分析では図1のように(1)状況要因、(2)情報収集要因、(3)情報統合要因(認知バイアス含む)の3つが複雑に相互作用しているとされています7)



(1)状況要因には、医師のストレス、診療の時間帯、勤務形態、設備や人手などの環境要因が含まれます。例えば、皆さんもすごく混んでいる救急外来で一番怖いベテランナースさんがムスッとされていたら焦りますし、自分の判断に影響しそうですよね。それ以外に、24時間連続で一睡もせずに診療をしている場合などの環境因子も全てここに分類されます。

(2)情報収集要因には、過度ないし過少の病歴・検査・診察などから得られる情報の収集過程とその情報の解釈が分類されます。診断を絞り込み、除外するための情報を集めることができなかった、または集めすぎたことも時に原因になり得ます。ほかには、その情報が陽性・陰性であった場合に、偽陽性や偽陰性などの解釈を誤ることで診断エラーに結び付いてしまうことなどが代表されます。

例えば、救急外来を受診する患者さん全員にルーチンでD-dimerを測定している場合などは、高齢者ではかなりの割合で陽性になってしまいます。それを検査前確率と検査後確率を考慮せずになんでもかんでも肺塞栓を疑って結び付けてしまう、といったケースが該当します。特に、病歴と身体所見からの情報の不足は診断エラーに大きく関与するようで、米国での医療訴訟のうち42%が直接的な訴訟理由に密接に関連していたとの報告もありますので、原則はやはり原則で病歴とフィジカルの確認はいついかなる時も重要です8)。 

(3)の情報統合要因(認知バイアス含む)には、主に前回紹介したヒューリスティックスや認知バイアスなどの認知心理的要因が含まれます。皆さん、診断エラーの原因は、知識がない、あるいは経験が足りていないからだと考えていませんか? なんと、現在では診断エラーの多くは知識の不足よりも、むしろこれらの認知バイアスの影響で適切な臨床推論ができなくなることが最大の原因だと言われています9)。なお、認知バイアスは海外では非常に注目されており、既に100以上の認知バイアスが報告されています。

ではここで、症例を振り返ってみます。認知バイアスの一覧表(表1)を見ながら読んで見てください。

研修医2年目というだけで、強いバイアスになり得ます。できることが増えて後輩ができると必然的に自信が出てきますので。この場合はOverconfidence Biasがあったかもしれません。

混雑する秋の連休、イライラする患者さんと恐いベテランナース、後20分で勤務が終わり、さらにはかわいい彼女が待っている! もはやここは相当強いバイアスがかかるのはよく分かりますね。この場合は肉体的・精神的に楽に処理する思考に引っ張られる、Hassle Biasなどが当てはまります。

もしかしたら、アルコールで酩酊中に嘔吐される患者さんに、陰性患者を持ってしまったために判断に影響を与えたのかもしれませんね。この場合はVisceral Biasというバイアスもあります。あるいは、直前に本やカンファレンスで勉強した内容が想起しやすい診断を連想させたAvailability Biasや、他の鑑別疾患を考慮することをやめてしまったPremature Closureというバイアスがあったかもしれません。

このように、1つの臨床推論における診断エラーには、様々な認知バイアスが複雑に交絡していると考えられています。内科医の集団を対象としたある研究では、1つの診断エラーに対して平均6つ以上の因子が関与していると報告されているそうです9)

表1 代表的な認知バイアス(筆者作成)

診断エラーに遭遇したら、成長の大チャンス

最後に、研修医の皆さんはぜひ、表1の代表的なバイアスの種類を一読しながら、自分の経験や診療で心当たりがないか省察してみてください。多くの場合、自分のあまりカッコ良くない部分を人に相談することは勇気が必要です。しかし、臨床医としての実力をあげるためには診断エラーと真正面から対峙することがとても重要です。

診断エラーに遭遇したら医師として成長の大チャンスです! ぜひ、今回の内容を参考に自身の症例や臨床スタイルを振り返ってみるとよいですよ。

■参考文献

1) Institute of Medicine. To err is Human: Building a safer healthcare system. Washington, DC: Academy of Science; 1999. 
2) National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2015. Improving diagnosis in health care. Washington, DC: The National Academies Press.
3) Berner ES, Graber ML. Overconfidence as a cause of diagnostic error in medicine. Am J Med 2008;121:S2–23. 
4) Graber ML. The incidence of diagnostic error in medicine. BMJ Qual Saf. 2014; 22 suppl2:ii21-ii27.
5) Leape LL, Berwick DM, Bates DM. Counting deaths due to medical errors in reply. JAMA. 2002; 288:2405. 
6) Nweman-Toker DE, Pronovost PJ. Diagnostic errors- the next frontier for patient safety. JAMA 2009; 301(10):1060-2. 
7) Bordage G. Why did I miss the diagnosis? Some cognitive explanations and educational implications. Acad Med. 1999 Oct;74(10 Suppl):S138-43.
8) Zwaan L, et al. Patient record review of the incidence, consequences, and causes of diagnostic adverse events. Arch Intern Med 2010;170:1015–21.
9) Graber, et al. Diagnostic error in internal medicine. Arch Intern Med. 2005;165:1493-9. 

 

引用はこちらになります。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/rejitop/201809/557764_2.html


Diagnostic Errorについて医療の質と安全学会にてお話いたします。

2018-09-18 23:46:07 | 診断エラー学

みなさま、こんにちわ。下記内容でお話します。名古屋は味噌カツ、ひつまぶしを食べたいと思います!せっかく抄録を書いたのでこちらに。

Diagnostic errorは決して稀な不幸な出来事ではなく、医療者が意識すること無しに認識し難い日常的に遭遇するありふれた現象である。Diagnostic errorとそれに付随する有害性が近年欧米を中心に少しずつ明らかにされて来ており、米国の研究では救急外来等のクリティカルな状況に限れば、約10人に1人の割合でDiagnostic errorが起こっている事が示唆され、年間4-8万人に及ぶ関連事象死、ならびに毎年1000億ドル(12兆円)以上が無駄になっていると推測されている。

臨床現場における思考過程、環境因子等が複雑に交絡するDiagnostic errorの疫学的研究は難しく、世界的にもメインとして用いることができたのは医療訴訟のデータであった。それ以外には剖検データ、医師からの報告、患者からの報告、インシデントレポート、緊急再入院時の統計などがサロゲートデータとして使用可能である。必ずしも判例のデータが医療現場の情報を正確に反映しているとは言えないが、これまで医療者側と患者側だけが知るブラックボックスであった重要なDiagnostic errorについて多くの情報が得られるために有用な情報である。

米国における医療訴訟の研究からは、米国内の全医療訴訟のうち28.6%がDiagnostic errorが原因となっており、全医療訴訟費用のうち35.2%がDiagnostic errorに費やされ、また全医療訴訟で最多の死亡理由(40.9%)であり、手術等を含むその他の理由(23.9%)よりもその有害性が高いことがわかっている。本邦の同様の医療訴訟を用いたDiagnostic errorの研究はあまりされておらず、2010年にTokuda等が医療訴訟274判例から大部分のDiagnostic errorは認知バイアスによって起こっていることを国際誌に報告した以外に詳細な調査は無い。そこで、我々は日本最大の判例データベースであるWestlaw Japan(25万件収載)の協力を得て、2017年時点で判例データバンクに登録されている昭和初期まで遡った全医療訴訟3200判例のデータの抽出と解析を行ったので、それらの結果から我々は何を学び、そしていかにDiagnostic errorを乗り越えていくべきかを提言したい。

 

引用

Saber Teharani AS, et al. BMJ Qual Saf 2013; 22:672-680

Tokuda Y, et al. J Hosp Med. 2011 Mar;6(3):109-14.

Gupta A, et al. BMJ Qual Saf 2018;27:53-60 

Rubin JB, Bishop TF. BMJ Open 2013; 3:e002985. 

 


世界をReal timeでつなぐということ

2018-09-13 20:00:59 | Harvard medical school

 

みなさまこんにちわ。

GCSRTのassignment 1も終了して自分のリーダー&発表が終わると急にストレスから解放されて色々なことに取り組んでおります。

とはいえ、まだまだ合計5つのTeam assignment がありますし、Literature reviewをちゃんと行った上でのResearch proposalをプレゼンと提出するという課題がありますので、ほんの少しの隙間時間があれば調べ物しながらといった状況です。

3ヶ月目に入って思うことは、本当に地球の人をReal timeでむすぶのはこんなにも時差の問題で難しいのかと感じています。つまりは誰かが深夜になってしまいますので。またTeamの中でも議論に参加してくれる(できる)人が固定されてきている印象で、アフリカ組は中々多忙で入ってこれないのと、欧州組で5年目のレジデントがいるのですがディスカッションはEST 9am-11amの間に行うことがその辺りヨーロッパは午後の忙しい時間ですので、中々時間が合いません(日本時間JST 22時-24時や、時に朝4-7時くらいになったりもします)。

そういう時にはこのようなアプリを用いて、それぞれの時間を考慮して、バラバラになるように配慮して色々と試しています。

(全世界とリアルタイムで会議をする時にとても役に立ちます)

 

先週送られてきた注意書きです。

Webinar Attendance Record

By now you can view your webinar attendance record by going to Assignments and selecting Webinar Attendance Score. I will be updating this on a quarterly basis. As a reminder, you will need a score of 75% in order to receive your certificate at the end of the year. For now, you can use this score to gauge your attendance rate and adjust if needed. Attending 2 webinars in the same calendar week (Monday - Friday) is a great way to get extra credit. 

Webinerは75%出てくださいね。


Missing Quizzes

You are permitted to submit up to 4 quizzes late during your GCSRT year, but you must pass ALL quizzes in order to graduate. I have sent reminders to all of you who are missing quizzes via Canvas. Please complete your missing quizzes by Sunday, September 9, in order to stay on track.

全部のクイズをパスしてくださいね


Failed Quizzes

You are required to pass ALL quizzes with a score of 70% or higher in order to graduate. So, please go to Gradebook to check your grades for each quiz. If you score is lower than 70%, you will need to take the quiz again. If you need additional attempts on the quiz, please email me with that request. 

Quiz Minimum Passing Score
Intro to Biostats Lectures 1-3 6
Intro to Biostats Lectures 4-6 6
Intro to Biostats Lectures 7-9 5
Biostatistical Computing 1-4 8
Biostatistical Computing Quiz 5-8 8

卒業要件として全てのクイズで70%の合格点をとってくださいね。

 

 


ベテラン医師にも役に立つ診断学のウラ側の話

2018-09-10 22:51:19 | 診断エラー学

みなさまこんにちわ

今日は全三部作の診断エラー学入門の記事を日経メディカルさんに発表してもらいましたので、こちらの方にも転載させていただきます。

 

研修医の先生方はもう半年以上は医療の激流にのまれて、映画コードブルーも「真っ青」のいろいろなリアルなドラマを経験されたと思います。良くも悪くも自分もそうでした。前回の「ヤバイ指導医に出会ったら」では研修医に対してメッセージを書いたつもりだったのですが、意外や意外! このコーナーはなんとベテラン指導医の先生方も、お読みになってくださっているとのこと。ありがたいことです(諸先輩方、感謝の極みです!)。そこで3回にわたって、研修医だけでなく、ベテラン医師にも必ず役に立つ診断学のウラ側の話をします。

恐らく臨床の経験値を積めば積むほど、いかに効率よく、的確に最小限の検査で診断できるかについて学びたいという気持ちが強くなると思います。しかし、これはいわば、光の当たるカッコイイ部分、「オモテ側の診断学」を学んでいたにすぎません。あまり着目されてこなかったのですが、実は臨床医としての真の成長のためには反対側の、あまりカッコ良くない「ウラ側の診断学」がより重要なのです。なぜかって? それは、一流スポーツ選手はみな自分のできなかった理由を深く考えて修正に取り組むそうですよ。診断も同じです。診断は適当に行うものではなくて、うまくいかないときにどう修正したら良いのかを考え抜く闘いであると感じています。

Dual process modelに基づいた診断プロセス

これまで、数ある疾患が想定される中で、医師がどのように的確に診断をつけていくのかを言語化することは難しかったのです。そのために、自分では病因の見当もつかなかった患者さんを、指導医が一瞬で診断して行く姿は、まるで神様のように見えたものでした。しかし、昨今の認知脳科学の研究によって医師の推論過程が注目されるようになってきました。その主軸となったのがDual process modelと呼ばれる思考過程です。これは2002年にダニエル・カーネマンが応用してノーベル経済学賞の受賞に結びついた「Thinking, Fast and Slow」の考え方で1)、現在、我々臨床医が診断を行う過程にも応用されています。



Dual process modelに基づいた医師の診断のプロセスを図1に示します。これは、速い思考のSystem 1=直観(感)的診断(Intuitive process)と遅い思考のSystem 2=分析的診断(Analytical process)がお互いに相補的かつ必要に応じて時に意識的、時に無意識的に切り替えが行われながら的確な診断に結びついているのではないかと考えられています2)

この速くて直観的なSystem 1診断には、ヒューリスティックス(heuristics)と呼ばれる潜在意識下での判断が関係しています。やや分かりにくいのでヒューリスティックスの日常的な例を挙げてみます。皆様は、目の前に「石原さとみ」の顔をした超絶美人が歩いてきたら0.03秒で気づきますね(個人的趣味でゴメンナサイ)。

 

(イラスト:水まんじゅう)

では、ナゼ「石原さとみ」であると脳が認識したか説明できるでしょうか? 眉毛? 瞳? それともあの特徴的な唇? それらを数値化して説明できますか? できないですよね。

このように、自己の経験した数多くの情報を融合させて、潜在意識下で瞬間的に診断している状態こそが直観的診断(System 1)であるといえます。これを医師の臨床推論に置き換えると、特定の疾患群に精通した専門医やベテラン指導医が持つような瞬間的な診断であり、スナップショット診断であり、また一発診断などと表現されます。非常に効率的かつ芸術的であるだけでなく費用対効果が極めて高いのです。

しかし、このヒューリスティックスを用いた直観的診断(System 1)には、決定的な弱点があります。それは一度認知の歪みが発生してしまうと修正が難しいことと、その時の喜怒哀楽などの感情、忙しさや疲労、環境要因などに強く影響を受けるために判断を誤りやすく、診断エラーにつながりやすいと指摘されています。エラーに至った場合のヒューリスティックスは特別に認知バイアス(Cognition Bias)と呼ばれています3)4)。皆様も診療をやっている以上は、毎日この認知バイアスに多大な影響を受けているはずです。

最近の自分のやってしまった経験では、次のような例があります。慢性的な腰痛症に対してベテラン整形外科医のところで通院治療している高齢女性が、腰痛の増悪で内科を受診しました。どうせまた腰痛であろうとたかをくくっていたところ、実は多発性骨髄腫だったのです。

この診断エラー例を自分なりに解釈すると、こうなります。ベテラン医や専門医の判断であるというエキスパートオピニオンはとても強く信じてしまいやすいですし、誰かが判断した思考過程には無意識で追従しやすくもなります。また、忙しい外来の中でなるべく早めに楽に片付けようとする意識が働いたかもしれませんし、最も想起されやすい診断を安易にしてしまったという面もあるでしょう。これらはみんな認知バイアスであり、皆様が意識することなく必ず毎日身近に遭遇しているものです。

一方で分析的診断(System 2)は意識的に労力を使って分析的に鑑別診断を考える方法で、例えば研修医の皆様が毎日行っているように、教科書やスマートフォンで調べたり、プロブレムリストの列挙、アルゴリズムやフレームワーク(VINDICATEなど)に代表されるように臓器別に考えたりするプロセス、などが含まれます。

一般的には「脳が難しいと感じた時に意識的に推論していく方法」ですので、この分析的診断は信頼性が高く、判断を誤ることや見逃しなどが少なくなることが分かっています。様々な認知バイアスによる影響を受けにくいという最大の長所を持つ反面、とても時間がかかり、無駄な検査が多くなりやすく、最終的にコストがかかるという短所があります。

多くの場合は、経験の少ない初学者、研修医、専門外を想起させる症候などで特に頻用されるはずです。研修医の皆様も、振り返ってみて、上級医の先生に無駄な検査が多すぎる、時間がかかりすぎるなど怒られませんでしたでしょうか?

では、どのようにしたら自分の診断力を高め続けて行けるのでしょうか? 先行研究から、また尊敬するメンター達を数多く観察して来た経験から、私の持論が育まれました。それは、最も大事なことは、うまくいかなった症例からこそ学ぶという姿勢です。臨床では、これがとても重要なのです。

自分の直感や考えと合わなかった時に、どうキャリブレーション(calibration)して補正するか? 実はこれ、臨床医にとっては、診断エラー学に触れることがとても重要だ、と教えているのです4)。診断エラー学とは、エラーを研究し議論する学問で、日本では、私の恩師であり師匠でもある徳田安春先生が普及に努めています。

次回は、この診断エラーの疫学と定義をはじめ、医師が陥る代表的な認知バイアスをどうやって克服するのか、その秘策をお話ししたいと思います。

■参考文献

1) Kahneman, Daniel (2011). Thinking, fast and slow (1st ed.). New York: Farrar, Straus and Giroux.
2) Origins of bias and theory of debiasing. P. Croskerry, G. Singhal, and S. Mamede. BMJ Quality and Safety 22(Suppl 2):ii58–ii64. 2013.
3) Croskerry P, Abbass A, Wu AW. Emotional influences in patient safety. J patient Saf. 2010; 6:199-205. 
4) Croskerry P, Singhal G, Mamede S. Cognitive debiasing 1: origins of bias and theory of debiasing. BMJ Qual Saf. 2013;22 Suppl 2:ii58-ii64.

引用は日経メディカルより

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/rejitop/201809/557578.html


若気のいたり・・大都市の救急医療〜何故救急搬送の不応需が何故起こるのか〜

2018-09-09 00:50:14 | 総合診療

みなさま、こんにちわ。いやぁ昨日は学生時代に強烈な影響を受けた矢野晴美先生が出雲に来られて激アツな一日でした。

今日は9月9日、つまりQQ(救急)の日ですね。いやはや、なんで自分はこんな人間なんだろうと時々嫌になりますが、その原因に近い、もっともっと恥ずかしいものを見つけてしまいました(後期研修医終わってすぐ書いたものですので恥ずかしいったらありゃしないですが・・)これはこれでその時は医療の情熱があったのだなぁと(今がないわけでない・・です)、感慨深いですし、おそらくは医師になって最初の4年目くらいで形成されてしまったなんらかの要因がこの時の正体不明のエネルギーになっていたのではと思います。今はもう絶対できません。こんな体力を使うこと。

穏やかな毎日を出雲で暮らしながら、あの時の初心を忘れないように、ココにアップしておきます。(カイ書林書林社長から許可をもらいました。この時はすでに既に色々書いていたのですが、実は初めて日本語で論文を書いた下手なものです。)2014年時点での東京で働いていた状況です。現在はとってもずいぶん改善されているようです。この問題は本当に複雑で、多数のConfuding factor とeffect modificationがあるので、 一概には絶対言えません。あの時の、あの空気感の、あの仕事で、一つの病院にはかならず色々な人との出会いがあったのと、東京消防の人がみなさんとても協力的で、得体のしれない放浪人のような青年によくもここまで良くしてくれたなぁというのを覚えています。

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大都市の救急医療

  • 高齢者の救急搬送が増加し,一病院あたりの救急医療の負担が増大している.救急患者を頑張っ て受けている医療機関の努力に報いると共に,行政を巻き込んだ適切な医療財源と資源の分配が必要である.
  • 患者を診なくて良い理由を考える前に,患者を診なければいけない理由を考える.
  • 東京都でたらい回しされている患者の多くはコモンディジーズである.
  • 今こそ幅広く当たり前 の医療を当たり前に提供できるジェネラリストの養成が必要な時代であり,それを教育し伝承 することが我々ジェネラリストの使命である.

Keywordsたらい回し,不応需,高齢者,東京ルール,救急搬送 

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要旨

筆者は病院が多数ある大都市で何故救急搬送の不応需(たらい回し)が何故起こるのかを調べる為に,東京都内を中心に40以上の救急告示病院で,断らずに当直業務を行う実地フィールドワークを約1年間行った. 大都市の救急医療の問題は根本に救急告示病院数の減少と高齢者の救急搬送の著名な増加に伴う需要供給 のバランスが崩れている事にあった.

また東京都指定二次救急告示病院間においても休日夜間における応需件数の差が著名に見られている.搬送先選定に難渋する病態や背景は整形外科疾患が最も多く,次いでアルコー ル関連,精神科領域,高齢者と続いていた.高齢者の救急搬送件数は増加の一途を辿っている為に,今後さらに複雑な病態や社会背景を持った高齢者の不応需症例が増えることが予想され行政・消防・医療・患者の四者の相互協力下で喫緊の対策が必要である.

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はじめに

筆者は研修時代に,毎日の様に不応需(たらい回し) の症例を経験し,一つの命題を持つに至った.それは「何故,周囲に救急告示病院が多数存在するにも関 わらず,たらい回しが起こるのか?」である.社会的需要もあることからこれまでに社会科学的研究が散見される分野ではあるが 1-3), 自院搬送内症例にのみ限定した言及に留まっていたり,また不応需に至った理由が満床,処置中,専門外等の原因で包括されてしまっているために,搬送先選定困難に至った真の理由が見えてくるものは多くない.

不応需に関する詳細な情報は,その病院の損益に直接結びつく可能性が強く,これまで大々的に調査されてきていない.また各救急告示施設でシステム上の問題,当直医の体制,各科連携の問題,コメディカルの勤務体制等は異なるために一元的に説明することは困難であり,各病院のブラックボックスを個別に調査する必要がある.筆者はこれを行うべく「患者の受け入れを断らず」に大都市東京を中心とした40 以上の救急告示病院で当直業務を行う実地フィールドワークを,平成26 年4 月1 日より約1年間施行した.その中で得た経験と文献的考察を交えながら東京を例に上げ救急医療の問題点について述べる.

■症例 搬送先選定困難患者の1例

患者は28 歳男性,数日前より咽頭痛を認めており,本日(祝日)朝に近医を受診.感冒の診断で,抗生剤等を処方されたが,帰宅しても嚥下時痛のために内服できず救急要請となった.喘鳴のような音を認めたが会話が可能であったために救急隊は軽症と判断し病院選定を行った.多数の病院が耳鼻科疾患の可能性があるために耳鼻科のある救急告示病院へとのことで5件以上の不応需があり,大学病院の耳鼻科では呼吸器疾患の可能性があるために受け入れ不能とし,筆者の当直先へ搬送となった.来院時,SpO2 は保たれてい たが,想定した通り明らかなStridor,流涎,tripod position,喉頭の圧痛を認めており,画像評価のうえで急性喉頭蓋炎と診断した.医師同乗で前述した大学病院へ転送し,耳鼻科医師によりその後直ぐに緊急気管切開となった.

■救急当直実地フィールドワークの感想

平成21年に東京ルール*1が施行され,昨今に入りようやく選定困難の状況に改善が見られだしたかと思われた.しかし, 本例の様に5 件以上不応需が続く症例は氷山の一角に過ぎず,都内で1日あたり搬 送先選定困難患者として東京ルールが対象となる患者は約40名程とされる4).筆者がフィールドワークを行った救急告示病院はが中規模病院(病床数100 − 499)6割以上を占め,次いで小規模病院(病床数20-99)3 割であり,大規模病院は募集が無いために1 病院のみしか勤務できていない.いわゆる東京ルールにおける地域救急医療センター*2においては勤務経験が無いために客観的評価が不能であるが,少なくと も非常勤医師を募集している病院の多くが,夜間の当直業務を自院で補うだけの医師のマンパワー不足が常時的な問題となっていた.

また,救急告示病院であるにも関わらず,人員配置の不備,応需するためのシステムの不備や,夜間の検査体制の問題も多数の病院で垣間見られ,このことが後述する救急搬送応需件数と関係していると考えられた.

本症例に戻ると,咽頭痛と若年男性であることから プレホスピタルの段階で軽症と判断され,症状から耳鼻科疾患が考慮されるも,救急隊からの情報だけでは 耳鼻科医師も当該疾患であるとは判断できずに不応需が続いたものと考えられる.調査の中で本症例の様に、いったん受け入れたうえで転送となった症例が数多くあるが,そのほとんどがコモンディジィーズであった.また初期治療を行い,診断を早期に付けることで円滑に転送先を決めることが可能であった.しかし,社会的背景の問題や,アルコール関連,精神科既往歴,高齢独居等の患者背景の問題が加わることで搬送先選定に難渋する傾向が顕著に見受けられた.それ以外に追記すべき問題として,常勤医師と比較して非常勤医師の給与の高さと実務労働量が相関しておらず,個人の技量と当直業務に対する見解と認識の差から救急診療に従事するかしないかは非常勤当直医に一任されている場合がほとんどであった.

そのため,救急告示病院であり,要請がかかりつけの患者であったとしても,昨今の救急診療における訴訟問題や責任の所在の問題もあ り,専門外疾患として安易に救急搬送を断る事例も多い印象であった.以上,筆者が都市部でフィールドワー クを行い感得した現場の問題点の一部抜粋である.しかし,これらの問題点に対して各救急告示病院の情報を開示して頂き社会科学的に調査することは現実問題として不可能であり,今後の課題となっている.次に大都市の救急医療問題における諸考察に言及していきたい.

* Glossary1 東京ルール:救急隊が5 ヶ所の医療機関に連絡し たにも関わらず搬送先が決定しない場合で,かつ救急隊の観察 結果が中等症以下となる場合に適応となり,地域救急医療セン ターを中心に調整を行い,積極的に地域で受け入れを行うルー ル.

* Glossary 2 地域救急医療センター:東京都指定二次救急医療 機関の内,地域において受け入れ医療機関調整と救急患者の積 極的な受け入れ等の役割を担う医療機関のことであり,平成27 年1 月1 日現在で84 施設が指定されている5).

 

■東京大都市圏の救急医療の概略

東京は1200 万人という膨大な人口を擁しており, 外国人や路上生活者等含めて多様な人が居住している 一方で,通勤や通学等で昼間人口は1500 万人に膨れ 上がると算出される.近年救急車の不応需,いわゆる「たらい回し」の問題がクローズアップされ,救急車の受け入れ拒否は地方よりもむしろ都市部において深刻な問題となっていると既に指摘されている1-3).東京都はこれを受けて平成21 年度より迅速かつ適切な救急医療を確保するために前述した「東京ルール」を策定し,東京都地域救急医療センター78施設を中心とした救急患者の搬送調整や受け入れ体制を整備した (平成27 年4 月84 施設).3 年以上が経過した現在,救急医療の地域完結という部分では一定の効果が認められ始めている.

 

① 需要と供給バランスについて

平成19 年の東京都救急告示医療機関数は全国1位 であるが,人口10 万人当たりの救急告示医療機関数 は2.7 で全国43 位(全国平均3.7)と人口比では全国 平均を下回っている6).これにさらに拍車をかけるよ うに救急医療に従事する体制確保が困難である等の理由により救急医療機関の申出を撤回する救急告示医療機関が増え,東京都の救急告示医療機関数は平成11年度に397 か所であったのに対して平成23 年度には328 か所にまで減少している4)(Box 1).

 

 

一医療機関当たりの救急搬送件数が増加することは必然であり,救急搬送を受ける体制が整っている病院にさらに患者が集中し,過剰な負担を生んでいる.実際に,平成22年の東京都指定二次救急医療機関における休日・ 全夜間診療事業の医療機関別受け入れ実績をBox 2 に示す.

 

 

1 年間の救急搬送が5000件を超えている指定二次救急医療機関が全体の4.4%(11/250)認めたが,一方で700件に満たない医療機関が38.4% (96/250) を占めており,受入れ実績に大きな偏りが示された4).平成24年度のデータでは指定二次救急医療機関に対しては一病院あたりに最低でも年間535 万円の休日夜間診療事業委託料が報酬として東京都より支払らわれているために,今後救急患者を受ける医療機関の努力に報いると共に,適切な医療財源の再分配も必要である.

次に救急医療の需要面についてまとめる.東京消防庁の救急活動の現況の報告によれば,年間救急出場件数は平成21年に65万5千件なのに対して平成25年には74万9千件(全国1位)と,さらなる増加の一途を辿っている7). また,全救急搬送人員に占める高齢者(65歳以上と定義)の割合は平成15年には35.6% であったのに対して平成21年には42.9%,同25年には48.2%を占め,急激に増加している.

Box 3 は高齢者搬送人員の推移を示した図で,平成21 年 度の高齢者と非高齢者の年間救急搬送人員数をそれぞ れ100 とした場合の増減の割合を示している.

非高齢者群は概ね横ばいであるにも関わらず,高齢者群の搬送のみが急激に増加していることが分かる.このことから前述した東京における救急搬送件数の増加は概ね高齢者疾患が寄与するところが非常に大きく,今後一層の高齢者の救急搬送人員が増えることは確実な状況である.

 

②搬送先選定困難と東京ルールについて

平成21年8月に東京ルールが策定して以降,搬送先選定困難患者の地域医療圏内における受け入れ率は平成20年49.3%であったのに対して平成23年には 81.3%と飛躍的に改善した4,5).

より身近な地域で患者を受け入れることができる様になったことは評価できる.しかし救急隊の搬送先病院選定に要した時間が直接相関するとされる現場到着時間から搬送開始までの平均時間は平成19 年に19 分であったところが,毎年延伸傾向にあり,平成25年には22分13 秒を要するようになっている4,7).東京ルールが適応された搬送先選定困難患者は最終的には東京都地域救急医療センターが75%を収容している実態があることから,東京ルールが適応されない不応需件数の増加と選定から搬送開始までの時間の延長が考慮される2).

次に,どのような疾患や患者背景が不応需となりやすいのか考えてみたい.平成23年6月から平成24年5月の約1年間で,東京ルール対象となった患者のキーワードの割合を示す(Box 4).

 

 

1 位は開放骨折や, 大腿骨頸部骨折,腰椎圧迫骨折等を含む整形外科が 16.0%を占め最も多く,ついで,アルコール15.6%, 精神科9.9%,高齢者9.6% と続き,これら上位で搬送先選定困難患者の約半数を占めていた.筆者がフィー ルドワークで自験した症例の多くがこれに当てはまっていた.上記から憂慮されることは,緊急的処置が必要になる可能性が高い疾患以上に,高齢者であるとい うだけで搬送先選定に難渋しやいという事態が容易にうかがえ,今後高齢化が進む大都市東京の救急医療はますます窮迫する可能性を強く示唆する.

 

終わりに

以上,大都市の例として東京を上げ,救急医療の現場における問題点と我が国に起こっている社会的問題と背景について考察した.前述した様に,大都市の救急医療の問題は根本に救急告示病院数の減少高齢者の救急搬送の著名な増加に伴う需要供給のバランスが崩れていることにある.その他の原因として,各施設内での救急部門と他診療科との連携が十分ではないこ と,施設間連携が弱いこと,コンビニ受診の増加,単身世帯の増加など枚挙に暇がない.

本稿では取り上げなかったが,臨床研修制度の変化に伴う医師不足や昨今の訴訟リスクの増大,救急医療に対する診療報酬の問題などのわが国の医療をめぐる制度的・構造的な問題も多数ある.これらは無論,個人の使命感や努力のみでは限界があることを皆が直視し,行政・消防・医 療・患者の四者が相互協力のもとに改善を図る必要がある.

 

最後に敢えて批判を恐れずに,この経験で感じたことを述べる.それは「患者を診なければいけない理由を考える前に,患者を診なくて良い理由を考える」こ とを可とする風潮である.自験例では救急告示病院の当直医等が「何らかの言い訳」を作ることで不応需となっている事例が実は一番多いと感じている.現に筆者がその後に診察を行った結果,ほとんどが軽症~中等症のコモンディジーズであった.これは実際に平成25 年度都内全搬送人員の内51.6%が軽症, 40%が中等症であることから、明らかである 7).

初期治療や診断後は 円滑に転送することも可能であったことも東京ルール と救急患者受け入れコーディネーターの貢献からも納得できる.今後の救急医療の問題において,我々ジェネラリストにできること,そして期待されることは,救急搬送患者の多くを占めるコモンディジーズにストレス無く対応するための当たり前の基本的診療能力を持てるように若い世代を教育し,ジェネラルマインドを持った医師を数多く輩出していくことであると考えている.

 

謝辞

協力していただいた東京消防庁広報担当様,また本音での率直な意見を頂いた各救急隊・消防本部の皆様,文章の感想と校正を頂いた東京城東病院 宮内亮輔先生にこの場をお借りして感謝の意を表します.

■引用文献

1)小濱啓次:都会でも救急医療の過疎化が起こつて いる.日臨救急医会誌 2007;10:509 - 16.

2) 伊藤敏孝,武居哲洋,藤澤美智子:ER 型中核病 院への搬送前に他院で救急車受入拒否(たらい回し) された症例の検討. 日臨救急医会誌. 2010;13: 1 - 7.

3) 坪内逸美,小濱啓次,櫻井瑛大,他:地方都市鳥 取と大都市東京との救急医療体制の比較. 日臨救急 医会誌. 2010;13:487 - 92.

4) 救急医療対策協議会報告:社会構造の変化に対す る救急医療体制のあり方について. 平成25 年5 月.

5) 東京都福祉保健局 救急医療の東京ルール http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/ kyuukyuu/tokyorule.html

6) 熊田恵介, 豊田泉, 小倉真治, 有賀徹, 福田充宏: 救急告示医療機関数の推移と救急隊現場滞在時間の推 移からみた今後の救急医療体制のあり方に対する一考 案.日臨救急医会誌. 2011 ;14 :431-436. 7) 東京消防庁:平成25 年救急活動の現況.平成26 年刊行.

■参考文献

① Tokuda Y, Hinohara S:Redefining the age of elderly in Japan. J Am Geriatr Soc. 2008;56:573–4.

② Tokuda Y, Abe T, Ishimatsu S, and Hinohara S:Ambulance transport of the oldest old in Tokyo:A population-based study. J Epidemiol 2010;20(6):468-472.

③ Sullivan AF, Ginde AA, Espinola JA, et al: Supply and demand of board-certified emergency physicians by U.S. state, 2005. Acad Emerg Med. 2009; 16: 1014-8.

④ Carr BG, Branas CC, Metlay JP, et al: Access to emergency care in the United States. Ann Emerg Med. 2009; 54: 261-9.

 

English Abstract

Analysis and assessment of the problem concerning ambulance transport calls in a central big city, “Tokyo”

I worked at over forty public emergency-announced hospitals in the Tokyo metropolitan area as a field worker for a year in order to investigate the reasons why many ambulance vehicles were not accepted in a city which contains a large number of hospitals. It’s a problem of emergency medicine based on the imbalance between supply and demand, which is caused by the decreased number of hospitals with emergency departments and the robust increase of the elderly. The difference of the number of ambulance requests and ambulance acceptance on holiday nights between secondary critical care facilities was also a big problem. Decision making for transportation of patients was sometimes hard to accomplish. The largest number of cases were orthopaedics, followed by alcohol-related problems, psychiatric symptoms, and elderly patients. Since the number of emergency transportation visits has been and will continue to increase due to a higher number of elderly people with more complicated symptoms and social backgrounds, it is expected that the cases of emergency call refusals will also continue to increase. To manage this situation, there is a need for urgent measures to be taken with the mutual cooperation of public administration, Tokyo fire department, medical services, and patients. 


For everyone who is engaged in emergency medical care for the patients. T.W 9.9. 2018


Diagnostic Error in Medicine 11th International Conference  DEMへ、DEMへ、行ってみようとおもいませんか?

2018-09-06 00:52:02 | 診断エラー学

皆様

DEMへ、DEMへ、いってみようとおもいませんか〜?うふぅふぅー♫

こんにちわ。おそくらは出版会社やメディアの方もこちらをみて来てくださっているようですね。連絡度々うけ、思考やプライベートを見られているようで(もはや半分以上公開していますが)少し恥ずかしいです。

さて、最近加速的に色々なことをこなしながらも集中して本腰を入れだした仕事に「診断エラー学」があります。毎年なにかを発表していますが今年も今年初めてKaren Cosby先生が出した本を買いましたのでサインしてもらいに行こうかなと。思えば国際学会で初めて40分間のOralしたときの座長が彼女でした。今ならばなんともない発表や仕事も、研修医であったあの時は人生で一番つらかったです。。

今回の僕の演題は3つとも採用されましたのでいずれもfirstで発表してきます。当然、「Publish or Perish」ですのでガスガス 出雲國から発射します!


Malpractice Claims Related to Diagnostic Errors in Japan

 

Potential Usefulness of Virtual Reality Simulation for Learning Clinical Reasoning in Japan

 

No Doubt!! Certainly Pneumothorax!! Diagnostic Error By Intuitive Visual Diagnosis.

大会の様子 誰か一緒に行きませんでしょうか?

Karen先生の書籍、部分的に読みました。言ってる内容は頭の悪い僕がギャーギャーいっているのとあまり変わらないのですが、英語なのでとても高尚で美しい文章に感じます。

 

今回も勉強に勤しみますので(書籍執筆のために時間はすべて情報収集に)、観光はココに行きたいです!!

 


夏休み終わり。 一生使える!フィジカル夏期講座をやってきました。

2018-09-03 12:56:55 | 総合診療

 みなさまこんにちわ。夏休みも終わりました。今年は移動が多くほとんどゆっくりした記憶がないですが、それはそれで良い思い出がいっぱいです。

島根県民として必ず行っておくべき隠岐の島に2回も泊まりで行きました。ロウソク島の夕日を見るために船へ。


また、今年の夏は研修医むけに下記のコンテンツを1日かけてやりました。個人的にはこの夏の時期は色々な内容で幅広く講演ラッシュで、、、毎週1-2回やっていたのですが、一番の自信作はこちらでした。これから、ちょいちょい小出しにウチの大学の学生に還元していこうと思っています。

 

7/22(日)【研修医】「一生使える!フィジカル夏期講座」

●1 【イントロダクション】System 1とSystem 2/感度は除外のために/特異度は絞り込むために/尤度比/意味がある検査・身体所見/質問「不都合な情報と診断エラー」

●2 【呼吸器聴診編(前半)】呼吸器フィジカルあるある/高さ・長さ・時相/膜型とベル型/肺の解剖を意識する/吸気と呼気を意識する/今のうちに正常呼吸音を
●3 【呼吸器聴診編(後半)】ラ音(複雑音)はこれだけ/ラ音の解剖学的な原因/時相による分類/呼吸音の聴診は何を疑うかで使い分ける/症例
●4 【心臓聴診編(前半)】質問「何でもない人のLate Inspiratory crackles」/心音・心雑音あるある/なぜわれわれは心音が聴きとれないか?/聴診器の使い方/心音を聴けるようになる
●5 【心臓聴診編(後半)】Ⅰ音とⅡ音の聴き分け/Ⅲ音とⅣ音の聴き分け/最強点と放散の方向を意識する/心雑音の大きさを会話できるようになる/Levine分類
●6 【腹部診察編(前半)】質問「腹部聴診時に雑音を拾うときは?」/解剖学的位置と局在痛を知る/6時間以上続く腹痛/痛みの時間表現/痛みの質と場所の表現/視診・聴診・打診 これだけ

●7 【腹部診察編(後半)】最大のヤマ~腹膜刺激症状/質問「高齢者へのCarnett兆候のとりかた」「立てない方への踵落としテスト」「痛みの局在のとり方」「CVA叩打痛について」
●8 【一発診断・視診・その他編】呼吸数/「頸静脈怒張あり」からの卒業/Auscultatory percussion/爪の見かた/貧血~眼瞼結膜・手掌/ばち指/オスラー先生が指摘している肺気腫患者の特徴をフィジカル的に見てみる
●9 【Long・Shortスクリーニング】フィジカルを教えてくれる上級医がいない…/症例1「81歳男性、症候のあまりない3日間続く発熱」/症例2「呼吸苦がある」/1分スクリーニング診察/まとめ