2012年3月27日(火)
ハハのところに行ったけれど、今日は、あんまり覚醒度が良くない日なの
かなあ・・。眠そうで、でも、少し笑ってくれた・・。
細い手で、バイバイって・・。
次はきっと調子の良い日に会えますように・・。
ちょっと前までのハハのエッセイ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ある会話」
病室へ入ると、母は角度をつけたベッドに背中を預け、窓の方を見ていた。側には、
点滴のスタンドがある。また、熱が出たのかしら……。「どうしたの」と声をかけると、
母は私を見て、「ああ」と、ゆっくり笑った。額に手を当ててみるが、それほどでも無い。
「お熱は下がったのかな」
と、覗き込む私に、母は、突然、
「テンメイって、いつまで続くのかねえ」
と、聞く。
――テンメイって、あの天命のこと?
確か、天からいただいた命とか、使命とか。
そんなヤバイこと言い出さないで!
最近は、すっかり衰えた母を見舞う度に、もしもの時が近いのかと不安がじくじく湧いてくる。
そして、そう感じる自分にうしろめたさも感じてしまう。そんな私の思いにすぱっと切り込んで
きたような母に、たじたじとした。
「それはまあ、天が決めることだから、お任せだねえ」
こんな話、いったいどんな顔をしてすれば良いのかと、私は少し逃げた。けれど、私の中に
飛び込んでしまった「天命」という言葉は、私自身を内側からひんやりと照らしもする。
夫を、父を看取った後、「食事の支度も気分次第で済むし」「自分の都合で動きやすいし」
と思えるようになった一人暮らしは、「子育ても終わり、介護も終わりかけ、広すぎる家に
取り残されてしまったような」暮らしと、その影を覗かせる。今日は、お稽古事の予定も
なかったから、これが今日初めての「会話」。それにしては、重すぎる。こんなざわざわする言葉、
どうして母の口をついて出てきたのだろう?すると、母は、
「天命も、なかなか疲れるねえ……」
と、ぽつりと言った。母がこの病院に入院し、そろそろ二年になる。リハビリと点滴を繰り返す
日々にも、「早く治して、元気になろうね」と繰り返す私の言葉にも疲れはてたのだろうか。
とはいえ、どうもこうも動けないから、
「天のことだもの、お任せするしかないよ……」
と、窓の外へ目を向けながら、私は自分にも言い聞かせた。
すると、病棟の隣りのグラウンドの縁に、一本の桜の木が見えた。木々の緑の中に桜の花が
ぱ~っと輝いている。母からも見えるかと、母の顔に私の顔を近づけて確かめてみたら、
大丈夫、見える。私が、
「ほら、あそこ、桜が咲いている」
と、窓の外を指差すと、母は、
「あれ、桜なの」
と、言う。ちゃんと見えたのだ。
「そう。今年もお花見が出来たね」
去年までは、外出許可をとってお花見に連れて行っていたのだが、今年の母は体調が不安定で、
それどころではなかった。母のほうはそれ以上興味を示さなかったが、思いがけず見えた桜は、
私には天からの賜物のように見えた。
母が何か呟きだした。耳を寄せると、
「……いつでも一緒に……」
と、歌っている。ああ、「お馬の親子」だ。私は、
「ポックリ、ポックリ歩く」
と、母の声に和した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
高知では桜が咲いたというし、桜前線もそろそろ動き始めるかな?
千葉に着くのは、いつだろうか・・・。
ハハのところに行ったけれど、今日は、あんまり覚醒度が良くない日なの
かなあ・・。眠そうで、でも、少し笑ってくれた・・。
細い手で、バイバイって・・。
次はきっと調子の良い日に会えますように・・。
ちょっと前までのハハのエッセイ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ある会話」
病室へ入ると、母は角度をつけたベッドに背中を預け、窓の方を見ていた。側には、
点滴のスタンドがある。また、熱が出たのかしら……。「どうしたの」と声をかけると、
母は私を見て、「ああ」と、ゆっくり笑った。額に手を当ててみるが、それほどでも無い。
「お熱は下がったのかな」
と、覗き込む私に、母は、突然、
「テンメイって、いつまで続くのかねえ」
と、聞く。
――テンメイって、あの天命のこと?
確か、天からいただいた命とか、使命とか。
そんなヤバイこと言い出さないで!
最近は、すっかり衰えた母を見舞う度に、もしもの時が近いのかと不安がじくじく湧いてくる。
そして、そう感じる自分にうしろめたさも感じてしまう。そんな私の思いにすぱっと切り込んで
きたような母に、たじたじとした。
「それはまあ、天が決めることだから、お任せだねえ」
こんな話、いったいどんな顔をしてすれば良いのかと、私は少し逃げた。けれど、私の中に
飛び込んでしまった「天命」という言葉は、私自身を内側からひんやりと照らしもする。
夫を、父を看取った後、「食事の支度も気分次第で済むし」「自分の都合で動きやすいし」
と思えるようになった一人暮らしは、「子育ても終わり、介護も終わりかけ、広すぎる家に
取り残されてしまったような」暮らしと、その影を覗かせる。今日は、お稽古事の予定も
なかったから、これが今日初めての「会話」。それにしては、重すぎる。こんなざわざわする言葉、
どうして母の口をついて出てきたのだろう?すると、母は、
「天命も、なかなか疲れるねえ……」
と、ぽつりと言った。母がこの病院に入院し、そろそろ二年になる。リハビリと点滴を繰り返す
日々にも、「早く治して、元気になろうね」と繰り返す私の言葉にも疲れはてたのだろうか。
とはいえ、どうもこうも動けないから、
「天のことだもの、お任せするしかないよ……」
と、窓の外へ目を向けながら、私は自分にも言い聞かせた。
すると、病棟の隣りのグラウンドの縁に、一本の桜の木が見えた。木々の緑の中に桜の花が
ぱ~っと輝いている。母からも見えるかと、母の顔に私の顔を近づけて確かめてみたら、
大丈夫、見える。私が、
「ほら、あそこ、桜が咲いている」
と、窓の外を指差すと、母は、
「あれ、桜なの」
と、言う。ちゃんと見えたのだ。
「そう。今年もお花見が出来たね」
去年までは、外出許可をとってお花見に連れて行っていたのだが、今年の母は体調が不安定で、
それどころではなかった。母のほうはそれ以上興味を示さなかったが、思いがけず見えた桜は、
私には天からの賜物のように見えた。
母が何か呟きだした。耳を寄せると、
「……いつでも一緒に……」
と、歌っている。ああ、「お馬の親子」だ。私は、
「ポックリ、ポックリ歩く」
と、母の声に和した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
高知では桜が咲いたというし、桜前線もそろそろ動き始めるかな?
千葉に着くのは、いつだろうか・・・。